キスから始まる日常、非日常





 






「いい加減起きやがれ!クソマリモ!」

ドカッとソファで未だ夢の中の住人の鳩尾目掛けて膝頭一発・・・多少手加減は加えて。

ついでに毛布の上から奴に覆い被さる。

「おはよ・・・ぅッ?!」

言葉も言い終わらないうちに塞がれた唇に慌てて身を捩るが、時既に遅し・・・

ったく、こう言う時だけは素早いんだよな。

チッと舌打ちかまそうとしたら、そのまま舌を絡め取られた。

おいおい、朝っぱちから、何サカッてやがんだ、このケダモノは・・・

毎朝、付き合わされる俺の身になりやがれ、っつーんだ。

と、奴に文句言おうにも、お構い無しに侵食されるような口付けにだんだん意識がそこに集

中し始めて・・・

やばいなぁ、と思う頃には奴の手が俺のシャツのボタンに伸びてて、俺慌てて奴を引き剥が

す。

途端に俺の腰に回した奴の腕の力が増した。

「・・・・今、スルんなら、当分てめェにゃ、近づかねぇからな。」

間髪居れずに、冷ややかな声でそう告げる。

これ以上触れられたら、堪んねぇ・・・

ただでさえ、まだ昨夜の余韻が身体のあちこちに残ってるって言うのに・・・

「んー・・・? クク・・・当分?」

俺の思考を見透かしたような視線で口角僅かに歪める程度の笑みを浮かべ、人の表情を覗

き見る。

「と、当分だ!」

その視線に耐え切れずに瞳を閉じて、再びそう告げる。

「んじゃ・・・今、ヤラなかったら、今夜も、だな・・・」

不意に耳元に感じた吐息に、慌てて耳を塞ぐ。

「なっ、な・・・なに・・・何を・・・」

心臓がバクバクとウザい。

上がった心拍数に反比例して言葉が巧く出てこなくなる。

比例したのは、上ずった俺の声と・・・・紅潮してるであろう俺の頬だけ・・・

「っざけた事抜かしてねぇで、さっさと起きて飯食えやっ!!」

そう怒鳴って、奴の顔面に腹いせ混じえて蹴りを入れ、そそくさとその寝室を後にした。

 

「・・・まったく・・・いつも、これだ・・・」

部屋を出てキッチンへ向かい、食事を温め直す。

ふと・・・唇に触れてみる。

奴の感触がまだ・・・・残ってる。

・・・・・ヤベェ・・・

いない筈なのに、感触だけはそのままで・・・ゾクリと背筋が粟立った。

どんだけ欲しがりなんだ、俺は・・・

湧き上がった感情に苦笑しつつ、料理の仕上げに掛かる。

賑やかなクルーたちの足音が聞こえ始めた。

さて・・・切り替え、切り替え。

「おはよう、サンジくんv」

「おっはようございま〜すvv ナミすわんv 今朝も麗しい〜vv」

「ああ、あたし、オレンジアッサムねv」

「かしこまりました〜〜vv」

やっぱ、朝はこうでなくちゃ。

「おはよう、サンジ・・・」

「おう! なんだまだ眠そうだな? ぅし!チョッパー手伝ってくれ!」

「うん!!」

おー・・・可愛い、可愛い・・・家族って、きっとこんな感じだよな。

俺の癒し空間だ。なんてほわっとしてると次の声・・・

「よぉ! 今朝も元気か?諸君!! ところで俺の飯はどこだい?サンジ君!」

「ハイハイ、今出すから、とっととそこに座っとけ。」

クソ・・・もう来たか。

俺のほんわか朝はもう終わり・・・

「サンジィー・・・腹減って動け・・・」

「座ってねぇといつまでも食えねェぞ。」

「煤I!座った! ほら!座った!!飯だ!飯!! めーし!めーし!!」

「・・・じゃかましわっ!!」

苛々もピークに達した頃のルフィの飯コールに堪らず、踵を奴の頭目掛けて振り下ろし、奴を

黙らせる。

「おはよう、コックさん。今朝も賑やかね?」

「あ、おはようv ロビンちゃんも相変わらず素敵な笑顔だ〜v」

クスクスと素敵な微笑のロビンちゃんに少し持ち直して、いそいそと配膳に取り掛かった。

俺が作った飯で、皆が集まって騒いで・・・俺にとって一番充足した時間が過ぎていく。

そして・・・・いつものように、皆居なくなった後、奴がのっそりやってくる。

「ったく、毎朝、毎朝・・・一緒に食えよな、いい加減・・・片付けできねェだろが・・・」

背後に立った気配に、そう吐き捨てて振り向きざまに奴へ皿に乗せた飯を差し出す。

「ん・・・はよ・・・」

未だ覚醒には程遠いのか、素直に返事する今瞳の前に居る奴は、すこぶる可愛い。

同じケダモノでも、今は仔豹ってとこだな。

「おう! はよーさん!ほら、食え。」

気分は飼育係のお兄さんってとこだ。

奴の額に軽く口付けて、座るように促す。

「おう。 その前に・・・」

唇から煙草の感触が消え、スッと唇を何かが掠めた。

「おはようのキスだな・・・」

かぷかぷとじゃれつくような口付けの合間に舌先でその輪郭をなぞられる。

身を捩って逃れようにも背にはシンクが邪魔をする。

力の抜ける腕で必死に左右の掌にある皿を落とさないように体勢を保持するのが精一杯。

「っばっか・・・止め・・・・ッん・・・」

抗議の為に開いた唇に容赦なく奴の舌が滑り込んできて・・・呆気なく言葉を制された。

しつこく口腔内を弄られ、絡んだ舌先に嬲られて・・・煽られる様に奴の舌先を吸い、混じり合

う唾液を嚥下し、水音が立つのも構わず互いの口付けを貪った。

時間の感覚も場所の感覚も呼吸のタイミングも見失い、交じり合った口腔内でどろどろに蕩

けていく。

「ッ・・・ぁっ・・・んん!!」

気の遠くなる感覚に慌てて顔を振り、奴の唇から逃れる。

「ッ・・・はぁ・・・っ・・・殺す気かっ!!」

新鮮な空気を肺一杯に入れて、俺は奴に罵声を浴びせる。

脳がまだクラクラする・・・立ってらんねぇ。

よろける身体をシンクに預け、滲んだ涙をそのままに睨み付けた。

「クク・・・んな面で言われてもな。 テメエだってノリノリだったじゃねェか。」

したり顔でそう言うと、奴は料理が落ちそうな皿を事も無げに俺から奪い、さっさと席に座って

食べ始めた。

悔しい・・・・いつもいつも・・・・

腸が煮えくり返るとは、正にこの情況。

言い返せねぇのが更にムカつく。

「・・・・見てろよ、このエロマリモ・・・」

奴に聞こえねェように小声で呟いて、俺はリベンジを決意した。

 

 

 

朝起きると、奴はもう居ねェ。

コックだしな・・・それは仕方ねェとわかっちゃ居るんだが、抱き締めていた温もりがなくなる

のは少し物足りねェ。

だから、待つ。

奴が起こしに来るのを、気取られねェように待つ。

ま・・・半分以上は本当寝ているんだが・・・

うとうとし始めた脳内に聞きなれた靴音。

奴が近づいてくる・・・煙草の匂いと共に。

軋むソファに慣れた奴の重み、すかさず唇を塞いで、腕の中に捕獲。

じたばたと暴れる痩躯がキスの長さに連動して大人しくなる。

渇いた唇、未だ慣れぬ苦味すら感じるのに、奴の唇は心地良くて、ずっと重ねていたい衝動

に駆られる。

そして・・・閉ざされた瞳が再び開く時、潤んだ瞳に俺しか映っていねェってのが堪んねェ。

奴の、あんな惚けた表情ってのは、俺だけ見れる特権。

んな特権、毎日、何度でも味わいてェって思うのは、俺じゃなくても、だろう?

奴の言い分は違うらしいけどな。

まぁ、俺も本気でヤル気は・・・・ヤル気は・・・・ヤル・・・・

やべぇ・・・・ヤリたくなっちまった。

昨夜もヤッたのにな・・・なんでこう、キスだけで穿っちまうのか。

舌先に集中する熱とは別に下半身にも伝わる熱。

本能の赴くままに指先で奴のシャツのボタンを外す。

途端に逃げを打つ痩躯に冷ややかな声。

やっぱ、朝からは無理だよなぁ・・・奴の仕事の邪魔になる。

そこを強引に押し通せば、きっと奴は・・・・

わかっているから、それ以上は断念する。

その代わり、次の約束を取り付けて・・・

俺を蹴りつけて、幾分か火照った頬を隠すように出てく奴は、すこぶる可愛い。

さてと・・・もう一眠りすっか。

 

甲板からルフィの声・・・邪魔者は去ったか。

頃合を見計らって、奴が居るキッチンへ入る。

一仕事終えた充足感からか、奴の声は明るくて、同時に鼻に届く美味そうな匂いに素直に

声が出る。

振り向いた奴の表情に唇が真っ先に俺の視界に飛び込んできた。

朝の余韻か、まだ薄っすらと朱い唇。

欲しくなった。

少し前に味わったばかりなのに、俺の脳内には、あの感触しか思い出せずに・・・

飯の前に、その唇に惹き寄せられた。

硬直する痩躯に狼狽る表情。

舐め取る口腔内に反応を返した奴の舌。

絡み合う舌先に奴からの熱が水音と共に届く。

これ以上は・・・やばい。

俺にだって理性の限界位感じ取れる。

まだ陽が高いこの時間から奴と篭ってたりしたら、他のクルーが黙っちゃいねェだろう。

かと言って、途中で止められる程の余裕も、もう残り僅か。

なんだって、こいつのキスはこんなに煽情的なのか。

薄れる理性を目の当たりに、そうさせる奴に腹が立つ。

無意識に誘ってる面は止せ、って・・・

そうやって、俺を翻弄して喜んでいるんじゃねェかとすら思えてくる。

いつ何時も冷静にして不動なる精神の強さ・・・そう心掛けている筈なのに。

今の俺ときたら、まるで・・・・サカりのついた猿でもここまでは・・・

いや、猿なら、こんな煽情的なキスに溺れたりしねェか。

急に離された唇に、悔しいような勿体無いような、良かったような、複雑さ。

それでも、これ以上触れていれば、どうなるのかは予測できたので、奴の掌から皿を奪え

ば、そのままテーブルへ移動した。

修行、修行・・・溜まった体内の熱を発散するには、まず身体を動かさねェとな。

奴のキスがありゃ・・・俺はもっと強くなれ・・・そうな気がする。

 

余談・・・

「なんだ、この写真はっ!!!」

「い、いや、でも、この写真しか奴の顔が映っているのが・・・」

「ロロノア・・・」

とある海軍基地で入手した写真を手にワナワナと震えるスモーカー大佐。

その写真には、外聞も憚らぬほどに深い口付けするコックと剣士の姿が・・・

「ス、スモーカー大佐・・・」

尋常じゃないその表情に怯える海兵を尻目に、スモーカーは怒声を発した。

「ちょっと貸せ!その写真!!」

「あ、何を、大佐?! 大・・・佐?」

唖然とする海兵に、何やら描き始めたスモーカー大佐。

「これを本部へ回しとけ。」

「こ、これをですか・・・」

「良いから、とっとと送ってこい!!」

「イ、イエッサー!! はい!わかりました!」

バタバタと指示されたままに、部屋を出て行った海兵。

数日後・・・麦わら一味の全員の手配書が配られた。

 

「・・・・・悪かった、金髪の・・・・」

己の刹那的な激昂のまま落書きした失態に、そっとコックに詫びるスモーカーの姿があった

とか、ないとか・・・そこまでは定かではない。
 

 



<fin>

 



<コメント>

無断リンクのお詫び(ぇ?)に久しぶりに、本当どれくらいぶりだろう、文ってもんを書いてみました。
お題は「キス」って事で・・・・
やっぱり、まだまだ修行が足りないなぁ・・・自分の文の拙さにへにょ・・・(笑)
こんなもんでもよろしいんでしょうか・・・(おろおろ)
大好きな貴女へ・・返礼も兼ねてv ケムリンはサービスです。(爆)
描いてくれるんだよね?挿絵・・・(にっこりv)