心が見えるなら・・・



例えば、相手の思いを・・・・
相手の考えを・・・数字で確認できたなら・・・

そんな、浅ましい考えさえオレの中で育っていく毎日。
毎日、毎日・・・少しづつ・・・少しづつ・・でも確実に・・・・
オレの心は育っていく。
新たな光を見つけた、心の枝葉は・・・・真っ直ぐ・・真っ直ぐ
相手に向かって細く・・・でも確かにその光を求めて
成長していくのだ・・・。

誰か・・・答えをくれないだろうか
この思いの先に光はあるのだろうか?
もちろん、確率は極めてないに等しくとも・・・
それでも、この広い海で・・・
しかも、四つに分断された海の中で・・・・同じ船に乗れたこの幸福
この幸運に比べたなら・・・・
もっと・・もっと・・・簡単な事・・・・

+++++  +++++  +++++

例えば、同じ船にいて共に生活している仲間と100回目が合うなら。
それは、偶然かもかしれない。
けれど・・・・
けれど・・・・
なら・・・・101回目は???
なら・・・・102回目は???

いったい何処から偶然で・・どこから故意なのだろう?
どうして
どうしたら・・・
相手の思いや・・・自分の思いを・・・はかる事ができるのだろう?

+++++  +++++  +++++

「サンジい〜、あの海は何色してるんだと思う?」
ルフィが定位置と化している、船首のメリーに跨りながらサンジに問う。
まっすぐ海を見つめたまま、その先にあるものを見逃すまいとするかのように。
その瞳はキラキラと輝いている。
食後の飲み物を船員に配って歩いていたサンジは、ルフィにグラスを渡しながら
同じように遠い海の彼方を見つめる。

グランドラインに入る前の、少し穏やかな航海。
潮風は船員の髪を梳きながら、おかしげに過ぎ去っていく。
サンジは金色の髪を風に遊ばせながら、甲板の手すりにそっと腰を下ろす。
身体を捻るように、横すわりになりながらサンジは優しく微笑んだ。
「サンジ・・・・あの海の話してくれよ・・・」
穏やかに前を見つめたまま、ルフィは優しく呟く。
大事な帽子を飛ばさぬように、そっと手で押さえて。
サンジはそんな穏やかなルフィが好きだった。
その意外と大きな手も、黒曜石のような瞳も・・・・
どこかに置いてきた、自分の少年時代のにおいがする彼。
この海の続く・・・波の続く先のどこかで・・・
いまだ誰にも見つからず・・・ひっそりとあの海がある。
そう信じて・・・・でも、小さな一歩を踏み出せず、悪態をつきながらも幸福に守られていた。

けれど、この意思の塊のような少年が手を差し出す。

さぁ!行こう!
さぁ!飛びたて!

そう、その意外に大きな手を持つ少年は簡単に、笑って言ったのだ。

探しに行こう!!

自分の途方もない夢物語を・・・彼は自分の夢の事のように目を輝かせて聞いてくれた。

早く行こう!

差し出された手は・・・夢の先を思い出させて・・・・
気が付けば・・・握り締めていた。
握り締めた手は・・・意外と自分の物と変わらぬ大きさだった。

+++++  +++++  +++++

サンジは嬉しそうに甲板の柵に寄りかかる。
その先には目指す海。
そして、さも当然と言うようにルフィがいる。
食後に配られたお茶。
最近では他の船員の好みに合わせて、一人一人違うものが出される。
オレは、渡された湯のみの茶を見つめ続けていた。
見たくない
見たくない

あんな楽しそうな顔
見たくない

壁に隠れて、二人の様子を伺う自分。
「サンジ・・・・あの海の話してくれよ・・・」
まっすぐ前を見たままのルフィ、でもその瞳はきっとキラキラと輝いているはずだ。
だって、アイツがあんなに・・・・嬉しそうにその表情を見ているのだから。
同じように遠い水平線を見つめて、穏やかに嬉しそうに笑うサンジ。
サンジ・・・
サンジ・・・

お前はあの手を取った。
あの、意外と大きな・・・夢溢れる手を・・・
その時から・・・あいつしか見ていないのを知っている。
そんな、穏やかに笑うのも・・・
あいつの前でしかしない事も、知っている・・・・
知っているのに・・・
でも、イヤなんだ・・・

気が付いているだろうか?
サンジ・・・
お前は・・・あの『奇跡の海』の話をルフィとしかしていない事。
ルフィに言われたなら、そんなに嬉しそうに・・・
そんなに楽しそうに・・話すんだな・・・
湯のみの中の自分の顔が、酷く歪んでいる。
泣くまい・・泣くまい・・そう願いながら・・・そう誓いながら・・・
それでも止められない思いもある。

醜い感情など・・知らなければよかった。
こんな、醜い自己中心的な思い・・知らなければよかった・・・。
それでも、こんなに辛くとも・・・オレは一度も後悔していない。
まだ、後悔するにはオレはあがいていない・・・
あがいて・・あがいて・・・
そして、それでもダメならば・・その時、後悔すればいい
今は・・今は・・・とりあえず・・この歪んだ顔を元に戻そう・・・


君の心が数字で見えたなら
君との心の距離が数字で見えたなら
こんな苦しみ味わう事もなかったのに
こんな苦しいけれど・・甘く切ない思い・・知らずにすんだのに
目が何回合えば脈有り
言葉を何回交わせば・・友人・・・
『好き』を何回言えば恋人・・・・
そんな風に決まっていたなら・・・オレは・・・もう・・
恋人なんか超えているに違いないのに・・・
何度・・その名前を心で呼んだろう?
100回?
200回?
いや、そんなもんじゃない・・・
1000回?
5000回
もっと・・もっと・・・休む事なく、オレの心は君を呼ぶ

何度・・君に好きと告げたろう
オレの心は休む事なく叫んでる
1000回?
5000回?
10000回?
いやもっと・・もっと・・・もっとだ・・・

そしてその言葉が、この思いが届かぬ事を知って、何度泣いたろう?
心のなかで・・心の外で・・・・
10000回?
20000回??

いやきっと・・・それ以上・・
きっと君を呼んだ回数より
きっと君を好きだと叫んだ回数より
きっと多いはず・・・

それでも、狂おしい・・・この思い
サンジがルフィに手振りも銜えて、蒼いビー玉のような
綺麗な瞳を輝かせて話をしている。

見たくない
見たくない

オレの前以外で・・笑わないで
オレの傍で笑って・・・

サンジ
君の心が・・・数字で見れたなら・・・
それこそ・・残酷な現実がオレの目の前に現れる事になるだろうか?
それとも・・・・・・・・・・・

++++  ++++  ++++

例えば、何度も目が合うのは・・・どんな時?
俺はアイツを見てるから・・・
だから、きっと目が合う確率も上がってしまう。
でも、ならアイツも・・・
ゾロも・・俺の事見てくれてる・・そんな風に思う自分が浅ましい。
『奇跡の海』
どうしてか、その話をするのは決まってルフィとで・・・。
あのキラキラの瞳を見ていると、失くしてしまった子供の頃が帰ってくるようで
居心地がいい・・・
他の誰もが笑う、俺の夢。
世界の海が集まる『奇跡の海』
一緒に探せばいいさと、ルフィは答えた。
初めて、言われた・・そんな言葉。
嬉しくて・・・嬉しくて・・・ついつい声も大きくなる。
それでも、気になるのは俺の後ろにいるだろうアイツ。

ゾロ・・・
ロロノア・ゾロ・・・
名前を思うだけで・・・
その名前を聞くだけで・・・俺の心臓は高鳴る。
けれど、その高鳴りは決して不快ではなくって・・・
どちらかと言えば・・・心地よいそんな感じ。

今、目の前で穏やかに笑うのが・・ルフィじゃなくって・・・あいつなら
ゾロならば・・・・
どんなに嬉しいだろう・・どんなに・・どんなに・・・・
興奮するだろうか?

例えば・・何回も目が合うのは・・お互いがお互いを見ている時だなんて
誰が決めてのだろう?
誰が言ったのだろう?
ねぇ?教えてよ・・・
どこから・・・何回以上目があったなら・・偶然は故意に変わるの?
どこで判断すればいいの?

一番最後に仲間になった俺だけど・・・・
初めて知った・・人を好きになるのに時間なんか関係ないんだ。
あぁ・・・こいつだ・・・
そんな感じ・・・・充足感に似た・・安堵
気が付けば、俺の目はアイツを見つめてる。

見つめて・・・
そして・・・振り向けってその背中に願ってる・・・
でも、どうか嫌わないでって・・・思ってる
最近・・・そんな風に思うより前に、ゾロと目が合うから
俺の視線に気が付いたのかな・・とか・・・・
ひょっとしてゾロも俺を見てる?とか・・・
考えてしまう・・・・こんなに苦しい思いをしているのに
かなわぬ恋だと知っているのに・・・・
それでも目が会う偶然の確率なんかを、計算してしまう自分・・・

ねぇ・・・ルフィ・・・・
本当はこうして夢の話をしている・・・・
君に向かって・・・話をしているけれど・・・・俺の目には・・・
ルフィがゾロに見えている・・・
そんな事・・考えてもないんだろうな・・・
ねぇ?ルフィ?
どうして、手を差し伸べたのがお前なのだろう?
どうして、ゾロじゃないんだろう・・・・ゾロの手だったら・・・
こんなに苦しくなかったかもしれないのに

その太陽にような笑顔が心に痛い
俺はどうして、こんなに卑怯なのかな?
ルフィと話をしているのに、常に気配はゾロを探して。

俺の声よ届いて・・・
ゾロに届くように・・・届いて・・・聞こえるように
ここに俺がいる事、気が付いているかな?
少しでもいい・・・少しでもいいから・・・
俺の存在を気にして欲しい。

だれか、教えてよ。
だれか、俺に言ってよ・・・
どうしたら、人の心を知ることができるのだろう・・・

生きている・・・全ての人の心じゃなくてもいい
たった一人の心でいいのだ。
しかも心の全部でなくてもいいのだ。
たった一人の
たった一つの事・・・
アイツが・・・ゾロが俺の事をどう思っているのか・・・
それだけが・・・知りたいだけなのに・・・

++++  +++++  ++++

夕焼けが目に染みるほどの空。
甲板で佇む、その姿。
昼間は楽しそうに笑っていた、その姿を思い出す。
夕食の段取りがひと段落したのだろうか、真正面から夕日を浴びて。
その綺麗な髪を風に遊ばせて・・・紫煙を燻らせる、その姿。
その真っ直ぐな姿を、どれだけ好きだと思ったろう。
まっすぐ、光に対峙するその姿。
なんて綺麗で、なんて潔い・・・
狂おしい程の・・・その姿・・・

そっと、近づいて・・・
そっと、歩み寄って・・・
誰か・・・誰か・・・・
教えてくれ・・たった一人の人間の・・・たった一つの事が知りたいだけなのだ・・・
でも、今はとりあえず・・・先のない海に光を与えよう・・・
超えられなかった一歩を・・・
君に近づく事・・・それだけでいいのだ・・・

「・・・サ・・・サンジ・・・・」
振り返って・・・笑ってくれなくていいから
振り返ってくれるだけで・・それでいいから・・・
どうか、逃げないで・・・

ゆっくりと、金色の髪がふんわりと揺れる。
夢にまで見た、その輝きは夢以上の美しさと・・・
夢以上の幻想のようで・・・・
キラキラ
音がなるようだった・・・・

「・・・ゾロ?」

名前・・・
名前・・・・・
その名前を穏やかに・・でも驚いたようにサンジが呟く
ただ、名前を呼ばれただけなのに、それだけなのに
こんなに、こんなに・・・心が踊る。

さぁ。
新たなる一歩を・・・・
どうか、君に届きますように・・・・
「あのさ・・・『奇跡の海』でもこんな夕日がみられるかな・・・」
できるなら、その時まで君といたい。
できるなら、その後も君といたい。

サンジの蒼い瞳が少し開かれ・・・そして・・・・
あのキラキラと輝く瞳に変わる。
あぁ・・その顔が見たかった。
ルフィの前でしかしないその表情、大人と子供のその合間で・・・
微笑む穏やかな君の顔・・・

「・・・・『奇跡の海』・・・・オールブルー・・・・・って知ってるか?」
「少し・・・・お前が話すのを聞いた・・・」
「そっか・・・あのな・・・その海は・・・・・」


長い
長い
話をしよう・・・1000も10000も・・・
もっともっと・・多くの言葉を交わそう・・・
そして、少しづつ近づいていけるといい

「・・・てわけ・・・あ・・っともう飯の支度しないと・・・」
「もう、そんな時間か・・・・」
「・・・あ・・・ゾロ・・ありがとな・・話聞いてくれて・・・・」
サンジの顔が紅いと思うのは夕日のせいだろうか?
少しはにかんで、礼を言うその姿も眩しく思う。
パタパタと駆けて行くサンジをひきとめたくて・・・
言葉が零れた。

「・・おい・・・俺が大剣豪になったら・・・オールブルーの食材で祝ってくれよな!!」

驚いた顔をしたコックは、真っ赤になりながらうなづいた。
これも、夕日のせいだろうか?
できるなら・・・・
大剣豪になった後も、君といられたらいいのに・・・・
そう思って、海を眺めて気が付いた。

とっくに夕日は沈んでいて、あたり一面墨を落としたような真っ黒な世界。
あの紅い顔に少し・・・自惚れてもいいだろうか?

++++  +++++  ++++

できるなら、君の心が見えればいいと思っていた。
できるなら、自分を好いてくれてるのか知りたかった。
でも、今は・・・今は・・・・
わからないのも楽しいのかもしれない。

こんな風に、何気なく見られるお互いの表情や・・・・
つい出てしまうような、何気ない言葉に・・・・
心が躍る楽しみがあるのなら・・・・


〜fin



<コメント>

茜ちゃまのサイトより50000打記念SSと言うことで頂いてきましたvv
気持ちが、通じる前の二人の想い、もどかしいほどに・・・
なんでこんなに優しくて繊細なSSが書けるんでしょうか・・・(脱帽)
・・・それは、やはり、書く人の人柄&登場する二人の性格の違いだな。
だはは、うちのゾロサンは、こんな繊細な性格は持ち合わせてないか・・・
ゾロ&サンジ:「てめえもだよ!」 はい、その通り・・・(-_-;)
こんな素敵なSSがある茜ちゃまのサイトは、
こちらから、飛べますですよ〜っv

<treasure>   <index>