幸せなんです・・・





一人小さな明かりの下
キッチンの片隅、外は暗い
夜の帳が下りたのは・・・随分と前の事
一人小さな明かりの下

それだけが俺の唯一で
小さく小さく・・・俺は遠い恩人を思う

ずっと側にいると
ずっと店を守っていくと
そう誓って・・・
本当は夢があったけれど
本当は見たい海があったけれど

俺には夢よりも
貴方の側にいる事が・・・
ずっと大事な事だと思っていたから

でも、気が付けばこんな海の真ん中で
俺の唯一は
小さなこの明かりだけ

暗い夜の中に
もう自分の存在を見つける事は困難で
一人で杯を傾けている


元気にしていますか?
身体は壊してはいないでしょうか?
皆、怪我などしていないでしょうか?
荒っぽい連中ばかりだから
海賊もたくさんやってくる店だから

貴方の側にいない
年の暮れは初めてで・・・
貴方が心配でなりません

救ってもらった命と
受け継いだ夢と
その重さにたまに潰れそうになるけれど
やはり俺は貴方が心配でなりません

大切な人
同じ空の続きにきっと貴方も・・・
酒を飲んでいるのだろうかと・・・
そんな奇跡を願っています

俺には・・・・
本当は・・・・明かりが別にあるけれど
それはまだ、貴方には言えません
許しを得たいとか、そんな事ではなく
少しまだ・・・不安だから
俺はもう全てをその明かりに捧げているけれど
明かりは気まぐれで・・・他の影を映してしまう事だって
あるかもしれない・・・・不安で・・不安で・・・
確かなものを得られていないから
まだ、貴方には言えません

けれど・・俺は幸せなのです
それだけ・・どうか・・それだけは信じて下さい

この年が
あの人と出会えた年であったことが
俺の最高の幸福なのです


来年は・・・
あの人と・・・ともに生きていける一年であってくれたら
それだけで・・・・十分です

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「寝ないのか?」
キッチンに顔を出す、愛しい人
小さな蝋燭の明かりだけでいる俺に、ゾロは少し顔をしかめる
「電気つけろよ・・・暗い・・・」
天井からぶら下がる明かりにゾロが手を伸ばすのを
そっと止めて・・・・
俺はゾロに向かいに座るよう目で合図をする。
俺のそんな態度に何処か釈然としない様子。。
それでも、優しい瞳で俺を見つめて向かいに座ってくれる
その優しさ・・・


あぁ・・こんなにも俺は君を好きで
側にいたくて・・・
全てと思っていた恩人の下から飛び出した
君の凄まじい信念に
最初は惚れこんで・・・俺にもあんな風に生きていく事は
出来るだろうかとそればかりで・・
いつでも君をこうして見つめていた。

見つめ返してくれる事
そんな事は望んでいなかったけれど
ただ、君の行く先を見届けたいとそう思って
気が付けば・・・・
大切な人の側を離れて
こんな海までやって来た

そして、いつから君は俺の視線に気が付いていたのか
それとも
君も俺を見ていてくれていたのだろうか
いつからか・・・
君を見つめていた視線が・・・
君の視線とぶつかる事を知った

最初は自分のあからさまな視線に
君が不快感を感じているのだろうと
自分の浅ましさを呪った
見つめるだけで
君の夢の先を見届けるだけで・・・
それだけを望んでいた視線は
いつしか・・・ずっと・・・ずっと・・・
とそんな浅ましい願望をのせていて・・・
君は敏感に気配を感じる人だから
きっと俺の視線の意味に気が付いていたのだろう・・・
だから




だから・・・・



俺は見るのを諦めた
いつでも・・・いつまでも君を同じように
見つめる事が困難な事だと気が付いたから
だから・・・・




俺は・・・・君を見るのをやめたんだ




だって・・・・仲間と言う居場所だけは
確保していたかったから・・・




無言で見つめる俺にゾロは
少し苦笑して・・・大きな手で俺の頬を撫でる
この無骨な剣士手が・・・
凄く優しく動く事
それが俺に触れているからなんて・・・・
少し自惚れてもいいだろうか

だって・・・
君は俺を抱くけれど・・・・
俺は君に抱かれるけれど
君の心は俺の側にはないかもしれない
だって・・・・
一度も・・・・君は俺を好きだと言わない
だから・・・俺も言わない
君を好きだけれど
君が好きだから・・・・・君を煩わせることが不安なんだ




だからさ・・ジジィ・・・
俺は今幸せだけれど
まだ言えない・・・・だって・・いつこの目の前の男が
俺から離れていくかわからないから・・・
だからさ・・・言わない・・・
ジジィに心配して欲しくないから
言えないんだ・・・・

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「何を考えてる?」
「別に・・・たいした事じゃないよ・・・今年も終わりだなって
それだけ・・・」
俺のグラスに残った酒を、ゾロは遠慮なしに飲み干す。
そんなわずかな行為も好きだと思う。
「早かったよな・・・・」
「あぁ・・・大丈夫か?」
「どうして?」
「いや・・・お前ってさ・・あのレストランの連中と毎年騒いでそうだろ?」
「そう・・・年末は忙しくてさ・・・でも年が終わる頃には内輪でワイワイやってたな・・・」
くすりとなぜか笑いが漏れる。
いつもそう、忙しい年末を乗り切って俺達コックだけで騒ぐ宴会が楽しみで・・・。
その時は・・・ジジィも穏やかに笑って俺の頭を撫でてくれる。
一年で最高のご褒美・・・・
あの大きな優しい手が・・・・すごく懐かしい・・・・
ジジィ・・・・・
皆・・・元気で生きてるか?


「・・・・帰りたいか?」
「ほえ?」


ゾロの突然の言葉に驚いて顔を上げると・・・・
ソッポを向いた・・・・大好きな顔。
おかげでその表情が見えない。

「帰りたいのかよ・・・あの船に・・・」

そっぽを向いた顔から同じ言葉。


「別に・・・そういうわけじゃ・・・」






そう答えたのに・・・なぜか少しギクシャクして
帰りたいけど・・・
君がいるから・・・帰れない・・・
君が・・・・・一度でも離れたら俺の事忘れてしまいそうで
怖くて離れられない・・・

「一人では帰さねえ・・・」
「何?」

「一人ではアソコに帰さねえって言った」




真っ直ぐにオレを見つめるゾロ・・・。
その瞳が凄く真剣で・・・でもどこか不安そうで・・・


「帰るときは『あいさつ』する時だ・・・・あのジイさんに・・お前を下さいって・・・
ちゃんと『あいさつ』する時だけだ・・・だから一人では帰るな・・・・」

何?
今のは?


俺は言われた事がわからなくて黙ってゾロを見つめている。
反応がない事にゾロも少し困っているようで・・・・
苦笑すると、俺の側に立った。
やけに静かな夜で。

明かりは蝋燭だけで・・・・

キッチンには二人だけ・・・

もう少しすれば・・・
年が明ける・・・

優しい瞳がオレを見つめている。
何が起こっているのか・・・
俺自身にもよくわからなくて・・・


ゾロの言葉だけが耳に響く


「ちゃんと好きだからな・・・・愛してるからな・・・
だから・・・ちゃんとあいさつに行って・・・お前を側におきたい・・・
お前に側にいて欲しいんだ・・・ダメか?」


抱きしめられた腕の中
心臓が鳴っている
俺のかな?
それとも・・・ゾロの?


「サンジ・・・・俺と一緒にずっと生きて行くのはイヤか?」


あぁ・・・ゾロも不安なんだ・・・俺と同じくらい・・・
きっと同じくらい
ゾロも俺の事好きでいてくれているんだ


そう思ったら・・・
涙が止まらなくて
この広い世界で・・・・
こんなに
人のいる世界で・・・

出会った事だけで幸せだった
仲間になれて幸せだった
君の行く末を見ていられて幸せだった



そして・・・・君と視線が合う事が幸せだった



でも・・・君と生きていける事は
考えていなかったから・・・・
君ととも残される事なく死んでいけたら
もっと幸せかもとか・・・・・



なぁ・・ジジィ・・・
俺凄く幸せなんだ
ジジィの側を離れるのは
みんなの側を離れるのは辛かったし
凄く淋しかったけど

ジジィと一緒に店できないことが悲しかったけど

夢を追いかける事が出来て
そして・・・・
この人に出会えて・・・・

凄く幸せなんだ・・・
きっと近いうちに会いに行くよ
愛しい人と
夢の在り処を携えて・・・・

だからジジィも来年じゃなく・・・
ずっと
ずっと・・・
元気でいてくれよな・・・・







「ばか・・・・嫌なわけない・・・」
しがみついて
ゾロの首に腕を回して
その優し過ぎる唇にキスをして




時計の針と同じように二人
重なり合った


どうか・・・
いつまでも
いつまでも・・・
こんな風に抱き合えますように


Fin




<コメント>

茜ちゃまのサイトよりお正月企画で頂いてきましたvv
本当に、優しくて、サンジのゼフに対する手紙といったところでしょうか。
格好良いゾロと優しいサンジ・・・・凄く雰囲気が、あるんですよね・・・・
こんな素敵なSSがある茜ちゃまのサイトは、
こちらから、飛べますですよ〜っv

<treasure>   <index>