Innocent world




Innocent world



 




「いよう、お疲れ!サンジ! 久しぶりだなぁ。 どうだ?一杯?」

会社の同僚のエースがそう言って声を掛けてきた。

「・・・わりい、また今度誘ってくれや。 今日、俺、先約があるんだ。」

俺はエースの誘いを断って、待ち合わせの場所へ急ぐ。

そう・・・・今日は、ナミさんとのデートの日。

この一ヶ月、口説きに口説いて、やっとこさ、デートまでたどり着いたんだ。

そんな日に、どうでもいい同僚と付き合うほど、俺は馬鹿じゃない。

程なく、待ち合わせの公園に時間より少し早く到着した。




こうやって、女性を待つのは何ヶ月ぶりだろう・・。




初めてするデートようにそわそわして、顔がにやけてくる。

目印の時計台の下に、これからのことを考えてボーっとしていたら、不意に誰かとぶつかっ

た。

「あっ、すみません・・・。」

「いえ・・・こちらこそ、ボーっとしてたから・・・。」

互いにそう謝って、顔を上げる。

短く刈り上げた緑髪に切れ長の瞳。

がっしりとした体つきは、何かスポーツでもしているのだろう。

見た目にも高そうなスーツを着こなし、見た目は世に言う女性にもてる部類。




俺より・・・・少し下か・・?

どちらにしろ、どっかのボンボンってとこか。




そんなことを考えながら見ていたら、そいつもじっと俺のことを見てる。

その瞳があまりにも鋭かったので、俺は少しむかついた。

「なんだよ! 人の事ジロジロ見やがって、文句でもあるのか?」

あるなら相手になってやるとばかりに、きつい視線で睨み返す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見つけた。」

そう呟いたそいつの口の端が微かに上がったような気がした。

「はぁ??」

「あ、いえ、済みません。 じゃあ・・・」

俺の拍子抜けした声に、あいつは柔らかな笑顔を向けてそう挨拶して去る。

その去り際は、まさしく好青年のソレで印象は悪くなかった。

そうこうしてるうちにナミさんが来て、俺達はとりあえず食事に出掛けることにする。

行きつけの洒落たレストランで食事して、ナミさんが見たいと言っていた映画を見た。

そして、その別れ際、ナミさんが俺にこう言ったんだ。

「サンジ君、今日はとっても楽しかったわ。 また・・・・・・デートしようね? じゃあ・・・・」

バタバタと恥ずかしそうに玄関のドアを開け、家に入っていくナミさんに、俺はもうメロメロ。

心の中で何度もガッツポーズを繰り返し、気分は最高に幸せだった。

ナミさんを送った帰り道、俺はルンルン気分で駅へ向かう。

だから・・・・・・気が付かなかった。

後ろから車が来てたのを・・・・・。

ドンと左腕に車が掠った。

スッと音もなく、紺色のBMWが俺の前で停まる。

「馬鹿野郎!! 気をつけろ!! 人がせっかく人生で一番幸せを噛み締めている時に、

水差しやがって・・・!!」

ちょっと掠めただけだと思ったのに、左腕の痛みはだんだん酷くなってきて、俺は降りてきた

運転手にそう罵声を浴びせた。

「・・・・・・すみません。」

そう言って顔を上げたのは、公園で見たあの男。

「・・・・・また、あんたか。 あんた、俺に恨みでもあんの?」

あまりの偶然に、俺は顔を引き攣らせながらそう嫌味を言う。

「恨みだなんて、そんな事!!絶対に無いです!!」

俺の言葉に、そいつは真剣な表情で叫ぶもんだから、俺は少し言いすぎたかな?なんて思い

始めた。

「あ、いや、そうだよな。 今日初めて逢った奴に恨み買われる覚えねえもんな。 すまん、

つい・・・。」

そう言って、そいつに頭を下げる。

「とにかく、病院に!! 俺の知り合いの病院ありますから、さぁ、乗ってください。」

そいつは俺にそう言うと、サッと後ろのドアを開け、俺を促した。

「あ、いや、良いよ、もう・・掠っただけだから。 骨は折れてねえようだし、単なる打撲だろ。 

放っておいても、直に治るさ。 じゃあ、今度は気をつけろよ・・・。」

俺はそう言って、車に乗るのを断ると駅の方へ歩く。

「それじゃあ、俺が困るんです。 やっと見つけたのに・・・・・」

背中にそう呟くあいつの声が聞こえたかと思ったら、チクンと首筋に痛みが走った。

「な・・・・・なにを・・・・・・?」

振り向いた俺が最後に見たのは、あいつの冴え冴えとした瞳と口角の上がった唇だった。














差し込んできた朝日の眩しさに、俺は瞳を開ける。

「・・・ん・・・・?」

瞳を擦りながら、身体を起こそうとしたら、何かがガチッと右腕についてた。




手錠・・・・・?




俺は、自分の腕につけられた手錠を見つめ、それから辺りを見渡す。




・・・・・・・白い空間。




瞳に飛び込んできたのは、白一色に統一された部屋。

約40畳は裕にあると思われる部屋には、窓際に食卓、同色のクローゼット、バスタブとトイレ

まで備えてあった。

周りには、銀色の手すりが取り付けられて、手錠がはめ込まれている。

トイレも風呂も、テーブルでの食事も全て、その手すりから移動できるようになっていた。

かなり頑丈な鎖で、その手錠は俺の腕の手錠と結びついている。

「・・・・・・・嘘だろ・・・? なんなんだよ!!これは!! なにが起こったんだ!! 誰か!! 

誰かいねえのか!!」

ガツッガツッと血の滲むまで右腕を力任せに引っ張り、手錠からの解放を試みた。

しかし、一向に緩む気配すらない。

俺は夢だと思いたかったが、血の滲んだ右腕がそれを否定する。



なんなんだよ、一体・・・・。




そのうち、カチャリと部屋のドアが開く音がした。

「・・・・・・起きたのか? ほら、お腹が空いただろ? 朝飯にしよう。」

そう言って、現れたのは、昨日のあいつ。

「てめえ!! なに考えてんだよ!! 誘拐か?! これはれっきとした犯罪だぞ!! 今

なら、冗談で済ませてやる!! 即刻、この手錠を外せ!! 拉致監禁なんて冗談じゃねえ

ぞ!! すぐに俺をこの部屋から解放しろ!!」

あまりに日常的な会話をするそいつの態度に、俺は怒りに任せてそう叫んだ。

そして、あらん限りの悪口を並べ、喚き散らす。

あいつは呆れたように、俺を見て苦笑するだけだった。

「俺は、ゾロだ。 お前の名は・・・?」

この状態を見ても何も感じていないのか、アイツは平然と俺にそう言う。

「誘拐魔に教えてやる義理はねえ!! それより早く手錠を外せ!!」

近づこうとしたあいつに脚を振り上げて、悪態を吐いた。

しかし、振り上げられた脚は空を切るばかり。




畜生!!

この腕さえ自由になれば、こいつなんか伸してやんのに・・・!!




あまりの悔しさに、血が出るほど奥歯を噛み締める。

「俺が、何をした・・・・」

文句を言っても無意味だと理解した俺は、そうあいつに聞いてみる。

論理的に話を持っていけば、少なくてもこういう状況に陥った理由ぐらいわかる筈だと。

理由がわかれば、それなりに打つ手も考えられるしな。

「・・・・・・何も? お前は何もしてない。 俺が、見つけただけ・・・・」

そう言ってあいつは微笑を湛え、俺の顎に手を掛ける。

「な、なんだよ・・・。」

予想外のあいつの行動に俺はパニクッた。

唇に触れるあいつの口付け。

驚いて固まったままの俺の口内にあいつの舌が入ってくる。




ふざけんな!!!




俺は、グッと歯に力を込め、あいつの舌に噛み付いた。

「ッ・・・・!!」

サッと俺から離れて唇から流れる血を拭うあいつ。

「ククク・・・・・参ったなぁ。 初めから上手くいくとは思ってなかったけど・・・」

あいつはそう言って苦笑すると白い包帯をベッド下の引き出しから取り出して、暴れる俺をも

のともせずにベッドの四隅に手足を括り付けた。

「止めろ!! 何をする気だ!! 止めろ!! 止めてくれ!!」

俺の叫びも空しく、衣服は剥ぎ取られていく。

首筋に、あいつの息が掛かった。

ゾッとした。

「止めろ!! 俺は男だぞ!! 女性じゃねえんだ!! てめえの悪趣味に付き合う義理は

ねえ!!」

必死に身を捩り、抵抗を試みる。

しかし、四方に結び付けられた俺の身体はあいつにされるがまま・・・。

「男でも、女でも関係ない。 お前は俺が見つけた。 ・・・・・・俺のもの・・・・だから・・・・・」

そう言って、あいつは俺の肌に口付ける。

「止め・・・!! 気違いか!てめえは!! 俺は、てめえのものじゃねえ!! 愛するだ

と?! 冗談じゃねえ!! 俺はてめえに愛情なんかこれっぽっちも持ってねえ!! 誰かと

勘違いしてねえか? こんな仕打ちを受けて憎む事はあっても、愛するなんて絶対にねえ!

さぁ、わかったら、即刻、俺を解放しろ!!」

俺は、何とかあいつに思い止まらせようと必死だった。

括り付けられた両手足を必死で動かし、無駄だとわかってる抵抗を試みる。

あいつは俺の言葉に一瞬だけ傷ついた表情を浮かべた。

「・・・・・・・それでも、構わない。 やっと見つけたんだ。 例え憎まれても・・・・・・止めない。」

スッと胸の先端を唇に絡めとられる。

ズンと腰に電気が走ったような気がした。

「うっ・・・・アッ・・・・」

繊細で強弱つけた舌の動きに、思わず声が上がる。

「うっ・・・・クソ・・・止めっ・・・あ・・・んっ・・・」

舌先で転がすように舐め上げられ、俺の背筋にゾクッとしたものが走る。

必死になって声を出さないように唇をギュッと噛む。

この際、血が滲もうがなにしようが構わなかった。

この強姦魔に感じているだなんて絶対に思わせたくなかった。

ツーッと唇の端から血が流れる。

あいつはそれに気が付くと、そっと俺の唇を自分ので塞いだ。




また舌を挿入れてきやがったら、今度は噛み千切ってやる!




そんな俺の考えとは裏腹に、あいつはそっと何度も自分の唇と舌で俺の血を拭う。

優しく何度も、真綿で拭うように、優しく・・・・・そっと・・・・

まるで獣が傷を癒すように・・・・・何度も・・・何度も・・・・

その行為が、とても不可解で、俺は自分が理不尽な立場におかれているにも拘らず、そんな

あいつをじっと見つめた。

あいつは、今までとは明らかに違う優しい瞳で俺を見返した。

その瞳は、真っ直ぐに俺だけを見つめていた。

その瞳を見ていたら、なんだかわからなくなってきた。

「・・・・・・犯りてえだけなら、さっさと済ませろ。」

俺はらしくねえ事を呟いて、そっと瞳を閉じる。




男に犯られるなんて、死んだ方がマシだとさっきまでそう考えてた筈なのに・・・・

俺を見返したあいつの瞳は、まるで・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの瞳をこれ以上見ちゃダメだ。




俺はこれから起こる事全てを瞳を閉じ受け流す事にした。

なんでだかは、俺にもわからねえ。

そうしなきゃ、俺の中で何かが壊れそうな気がした。

「・・・・・・・・愛してる。 昨日逢ったばっかりだとお前は言うかも知れないが、それは違う。 

俺は探してた。 ずっと・・・・ずっと長い間、お前だけを・・・・・探してた。 逢った瞬間から愛し

てた。 どんな事をしても手に入れたかった。 どんな事をしても・・・・」

あいつの手が俺の髪に触れる。

サラサラとあいつの指が俺の髪の間を通っていく。

こんな仕打ちをしているのに、その感触は、先程の唇の感触と同じ優しく・・・・何度も・・・。




見ちゃダメだ・・・。




頭の中で警告音が響いている。




あれは、魔・・・。

魔性を湛え、惹き付ける瞳・・・。

だから・・・・・・・ダメだ。

絶対に開けたら・・・・・・・・・ダメだ。



・・・・・・・・・・・ダメだ。

もう・・・・・・・・。




ゆっくりと視界にあいつが入った。

「・・・・・・・・愛してる。」

そう囁いて、あいつの瞳が俺を射抜く。

囁きを繰り返しながら、あいつの唇が俺の身体をなぞる。

あいつの指が、身体に絡みつく。

「ック・・・・ハッ・・・うっ・・・あっ・・・!!」

触れられる度に、神経がそこに集中する。

腰への甘い疼きが一層強くなる。

歯を食いしばろうにも、力が入らない。

溢れる涙で、視界が滲む。

何度も与えられ続けるもどかしい行為に、思考が飛びそうになる。




・・・・・・・・・・身体が、求め始めた。




あいつは、それを待っていたかのように、俺の雄に直接、刺激を与える。

「クッ・・・ハッ・・・やだ・・・・あ・・・アアッ・・・!!」

フッと、瞳の前が真っ白になり、全身の力が抜けた。

俺の腹に飛び散った飛沫。

あいつは、それを指の腹で掬い、俺の後口へと擦り付ける。

ふわふわと漂った意識の中で、俺は、自分の中に蠢く違和感に我を取り戻した。

クチュクチュと淫猥な音が耳を擽る。

全身が、燃えるように熱い・・・。

スッと、あいつの指が俺の中の何かを掠めた。

「アアッ・・・・!!」

ゾクンと腰が浮くほどの快感が俺を捕らえる。

俺の張り上げた嬌声に、あいつは何度もそこを指でなぞった。




こんな快楽を、俺は、知らない・・・。




腰がひとりでに仰け反る。

指の動きにあわせて、身体が・・・・・・・揺れる。

あいつは、脚を括り付けていた包帯を切ると、俺の両足を自分の肩に担ぎ上げ、俺の中に自

分の雄を挿入した。

指とは違う質量・・・。

内部から引き裂かれそうな痛み・・・。

「アアッ・・・グァ・・・・止め・・・・!!」

身を捩ろうにも、腰はあいつががっちりと押さえ込んでいる。

全身の熱が、一気に下がる。

ガクガクと身体中の震えが止まらない。

「・・・・・愛してる・・・・愛してる・・・・・・愛してる・・・・」

呪文のように囁かれる言葉・・・。

冷たくなった俺の唇に、あいつの唇が何度も触れる。

そこからじんわりと、また快感が甦る。

「ふ・・・あっ・・・」

俺の雄が、また熱を帯び始めた。

ゆっくり、ゆっくりとあいつが腰を引く。

背筋が・・・・・・・甘く疼き始めた。

「あっ・・・・は・・・あ・・・クッ・・・・」

あいつの腰の動きに合わせるように腰が揺れる。

中から突き上げられる感覚に眩暈を起こしそうになる。

先程、指の腹で掠められた箇所に、何度もあいつのが触れる。

全身を駆け抜ける快感。

快感で意識が遠のき、また快感で意識が呼び戻される。




・・・もっと・・・・・・・・・もっと・・・・・・・・・・・・・・・・・もっと・・・・!!




火がついたように俺の中で欲望が芽生え始めた。

身体が、あいつを求めて止まない。

自由にならない腕がもどかしい。

「んっ・・・あ・・・ああっ・・・・ック・・・あ・・・手を・・・・・・・」

俺の声を聞き、あいつが俺の指に自分の指を絡ませる。

俺はその手をしっかりと握り返し、尚一層激しい快楽の淵へと落ちていった。







翌日。

俺は、昨夜の出来事が夢ではなかった事に気付かされる。

寄り添うように俺の隣りで眠るあいつの体温で。

「・・・・・・なにやってんだよ、俺は・・・。」

冷静さを取り戻した俺は、そう呟いて溜息を吐いた。

手錠はまだ繋がれたまま。

服は・・・・・・ただの布切れと同じ。

テーブルの上に、あいつのジャケットが見えた。




鍵はあの服の中か・・・?




俺は、そっと起こさないようにアイツの隣から抜け出して、テーブルに向かう。

チャリッ、チャリッと手錠が手すりを擦る音がした。

「・・・・・・何処へ行く・・?」

その声と同時に、身体が浮き上がる。

「うわっ! クッ!!」

ぐいっとまたベッドに力任せに押し付けられて、骨が軋んだ。




そうだった・・・。

こいつは、気違いの・・・・・誘拐魔じゃねえか・・・。

初めての快楽に酔って我を忘れたとはいえ、れっきとした強姦だろ、あれは・・・。




「・・・・・もう気が済んだだろ? だったら、俺を帰してくれ。 この件は無かった事にするから。

なっ? 今ならまだ、やり直せる・・・・。」

俺は、あいつに出来るだけ優しくそう伝える。




そう・・・・・今なら・・・・

通りすがりの一夜の戯言として、処理できる。

何事も無かったと・・・・・きっと忘れ去る事が出来るだろう・・・・・

いつもの日常に戻れば・・・・・




そんな俺を見て、あいつはフッと笑った。

「・・・・そうやって・・・・・俺を・・・・・・無かった事にするのか? 逃さない、絶対に・・・。 お前

はここで俺と生きていくんだ。 ずっと・・・・ずっと二人きりで・・・・・昨日、あんなに求めてくれ

たじゃないか。 満ち足りてた・・・・満ち足りてただろ・・・? 嫌だ・・・・・・何があろうと、お前だ

けは離さない。」

あいつはそう言うと、また俺の身体に口付ける。

「嫌だ!! 止め!! 止めてくれ!!」

俺は必死で抵抗した。

俺は、怖かった。

これ以上、こいつに抱かれるのが・・・・・

俺が俺じゃなくなりそうで・・・・・

その強い快楽に呑み込まれて・・・・・

今までの俺が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消えていく。




「ふっ・・・・あっ・・・・・クッ・・・・」

身体の中の熱量が増す。

一度味わった快楽に、なす術も無く溺れていく。

「好きだ・・・・・・・愛してる。 もう離さない・・・。」

行為の最中、何度となく耳元で囁かれる言霊。

それは積み木のようにだんだんと俺の心の中に重ねられていく。

確実に・・・・一つずつ・・。

「アッ・・・・・クッ・・・は・・・あ・・・あ・・アアッ・・・!!」

「ッ・・・・クッ・・・!!」

体内で弾けるあいつの飛沫を感じながら、俺はまた意識を手放した。

























・・・・・・・・・・・今は、いつなんだろう・・・?




もうそのことさえ、あまり気にならなくなっていた。

朝起きて、食事をして、身体を重ね、快楽と共に気を失い、そしてまた起きる。

あの日からずっとそれの繰り返し。

ゆりかごで眠る赤子のように・・・・

まどろみの中で満たされる心と身体。

俺の世界はこの白い部屋の中だけ。

ゾロの腕の中が、一番の安らぎ・・・・

そう・・・・・俺は、壊れている・・・・きっと・・・・

けど、それでも良いと俺は思う。

こんなにも満ち足りているから・・・・・

食料の買出しやらで、ゾロはたまに部屋を出て行く。

手錠は・・・・・・もうしてない。

必要が無いから。




この部屋が俺の全て・・・・

ゾロのぬくもりが・・・・・俺の安らぎ。




だから、ゾロが買出しでいない時はとても不安になる。

取り残された自分に・・・・・・・気が狂いそうになる。

「・・・・・・遅えな。 何してんだろ・・・もうとっくに戻ってもいい筈なのに・・・。」

買出しに出て行ったゾロがなかなか戻ってこないので、俺はイライラしていた。

不意に、ドアが乱暴に開く。

「ゾロ!遅えじゃんか・・・!!」

そう叫んで、その人影に瞳を向ける。

「・・・・・・君、サンジさんだね?」

そこには、二人組の見知らぬ男達がいた。

「な、なんだよ? あんた達一体・・?」

「・・・・被害者、生存確認しました! 至急保護します!」

そのうちの一人がそう無線で何処かに連絡を取り、もう一人が俺に近づいてきた。

「さっ、もう大丈夫だから。 サンジさん、もう貴方は自由だ。 やっと解放されたんですよ。」

そう言って俺の腕を引っ張る。

「嫌!! 嫌だ!! あんたら何者だ?!ゾロは?! ゾロは何処?! ゾロ!!」

俺はそう叫ぶとその腕を振り払い、部屋の隅に逃げた。

「えー・・・被害者は、心神喪失状態。 長期間の監禁が原因だと思われます。 なので病院

にそのまま搬送、保護いたします。」

がっちりと両腕を二人組に捕られ、俺はその部屋から無理やり連れ出される。

かなり暴れたので途中で麻酔を打たれ、気が付けば病院のベッドだった。

「サンジ君、大丈夫?!」

そう心配そうに言うナミさんの声が聞こえた。

久しぶりに聞く・・・・・・ナミさんの声。

「馬鹿野郎、心配掛けやがって・・・・」

親父もそう言って、すんと鼻を鳴らした。

俺は・・・・・・・元の世界に戻ってきた。

外の世界は・・・・・・・前と全然変わっていなかった。

二、三日経って、ようやく落ち着きを取り戻した俺は、警察に事情聴取を受けた。

「・・・・・・何故、俺の事がわかったんですか・・・?」

俺は抱えていた疑問を刑事に聞く。

「それが、偶然なんですよ。 いえね、貴方が何かしらの事件に巻き込まれたのでは?と言う

のは以前から捜査していたのですが、あの日、この事件の被疑者のロロノア・ゾロが交通事

故に巻き込まれましてね。 病院に搬送されたんですが、これが、頭をなん針も縫う大怪我の

癖して、入院も検査もせずに家に帰るの一点張りでして。 かなり動揺していたのでしょう。

『サンジが・・・・早く戻らないと俺のサンジが心配する・・・』と、被害者としての事情聴取も満

足に出来ずに。 っで、その場にいた刑事がサンジと言う名前に気が付いて、ロロノア・ゾロに

追求をしたら、貴方の居場所がわかって・・・・っで、貴方を無事保護したと言うわけです。 し

かし、本当災難でしたな。 まぁ、彼の生い立ちにも若干同情する点は多々あるのですが、貴

方が受けた心の傷を思うと・・・」

中年の刑事はそう俺に話し始めた。

「彼の家は、かなりの資産家でしてね、まぁ、今も働きもせず暮らしていけるんですから、相当

なもんでしょうね。 っとまぁ、ここまでなら普通の金持ちの家庭となんら変わりは無いんでしょ

うが、彼の母親が良くなかった。 夫に先立たれ、自分の愛情が、一心に一人息子である彼

に注がれたのでしょうな。 それは、もう・・・・異常なほどに・・・。 あの部屋は、彼が母親とい

た部屋なんですよ。 ここまで言えばもうお分かりでしょう? 彼は貴方にしたように彼の母親

からそう育てられてきたのです。 彼の母親が、急な事故で亡くなるまで・・・・ずっと・・・・・二

人きりで、外界を一切遮断したあの部屋で。 ・・・・・・ その間、彼に母親から手渡された唯

一の絵がこれです。 金色の髪に蒼い瞳のラファエル・・・・天使。 愛すべき母親を失い、彼

にはこの天使だけが残されました。 そこへ・・・・彼の瞳の前に貴方が現れた。 天使と同じ

金色の髪に蒼い瞳の・・・。 貴方にとってはそれは迷惑以外のなにものでもないでしょう

が・・・・・彼には違った。 ・・・・・・・それが、今回の事件を引き起こした。」

刑事の言葉に、ゾロの言葉が頭をよぎる。

『・・・・・・・・愛してる。 昨日逢ったばっかりだとお前は言うかも知れないが、それは違う。 

俺は探してた。 ずっと・・・・ずっと長い間、お前だけを・・・・・探してた。 逢った瞬間から愛し

てた。 どんな事をしても手に入れたかった。 どんな事をしても・・・・』

真実だったのだ。

ああいう愛し方しか知らないゾロの精一杯の・・・・。

ゾロのぬくもりが身体中に溢れてくる。

俺は、不覚にも涙を零した。




ゾロが・・・・・・・愛しくて堪らない。




「・・・・・っで、彼は今、何処に?」

俺は、そっと見られないように涙を拭ってそう尋ねる。

「ああ、彼なら下の階の病室に・・・。 何分、頭を打っているものですから・・・。 その事故に

関しては被害者ですし・・・・この事件の逮捕取り調べは、もう少し経ってからと言う事に・・。」

被害者の俺側からすれば早く逮捕をとでも詰め寄られるとでも思ったのか、刑事は、すまなそ

うに俺にそう言った。

事情聴取は程なく済み、俺は次の日、退院した。

そして数日後、ゾロに逢いに病院に行った。

あることを確かめる為に・・・・。

コンコンと個室のドアをノックし、無言のまま開ける。

「・・・・サンジ・・・。」

ゾロは俺の顔を見て即座に俺の名を呼び、嬉しそうに身体を起こした。

黒髪の・・・・・・・茶色の瞳の・・・・・・俺を見て。

「へへ・・・・よくわかったな、俺だって・・・・」

そう言って、俺はゾロの傍に近づく。

俺は少し照れくさかった。

けど、凄く嬉しかった。

刑事が言ったように、描かれたラファエル天使の面影だけで俺に愛を囁いたのなら・・・・・。

そうじゃない俺には、見向きもしないだろうから・・・。

それが・・・・・・そうじゃなかった。

ゾロは、確かに、俺を・・・・・俺自身を愛してくれていた。

その事実が、俺に決心させた。

「・・・・・・・早く、怪我治せ。 俺・・・・・・待ってるから。 あの部屋で・・・・・」

そう言ってゾロを抱きしめる。

「けど・・・・・・・・・俺は、罪を償わないといけない。」

そう静かにゾロは言った。

「罪? この愛の何処に罪があるんだ? これが罪になるのなら、全ての人が罪人だぞ。 

ゾロ、知ってるか? 誘拐ってのは、被害者からの訴えで立件される事件なんだぜ? 俺が、

てめえを訴える訳ねえだろ・・・・。」

そう言い返してにっこり笑った俺に、ゾロはにこやかに微笑んで、

「やっぱり、お前は俺の天使だ・・・。 俺を救う・・・・俺だけの天使・・・」

そう言ってギュッと俺を抱きしめる。

「天使じゃねえよ。 ただの人間だ。」

俺はそう言って苦笑した。

それから、俺はかつらとカラーコンタクトの変装を解き、外で見張りをしている刑事に立件の意

思の無い事を伝えた。

刑事は驚いてその理由を聞いてきたが、それは話しても無駄。

俺以外にわかり得る筈が無いのだから・・・・。









一週間後、ゾロは退院した。

俺は、あの部屋に戻ってきた。

今度は、自分の意思で・・・・。

「さぁ、ゾロ、買い物に行こうぜ? この部屋はやっぱ殺風景過ぎる。 もっとカラフルにしよう。 

これからの俺達に似合う色に・・・。」

俺は、そう言ってゾロの腕を引っ張る。



床はキャメルの板を。

テーブルは、透明なガラス板。

腰掛ける椅子には、黒パイプのアンティーク調。

壁紙は、パステルの薄い空の色。

ベッドカバーは、極薄い萌黄色。

バスタブとトイレは、薄いパステルピンク。

白いレースのカーテンを取り付けて・・・・・・

そこには、銀の手すりも手錠も、もういらない。

その代わりに、俺とゾロの薬指には、一生取らないと誓った銀色の指輪が光り輝いているか

ら・・・・




「さぁ、ここが、俺達の世界だ。」







 


<END>



 

 


<コメント>

こんなものを・・・・・ごめんなさい!!皆さん!<(_ _)>
キリリクの、『片想いから両思いまで』を考えてたんですよ・・・・ゾロサイドで。
そしたら・・・・異常愛に走るゾロの話になってしまって・・・
こんな愛情嫌ですか??(っつうか、怖い?)
けど・・・・・・・何故か萌えたんです、このシュチエーションにv(馬鹿)
さすがに、差し上げるのは憚られたのでこちらにUPしました。
でもね、結局サンジはロロノアに惚れるのよ、どんなシュチエーションでも☆
ルナがロロスキーである限りvv(殴)
では☆(笑)

<パラレル>