万回の星の輝きを



一万回の星の瞬きを。
そんな、歌を突然思い出す。



七夕

一年で一度恋人に会える。
そんな伝説の日。

夏島に滞在中のゴーイング・メリー号の乗組員は、ちりぢりに街に
いた。
ゾロはいつもの如く、鍛冶屋を探して迷子になっていた。
案外大きな街は、とても入り組んでいて。
いつの間にやら、細い嫌な雰囲気の筋へと入ってしまったらしい。

酔いつぶれた人間も
投げ出されたゴミも・・
何もかも街の汚れが集まっている。
そんな、場所だった。
別にだから早く抜け出そうとか、ゾロにそんな考えはなく。
ただ、早く腕のいい鍛冶屋を探したい。
それだけだった。
今の船に乗る前は、こんな場所で生活もしたし。
こんな場所の方が落ち着く頃もあった。
東の海で。
『魔獣』と異名を取っていた頃。
ただ、数多く戦えば。
強くなると、信じていた頃。


あまりにも、暗い・・光とは無縁の
世界にいた頃・・・




懐かしさすら、感じるすえたにおいの中。
立ち止まって、先ほど渡されたメモを見た。
『この街一番の鍛冶屋は?』
そう聞いて、帰ってきた名前は皆同じで。
ゾロはその人物に会う為、裏路地へと入ってきた。
何故か、何度思い出しても
その人物の名前が覚えられないが、
この手に、行き場所の地図を持っているのだ。
ゾロはたいした不安も抱かなかった。

船を朝早くに出たのに、今は昼過ぎ。
これでも早く着いたとゾロは、頭上の看板にニヤリと笑った。
看板には文字が書かれている。

しかし、その文字は光のせいか
薄汚れているせいなのか・・・
ゾロには読めなかったが
間違いなくココだと言う確信だけがあった。





目的の店に入って。
その暗さに驚く。
昼間でも暗い路地裏。
それよりもさらに暗い店内は静まり返っている。
「誰か、いないのか!!」
ゾロの声が響いて、奥から若い男が出てきた。
サラりと零れる黒髪の、目元涼しげな男。
ゾロは、年老いた老人が出てくると思っていたので少し驚いた。
「何か?」
深い藍色の、ゾロの故郷でよく見かけた着物に似た服を身に纏い男が尋ねた。
「・・・あぁ・・刀を・・・見て欲しい・・」
まるで時間の流れが違うかのように、男は音も立てずにゾロの前に立って手を差し出した。

(・・・・金色の・・・目だ・・・)

近づいて、男の目が金色なのを知る。
この深い闇の中も、こんなに鮮やかな瞳なら・・・とバカな事を考えた。
「街で聞いたら・・・みんなアンタの名前を言った。この街一番の刀 鍛冶だと・・・」
やはり、何度も聞いたはずのその名前は思い出せないまま・・
腰の三本全てを、差し出された華奢な手に預けて。
ゾロは言葉を紡ぐ。
何か話していないと、このあまりに静かな時間と闇に飲み込まれそうだった・・。
「・・・・かしこまりました・・・貴方の大切なものお預かり致しましょう・・・・私は刀鍛冶・・・・・・。小一時間もあれば出来上がりますが・・・・どうされます?」
名前だけが、聞き取れない。
少し、違和感の感じながらもゾロは安堵する。
あまり、時間がない。
早く船に戻らねば、あのコックが怒り狂うだろうから。
「ここで、待たせてもらっていいか・・?」
「結構ですよ・・・」
「じゃ・・頼む・・・」






なぜか、出された茶を飲むのをゾロは躊躇った。
喉は渇いているはずなのに。
今頃になって、
頭の後ろで、警告が鳴っている。
サンジの事を考えると、突然沸き起こった警戒心。
おかしい・・
なぜ・・警戒しなかった?
しかし、それはあまりにも遅すぎる警告音。


        忌々しい・・・
        忌々しい・・・


「眠っていて、結構ですよ?」
突然の睡魔に襲われたゾロに、甘い声が囁く。
おかしい・・。
ここは・・おかしい・・・



            口惜しい
           忌々しい・・・


この暗さも
この目の前の男も・・・
何かがおかしい・・・
他人の前で・・・決して眠ったりはしない
いつ襲われるかわからない。
そんな生活をして来たのだ。
おかしい・・
この闇はなんだ?
何故こんなに暗い?
窓から・・・光が・・・



 
          幸福なんて・・・
           幸せなんて・・
          忌々しい!!!!


光が入って来ない?
何故だ・・・・。




突然、周りの景色が溶ける。
闇に景色が溶ける。
そして、遙かな闇が・・・
ゾロを包みだす。



コレは・・・
コレは・・・
この闇は・・・・



闇の正体に。
ゾロは愕然とする。



           一緒にいられる
           一緒に・・・!!
             何て・・・
       なんて・・・忌々しい!!!!



死を感じて、頭に浮かんだのは。
金の光
蒼の輝き・・・。



愛しい・・・
置いていくのか・・
このまま。
訳もわからず。
何も残さず。
愛しい存在を・・
残していくのか?




最後の足掻きが・・・友との約束でも
己の夢でもなかった事に
ゾロは苦笑しながらも・・・


サンジ・・
サンジ・・



何度も名前を呼ぶ。
その名前を・・・
愛しいと
同義語の名前を・・・


         忌々しい
     私はコンナに不幸なのに
          なぜ
          なぜ?
         忌々しい


闇の中から、声がする。
敵意
羨望
悪意

全てをゾロは感じて
なんとか身体を闇から引き出そうと暴れる。


             光を・・
            光を・・・
       貴方の一番の輝きを!!




突然別の声がする。
先ほどのものとは違う。
男の声だと、ゾロは確信した。
先ほどの声は、女の声・・・。



            光!!
     貴方の一番の輝きを掴んで!!






そんなの決まってる。
暗いオレ心を光で照らしてくれる。



一万回の星の瞬き。
そんなもの以上に明るい。
確かなオレの光・・。






金色


蒼色


真珠色


全てが光り輝く・・・・サンジ・
オレを闇から・・深い闇から・・
その笑顔だけで救ってくれる・・
サンジ・・
サンジ・・・
オレの光・・・
オレの・・光・・
光・・・オレの・・









オレだけの光・・





















































ザワザワと喧騒がゆっくりと耳に入ってくる。
ゾロは細い路地に、立っていた。
腰にはしっかりと三本の重み。
腕も足も・・・なんともない。
周りは相変わらず、薄っすらと汚れた。
ゴミ溜めのような場所ではあったが・・・。
あの、闇の暗さを思えば・・・・。
明るいものだった。



「ゾロ!!」
背後で声がした。
振り返ると、サンジが路地の入り口で手を振っている。
入って来ようとする所だった。
「待て!入るな!!サンジ!!」
大声で、サンジの動きを止めて。
自分が裏路地から出る。
サンジはビックリしたように、ゾロを見ている。
「お前は・・入るな・・・」
「何?」
「いや・・・腹減ったな・・・帰るか」
サンジの手をそっと握って、その甲に唇を落とすとゾロは一人歩き出した。
遠く、サンジの追いかけてくる足音と。
声を聞きながら。










サンジ

お前は・・
光溢れる下を歩いていけばいい・・
眩しい程に輝いて
いつまでもいつまでも・・・オレを救う光でいて欲しい。
一万回の星の瞬き。
そんなものに負けない明るさで・・・
どうか・・いて欲しい。    







二人しかいない夜。
天に横たわる星に、ゾロは歌を思い出した。






一万回の星の瞬きを
いつか出会う時の為に

一万回の星の輝きを
お互いを間違えない為に


一万回の星の輝きを




貴方が一人にならないように
貴方が迷わないように




一万回の星の輝きを
一万回の微笑みに変えて
一万回の喜びに変えて




貴方に送りましょう
いつか会う貴方の為
いつまでも一緒にいる為に



一万回の輝きと
一万回の愛と
一万回の一瞬を・・・




全てを貴方に捧げる
その時の為に














今夜は快晴。
目の前には大きな天の川。




両岸のふたりはきっと遭えただろう。
たった一回の逢瀬。

オレだって・・もしそうなったら・・
幸福な恋人達を襲うかもしれない
だから、今回は・・・
許してやるさと。
ゾロは苦笑いを一つ。


どうしようもない流れもある。
それを、運命だとか
さだめだとか・・
そんな言葉で飾らなくても・・
きっと、生まれていた意味を
見つける為の

その流れはあるのだろう。
流れに逆らって・・・・
闇に堕ちるか
流れに逆らわず
光の道を歩くのか・・・


どちらが正しいとは言えない

今はなくても、近い未来かあるいは遠い未来に必ずある。
答えがどうなるか・・
今はわからない
遭えなくなるかもしれない
死んでしまうかもしれない




だから、今を大切にしなくては。
キッチンの明かりはまだついている。

今夜は七夕。

恋人の逢瀬の夜。

静かに二人で酒を飲み交わす・・・
そんな時間もたまにはいいかもしれない・・
昼間、死にかけた話もしてやろう・・・
きっと
笑い話でおしまい・・・
それでいい・・・
こうして生きているのだから・・。


まだ、その大きな流れの分岐点は見えてはいない
まだ、何がそこに用意されているかはわからないけれど
取りあえず、今を大事に生きなくては・・・



突然、腰の刀が輝いて。
すぐ、元に戻った。


鞘から抜いた刀身は、どれも新品同様に輝いていた。
「サンキュ・・・」
天の川からの贈物に、
苦笑しながらゾロはサンジを呼びにキッチンへと向かうのだった。






























一万回の喜びを
一万回の悲しみを
一万回の笑顔を
一万回の涙を・・・



その先に・・一万回の星の瞬き・・
途方もない数
けれど、全ては同じ
一つ


『一つ』の集合体


なんてちっぽけで、
なんておおきいんだろう


最小
最大の
喜びを、二人で超えたその先に
きっとさらなる光があるはずだから・・


一万回の星の瞬きを
二人で
一つずつ
数えて行こう・・・
二人で一緒に数えて行こう・・・




<END>







<コメント>

いかがでしたか? さすがは、茜様。ちょっとシリアスな素敵なお話でした。
私もこんな素敵なお話書けると良いな。。。と、真剣に思う今日この頃です。

こんな素敵なお話が一杯の茜様のサイトは、
こちらから☆



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