「・・・・・・・・なぁ、クソコック、酒ねえか?」
深夜のキッチン。
明朝の仕込みをしていたら、珍しく、あいつが俺に話しかけてきた。
・・・・・ドキドキした。
俺は、あいつに惚れているから。
男だって、惚れてしまったものは仕方ねえ。
想うのは・・・・・・・自由だ。
「あ? ちょっと待ってろ。 なんか作ってやるから・・・。」
あいつから話しかけられたのが嬉しくて、つい、上機嫌になる。
俺は、冷蔵庫の中から適当なものを取り出しつまみを作ると酒と一緒に、あいつが待つテー
ブルに持って行った。
「おっ、サンキュー。 ・・・・てめえも飲むか?」
「あ、いや、俺は、まだ明日の仕込があるから・・・。」
俺は、あいつの誘いを断り、シンクに戻る。
本当はサ、一緒に飲みたかったんだけど、やっぱ、二人きりで飲むのは、恥ずかしくて・・・。
きっと、俺、真っ赤になっちゃうからさ・・・。
そしたら、いくら、疎いあいつでも、バレちまうだろ、俺の気持ち。
結果がわかってるのに、バレたら、最悪じゃん、そんなの・・・。
俺、そんなに神経図太くねえし・・・。
けど・・・・・・・やっぱ、勿体無い事したかなぁ・・・。
あいつから誘ってくれる事、もうねえかも知れねえ・・・。
なんて事を考えてボーっとしてたら。
「なぁ、クソコック。 今まで言わなかったけど、俺・・・・・・好きだぜ・・・。」
そう、耳を疑うようなあいつの言葉が聞こえた。
へっ?!
なんて言った???
それって、もしかして・・・・・・こくは・・・・く・・・?
するってえと、俺達、両想い??
マジかよ・・・!!!
うっしゃーーーっ!!!
俺は嬉しくて、これ以上ないほどの笑顔で、後ろを振り向く。
俺も、ずっと、好きだったんだよ!!
そう、心の叫びを口にしようとした、その瞬間。
「俺、好きだぜ? てめえの作る飯・・・・・。」
照れたように、あいつは俺にそう言った。
「あ・・・・・飯、ね。 ・・・・そう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃあ、どうも。」
こめかみがヒクつくのを必死で我慢して、そのままの笑顔であいつにそう言ってやる。
「あ、このつまみも、美味いな。」
あいつは、俺の見せ掛けの笑顔に、そう言って笑い返してきた。
ちくしょーーーっ!!
あんな勘違いするような事抜かしてんじゃねえよ!!
思いっきし、自爆するとこだっただろうが!!
危ねえ・・・・・・。
クソッ!
どうせ俺は・・・・・・・・てめえにとっちゃ、飯だけの男だ。
そう考えたら、ムカムカしてくる。
それから、鼻の奥が、なんでかツンとした。
こいつは俺のことなんか・・・・・・なんとも思っちゃいねえ・・・。
目の前に突きつけられた現実に、不覚にも涙が零れる。
それを隠そうと、俺は、またシンクに身体を向き直した。
タバコさえ、銜えることもままならない。
本当・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・洒落にならねえ。
こっそりと、あいつに知られないように、袖口で零れる涙を拭う。
「あ、あのな・・・・・・・えっと・・・・。 ・・・・・・だから、俺・・・・・・」
急に、真後ろからあいつの声がした。
俺は、ビビった。
すぐ後ろに、あいつの気配がする。
慌てて、頭からを蛇口から流れる水に突っ込む。
泣き顔を隠すために・・・。
「あ? なんか、ようか・・・?」
濡れた頭のままで、あいつにそれだけ言う。
「なにしてんだ?てめえ・・・?」
俺の不可解な行動に驚いたあいつの声。
てめえのせいなんだよっ!!
そう叫びそうになるのを堪えて。
「いいから! なんかようかよ! 俺ぁ、忙しいんだ!」
吐き捨てるようにあいつにそう言った。
「あ・・・・あのな・・・。」
それでも、あいつは、ボリボリと頭を掻いて、なかなか言わない。
いい加減、イライラしてきた。
「言わねえなら、そこを退け! 俺、風呂入るから!!」
そう言ってあいつの横を通り過ぎようとしたら、急に腕を捕まれた。
「一生、てめえの飯が食いてえ!!」
「・・・・・・・・・ハイ?」
あいつの言葉が理解できず、俺は、間抜けな声を上げる。
もしもし、ロロノアさん・・・?
言ってる意味が、わからないんですけど・・・?
ポカンと口を半開き状態の俺を、あいつは自分の胸に引き寄せた。
もしもし、ロロノアさん・・・?
これって、どういう意味でしょう・・・?
あまりにも唐突な言葉は、俺の思考能力をはるかに超えていた。
「だから、こう言う事だ!」
息をすることも忘れ惚けていた俺の唇に、生温かい感触がする。
もしもし、ロロノアさん・・・?
これって・・・・・・これって・・・・・これって・・・・??!!!
「なにしやがんだっ!!! てめえ!!!」
俺は絶叫に近い声でそう叫んで、あいつの鳩尾に膝を入れた。
「グッ!! ・・・・・・・・・・・・・・・。」
ガックリと腹を押さえて、床に膝を崩したあいつ。
ヤバい・・・・・・・マジ蹴りしちまった。
「わりい、つい・・・。 お、おい、大丈夫か? てめえ・・・?」
慌てて俺は、あいつの顔を覗き込む。
「いや、俺の方こそ、すまん。 ・・・・嫌だよな・・・・悪かった。 ・・・・・・・忘れてくれ。」
あいつは、青白い顔のまま、俺にそう言った。
・・・・・・忘れろ、だと?
それを俺に言うのかよ・・・?
冗談じゃねえ。
惚れたのは、俺が最初だ。
それを、こいつは・・・・・・・・こいつは・・・・。
俺のセンチメタリズムを台無しにしやがって・・・・!!
「・・・・・・忘れていいのかよ・・・?」
俺は、ボソリとあいつに言う。
「あ? ・・・・・・てめえの気持ちはさっきので、よくわかったから・・・。」
あいつはそう言って、瞳を閉じた。
自分勝手に解釈しているあいつに、だんだんと腹が立ってくる。
「へえー・・・? どんな気持ちがわかったって?」
俺は、極力平静を装い、そう聞いた。
「・・・・・俺が、嫌いなんだろ?」
そう言ってあいつは瞳を開け、俺をじっと見つめる。
本当に、こいつは・・・・・・・・・馬鹿だ。
俺が、いつ嫌いだと言った?
確かにな、昔、気にいらねえとは、言った事はあるけどよ・・・。
嫌いだとは・・・・・・嘘でも言えねえよ。
「・・・・・ああ、気にいらねえな。」
そう言った俺の言葉に、あいつの表情が曇った。
「ぜんっぜん、気にいらねえよ。 てめえのその自分勝手な解釈で済まそうとしてる事。」
俺はそう言って、にやりと笑う。
ポカンとしたあいつの顔・・・。
この泣く子も黙る厳つい顔を、可愛いと思えてしまうのは、俺がイカレている証拠。
「・・・・つまりはだ。 こういうことだ。」
俺はそう言って、あいつに口付けた。
グッとあいつの腕が俺の腰を抱き寄せる。
「えっ?! うわっ!!」
急に瞳の前がぐらついたかと思った次の瞬間、俺は、押し倒されていた。
このストイックな面をした魔獣に。
もしもし、ロロノアさん・・・?
いくらなんでも、これは、早過ぎやしませんか・・・?
「ちょ、ちょっと、なっ・・・・・待て! ちょっと!! おい!」
俺は、慌ててあいつを引き剥がしに掛かる。
「待てねえ・・・!!」
あいつは、それだけ言うと、俺に口付けて、衣服を剥ぎ取っていった。
なっ?待てよ!!
たった今、気持ちがわかったばっかしだろ・・・?
それなのに、これは・・・・いくらなんでも・・・・・。
それに・・・・・・・俺が、受け入れる側??
もしもし、ロロノアさん・・・?
この体勢は一体、誰が決めたんでしょう・・・?
そう言おうと口を開いたら、あいつの舌が入ってきた。
あ・・・・・・ダメだ・・。
こいつ・・・・・上手過ぎる・・・・。
ジンと後頭部まで痺れるようなキスに、俺は、また思考能力を失くしてしまった。
「ッ・・・・責任、取れよな!!!」
俺は、それだけ言って、あいつの首に腕を回す。
「おう!」
そう言って、あいつは、俺を見て爽やかに笑った。
もしもし、ロロノアさん・・・?
その笑顔は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪です・・・。
翌朝、自分のしでかした責任をキッチンで全うするあいつの姿を、俺は、ソファーに寝そべっ
て見る羽目になる。
もしもし、ロロノアさん・・・・?
人間には、誰しも、限界があるんですけど・・・?
そう思いながらも、意気揚々と食事の用意をするあいつに、まぁ、良いか。と思ったことは、
絶対に内緒にしておこう・・・。
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