First step



 




キッチンから、あいつの鼻歌が聞こえる。

今日は、ニコニコとえらく上機嫌で、何か良いことがあったらしい。

あいつは、俺と違って、何でも顔に出るタイプだからな。

喜怒哀楽が激しいというか、子供っぽいと言うか、見ていて・・・・・・飽きねえ。

あっ、勘違いすんな。 

お、俺は、別に、あいつのことなんか、何とも思っちゃいねえんだからな。

な、仲間としてだな・・・別にいつも見てる訳じゃ・・・

ああっ、何で俺は言い訳してるんだ?

わっけわかんねえ・・・・・・







「いよう、ゾロ。 一緒に酒、飲まねー? 俺、今、凄く飲みてえ気分なんだ。 つきあえよ。」

サンジの言葉に、俺は、少しドキリとした。




・・・つ、付き合う??? 

・・・何だ、酒にか・・・

なに考えてんだ、俺は・・・・




「ああ、いいぜ。」

俺はそう返事して、キッチンに向かう。

あいつは、弱い癖に、俺のペースにあわせて飲み続け、暫くしたらぐてんぐてんに酔っ払っち

まった。

それで寝ちまえばいいのに、くだらない話を呂律の回らなくなった言葉で俺に話しかけてくる。

「なあ、聞いてるか? ロロノア・ロロ君・・・」

そう言って、俺に身体を投げかけて、俺に腕を絡ませて、上目遣いで俺を見やがる。

なまじ、顔が良いだけに、つい、俺はあいつが男だって事を忘れそうになった。

胸の中がもやもやして・・・落ち着かない。




ちくしょーっ・・・何でかしらねえが、俺の息子まで、落ち着かなくなってきた。

ヤバい・・・・ヤバいぞ。 

・・・・相手は、正真正銘の男だぞ・・・?

・・・俺、溜まってるのかな・・?




そんな俺の気持ちなんか知りもせず、あいつは、へらへらして・・・

「ねっ、キスしようか?」

なんて言って、顔を近づけて来やがった。

蒼い瞳うるうるさせて・・・・唇にあいつの唇が、触れる。

・・・・俺の中で、何かが、ぶち切れた。

「サンジッ!」

俺はあいつの名を呼んで、夢中で抱きしめた。

後は、欲望のなすがまま・・・・・のはずだったのに・・・

あいつはこともあろうか、そのまま俺の腕の中で、爆睡しやがった。




一体、どうしてくれるんだ! 

俺は、俺の下半身は、歩くこともままならねえんだぞ!




文句を言おうにも、あいつはとっくに夢の中。

俺は、仕方なく・・・トイレに走った。

・・・それからだ。

あいつのことがやたらと気になりだしたのは。

それを気取られないように、俺はわざとそっけなく、無視するようになった。




あ~、俺は一体どうすれば良いんだ・・・・。










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・・・・最近、あいつが、俺のこと避けてるような気がする。

・・・・俺、あいつに何かしたか??

いいや、別に、思い当たるふしはねえが・・・何でだ??







いつものように、テラスで新聞に目を通すナミさんに、ハーブ茶とおやつを持っていく。

「サンジ君、最近、ゾロの様子がおかしいんだけど、何か聞いてない?」

「いいえ、別に。 今度、聞いときますね。」

「頼むわ、サンジ君。 男同士の方が、何かと話しやすいモノね。 頂きますvv」

ナミさんはそう言って、俺の持ってきたお茶を美味しそうに飲んだ。




・・・やっぱり、ナミさんも、気が付いてたか。 

気持ち的には気に入らねえ奴だが、ナミさんの頼みとあっちゃ話は別だ。

よおし、今晩、俺から飲みに誘って、あいつの悩んでる事でも、聞いてやるか。

この前は、俺がぐてんぐてんに酔っぱらっちまって、何話したか、全然覚えてないもんな。




夕食が終わって、俺が、明日の仕込みをしていたら、あいつが酒を取りにキッチンに入って

きた。

「酒、持ってくぞ。」

そう言って、あいつは、勝手に酒棚から持っていこうとする。

「あっ、ちょっと待てよ。 俺も付き合うぜ。 一人で飲むよりましだろ?」

俺はそう言って、作っておいたつまみを冷蔵庫から出して、テーブルに持っていく。

「どうした?何ボーっとつっ立ってんだ? 座れよ。」

俺はそう言って、あいつの隣に座って、酒を注いでやった。

「あ、ああ・・・・・。」

あいつは驚いたようにそう言って、席に着く。




今日は、こいつの悩んでること聞いてやらねえとな。 

こいつだって、悩んでることの一つや二つあるよな。

魔獣と恐れられたとは言え、俺と同じ19。

一体どんな悩みなんだろ・・・?

魔獣の・・・・・悩みねえ・・・。




「なあ、ゾロ。何か悩み事あるのか? あるなら言ってみろよ。 人に話すと結構簡単に解決

するかも知れねえぞ。」

俺は、ゾロに酒を勧めながら、そう言った。

「・・・別に・・・・。」

「そう言わずにさぁ・・・・・言ってみろよ。」

俺はなおも食い下がる。

ナミさんに言われてるから、ここで引き下がっては申し開きできねえし・・・。

「てめえに言っても、こればっかりは、無理だな。」

あいつの言い草にカチンときた。




俺じゃあ、どうしようもねえだと?!




「何で、そう決めつけるんだよ! 言わねえうちから、決めつけて。 無理かどうかは、いわね

えとわかんねえだろ?! せっかく、ナミさんが心配してたから、何とかしてやろうって、そう思

ってたのによ・・・!!」 

俺は、吐き捨てるようにそう言い返す。

「はん、ナミに言われたから、何とかしてやろうだと?! そんなこと、てめえに頼んでねえよ。

大きな世話だ!」 

あいつは、逆ギレしてそう言いやがった。

あいつの言葉に初めカチンと来たけど・・・・・・

それ以上に、何か、胸の奥がズキンと痛んだ。




・・・・やっぱり、大きなお世話だったんだな・・・・




俺は、悲しくなっちまった。




俺は、やっぱり、こいつに嫌われてんだ。

仲間だと、そう思ってたのは、俺の方だけ・・・

・・・・こいつは、俺のこと、仲間とも思ってねえ。




「・・・・悪かったな。 嫌いな奴に、心配されても、迷惑なだけだよな。 ・・・ごめん。」 

俺は、そのまま席を立って、明日の仕込みをまた始める。 

本当は、すぐにでも、キッチンを出ていきたいんだけど、明日の仕込み、もう少し残ってるし、

それをそのままにしとくのは、俺のポリシーに反するから・・・・

「クッ・・・」 

なんでか知らねえけど、涙がでちまった。




・・・・何で、俺、泣いてんだ?

・・・・そんなに、あいつが言ったこと、ショックだったのか?

いいや、違うなぁ。 

俺は、あいつに嫌われてることが、わかったのが、ショックなんだ。




「・・・何か、タマネギが、やたらと、目にしみるなあ・・・」 

俺は、そう言って、涙を拭く。

実際、下ごしらえしてんのは、カボチャなんだけどさ、あいつのとこからじゃ、見えねえから、

そう言えば、泣いてる言い訳にはなる。

「・・・サンジ・・・ごめん。」

急に、あいつの声がすぐ後ろでした。 

俺は、びっくりして、後ろを振り返る。

「な、何だよ、突然・・・何で、てめえが、謝るんだ?」 

俺は、凄く焦った。




・・・やばい・・・カボチャ・・・隠さねえと・・・




俺は、後ろ手で、まな板の上を探る。

「ッ痛て!」

俺は、まな板の上の包丁の刃に触れて、慌てて手を引っ込めた。 

ぽたりと血が、床に落ちる。

「馬鹿、何やってんだよ!!」

そう言ってあいつが、慌てて俺の指を自分の口に含んだ。 

俺は、その行動に面食らって、固まって動けなかった。

「・・・・好きだ、サンジ・・・」 

あいつはそう言って、俺を抱きしめる。

俺は、頭が、真っ白になって・・・

気が付いたら、キスされてた。

・・・・・けど、身体がふわふわして、気持ち良い。




・・・・・俺、どうしたんだろ?

・・・・・何で、抵抗しないんだ?




俺は、自分が、解らなくなった。

だけど、胸の痛みは、消えていた。




・・・・それって、きっと・・・・・・




俺は、そのまま、流れに身を任せた。






まぁ、なんだ・・・・その・・・・・事の成り行きというか・・・・なんだな・・・・・

あの後、俺はやっちまったわけだ、あいつと・・・・。

けど、後悔はしてねえぞ、うん、してねえ。

「・・・・・・ところでよ・・・・・てめえの悩みは解決したのか?」

俺の胸に頭をつけてまどろんでいるあいつの髪をいじりながら、俺はそう尋ねる。

「あ? おう、ばっちし、だ。」

あいつは顔を俺の方に向けてそう言って、にっこりと笑った。

初めて見たあいつの無防備な笑顔に・・・・・・・・鼻血出るかと思った。

まさか、世に言う【海賊狩りの魔獣、ロロノア・ゾロ】が、こうも可愛く思えてしまうとは・・・

「そ、そうか。 そりゃあ、良かったな。」

その笑顔につられるように、俺もそう言って笑顔を返す。

一瞬にして、あいつから笑顔が消えた。



なんだ、なんだ??

どうしちまったんだ?こいつは・・??




「オ、オイ・・・・・ゾロ・・・?」

俺は、かなりうろたえた。




まさか、俺が可愛いと思ったことが、ばれて・・・・・・・それで不愉快に・・??

男が可愛いと思われて嬉しいわけねえもんな。




「あ、あのな・・・・別に・・・」

「あー、堪んねえーっ!!」

言い訳しようと口を開いた俺を、あいつはそう叫びながら、ギュッと抱きしめる。

俺のスレンダーな身体からミシッと音がした。

「ぐわぁ!! 痛え!! 痛っ! 痛えって!!」

俺は、堪らずバシバシとあいつの頭を叩く。

「もー我慢できねえ! またヤル!!」

その言葉とほぼ同じにして、俺の中に、指の感触が・・・・。

「ヒャ!! あ、馬鹿!! 今、終わったばっかしじゃねえか!! ざけんな!! 慣れてねえ

んだぞ!! 痛たかったんだぞ!! まだ違和感残ってんだぞ!!死ぬかと思ったんだ

ぞ!! 今日初めてなんだぞ!! 止め・・・・!!」

俺はとにかく、あいつから逃れようと身を捩る。

「・・・・ヤル!!」

そう一言言ったあいつの瞳と迫力に、俺は思わず息を呑んだ。




何処のどいつが、こんな魔獣に立ち向かえるというんだよ・・・。




俺は前言を取り消して、少し後悔した。

「・・・・・・悪いな・・・。」

チュッと軽く俺に口付けて、あいつは俺の腰を抱える。




本気で悪いと思うなら・・・・・・・即刻、俺を解放してくれ・・・。




暫くそう思いながら、恨みがましくあいつを睨みつけていたものの、なんだかもうどうでも良くな

ってきた。




だってよ、こいつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上手過ぎる。




翌日、朝日が凄く、瞳に沁みた。

「・・・・・・サンジ君、あたしは、ゾロの相談にのってやってとは言ったわ、確かに。 けど・・・」

キッチンに一番早く姿を現したナミさんが、そう言いよどむ。

それから、冷ややかな瞳でフッと鼻で笑われた。

それは、明らかに昨夜の事を差していて・・・・・俺は、卒倒しそうになる。

俺は、悲鳴をあげる身体を引きずって、あいつがのほほんと眠ってるであろう甲板に飛び出

した。

「やっぱ、あいつは、気にいらねえ!!」










<END>

 

<kaizoku>


 



<コメント>

これは、10月の日記に二回に分けて書いたもの。
最後の部分を加筆して編集し直してみました。
・・・・・こんなもん、書いてたのねvv(;一_一)
恥の上塗りならぬ馬鹿の上塗り☆(爆)
やっぱ、サンジの馬鹿話・・・・好きです。(笑)
脱兎!!