SAUDADE




Saudade



 




「オールブルーって知ってるか?」

そう言って振り向いたあいつの顔が、ずっと頭から離れない。

夕日に照らされた金色の髪がキラキラと煌めいて・・・

ゆっくりと紫煙を吐いて、子供のような無邪気な笑顔をして振り向いたあいつ。

「・・・いや、知らねえな・・・」

俺は、それだけ言うと、また酒を飲んだ。

「ったく、てめえは、俺よりいろんなとこ旅してた癖に、知らねえのかよ。 いいか、オールブル

ーってのはな・・・」

あいつは、そう言って俺にとくとくと話をし出した。

俺はと言うと、話よりも、あいつの表情に瞳が離せなくて、ただただ曖昧な返事を繰り返すだ

け。

きらきらと輝く瞳に・・・・・

くるくると良く動く表情に・・・・

そして・・・・・・・・

初めて見せた屈託の無い笑顔に・・・・・

「まっ、興味のねえてめえに話しても、意味ねえよな。 悪かったな、時間の無駄して。」

あいつは、そんな俺の気のない返事に、ため息を吐くとそう言ってキッチンに入っていった。




・・・・・・・違う。

・・・・そうじゃねえんだよ。

・・・そんなんじゃ・・・・・・ねえ。

時間の無駄なんて・・・・そんなことちっとも思ってねえよ・・・。




俺は、その言葉を酒と共に飲み込んで、一人さっきのあいつと同じ様に海を見つめる。

水面に映った夕日が、あいつの髪のようにキラキラと煌めいて・・・・。

俺は、その光が闇に変わるまでじっと見つめていた。




出来る事なら・・・・

この心の中に残るあいつの姿も闇色に染まるように。

染まって、何にも残らないように・・・

この想いさえも・・・・

消えて無くなればいいのに・・・・











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翌日。

「ナミすわ〜んvv ロビンちゅわ〜んvv 今日のデザートは、クランベリーのゼリーだよ〜vv」

いつものように、サンジがいそいそとテラスにいるナミとロビンにおやつを差し出す。

それを見ていたルフィ達が、一斉にバタバタと急ぎ足でサンジの元に掛け寄ってきた。

「なぁ、なぁ、俺達の分は?」

「あ? てめえらの分は、ほれ、落とすんじゃねえぜ。」

ルフィに急かされながらも、サンジは笑顔で皆にゼリーの入ったグラスを渡す。

「んめえ!! うめえよ、サンジ。」

「本当、すっきりして凄く美味しいわ。」

皆、口々にそう言いながら、サンジの作ったおやつを堪能していた。

しかし、サンジの持つトレーには、一つ残ったゼリーのグラス。

サンジは、チッと舌打ちをして取りに来なかった剣士の元へ近づいた。

「ほら、てめえの分。 あんま甘くねえから・・・・。」

そう言って、ゾロにグラスを差し出す。

「あ、ああ・・・。」

「ちゃんと食えよ。」

サンジは、そう言ってにっこりとゾロを見て微笑んだ。

ドクンとゾロの心臓が鳴る。

すぐ近くのサンジの笑顔がまともに見れず、ゾロは思わず視線を逸らした。

コツコツと足音がゾロの傍から離れていく。

陽の光に、赤いゼリーが宝石のように光っていた。

ゾロは、ゼリーを口にすることなく、深い溜息を吐くだけ。

「あれ? ゾロ、食わねえの? だったら、俺、食ってやろうか?」

先程から、食べる素振りを見せないゾロに、ルフィがそう言って近づいた。

「ルフィ!! それはてめえの分じゃねえだろ!! それは、そいつの・・・」

「いいよ、やる・・・・。」

ゾロは、サンジの言葉を遮って、ルフィにグラスを差し出す。

「本当か? いいのか??」

嬉々として、グラスを受け取り、ゼリーを口にしようとしたルフィ。

「なに勝手言ってんだよ!! あれはてめえの分・・・」

「・・・・別に良いだろ。 食いてえ奴が食えば良い。 俺はいらねえ・・・。」

ゾロはサンジの言葉を遮るようにそう言うと、立ち上がり、船尾の方へ一人歩いていった。

「クソ・・・・・野郎・・・・。」

ぼそりと呟かれたサンジの言葉が、震えていたのをゾロは知らない。

「・・・・・・本当、馬鹿なんだから・・・・」

そのやり取りを見ていたナミは、溜息を吐いてゾロの背中を見送った。

「・・・・・・クソッ!!」

ゾロは、甲板の縁に拳を叩きつける。




・・・・・・・どうしちまったんだよ、俺は・・・。




ルフィ達に振舞うように、サンジに、できない。

自分の想いを悟られまいとすればする程、その行動も素っ気無いものになっていって・・・。

何度も、自分の馬鹿げた想いを消そうとしても、サンジの姿をその瞳に映した途端、想いは溢

れてくるばかりで・・・・。

「・・・・・・・・・もう限界なのかも、知れねえな。」

ゾロの呟きは、誰にも聞かれることもなく、海に消えていった。









「ルフィ・・・。 話がある。 ちょっと良いか?」

いつものようにメリーさんの頭の上で釣り糸を垂れているルフィに、サンジはそう声を掛ける。

「あ? どうしたんだ?サンジ??」

ルフィは、らしくない表情のサンジにそう言って近づいた。

「・・・・・・・・船を・・・・下りる。」

サンジは、静かな声でそれだけ言う。

「な? なっにぃーーーーっ?! なんで?なんで?なんで??!!」

ルフィは驚きの声を上げ、サンジの胸倉を掴み揺すった。

「・・・・・・・ごめんな、ルフィ。 てめえが海賊王になる姿、見れなくてよ。」

そっとルフィの手を払い、ポンと麦藁帽子に手を添えにっこりと笑うサンジ。

その寂しげな表情に、ルフィはそれ以上何も聞けなくなってしまった。

「・・・・・・・・あいつが、原因なのか?」

ボソリとルフィが呟く。

「あ? あいつ?? 何のことだ?」

「・・・・・・・・・しらばっくれてもダメだ。 俺は知ってんだからな!! あいつは、いつも特別

で・・・・サンジは、いつも、あいつしか見てなくて・・・・・・」

グッとルフィが拳を握った。

「・・・・・・ルフィ・・・。」

「俺は!! 俺は、サンジが好きだ!! ずっとサンジと旅をしたい! ずっとずっと海賊王に

なっても、ずっとサンジの飯が食いてえ!!」

ルフィはそう叫んで、サンジの身体を抱きしめる。

「なにわけのわかんねえ冗談・・・」

「冗談じゃねえ!! 俺、ずっと見てた。 サンジだけをずっと。 だけど、サンジは・・・・・・気

が付けば、あいつを瞳で追っていた。 俺と話してても・・・・・あいつの視線には敏感に反応し

て、すぐあいつんとこに、喧嘩を売りに行った・・・・。」

「それは・・・・・・・あいつが、嫌いで、気に入らねえから・・・・むかついて、喧嘩してただけ

で・・・・」

「違う!!違う!! 違うだろ!!サンジ!! 嫌いなら、傍に行かねえ! 瞳になんか映さ

ねえ!! 嘘吐くなよ・・・・・俺には、わかってんだから・・・。」

凛として、何もかも見透かすようなルフィの瞳の力強さに、サンジが深い溜息を吐く。

「ルフィ・・・。 良いか? これは、あいつは関係ねえ。 俺がそう決めたんだ。 あいつ

は・・・・一切関係ねえ。」

そう言ってサンジは、もう一度、笑った。

ルフィが見惚れてしまう位、綺麗に・・・・優しく・・・・




ゾロのことを想って・・・・・・・・

サンジはこんなにも綺麗に微笑む。

そんなに想ってるなら・・・・・・・・・

なんで・・・・・・・・なんで・・・・・・・・・・




「・・・・・・・・わかった、サンジ。 もう何も言わねえ。 けど・・・!!」

ルフィは、麦藁帽子を深く被り直すとサンジの横をすり抜け、船尾に向かう。

「ゾーーーーロォーーーーーッ!!」

そう大声を上げ、ゾロの顔めがけて腕を振り上げた。

不意の出来事に、ゾロはそのまま船尾に備えてある砲台に吹き飛ばされる。

「グハッ!! ッ・・・・・てめえ、いきなり何しやがる・・・。」

口の端から流れる血を拭い、ゾロはゆらりと立ち上がった。

「俺と勝負しろ!!」

ルフィはそう言いながら、機関銃のようにブンブン腕を伸ばしゾロに向かっていく。

「なんなんだよ! 一体?! ルフィ!!理由を言え!!理由を!! なんでお前と勝負しな

きゃならねえんだよ!!」

和道一文字の鞘で、ルフィの攻撃をかわしながら、ゾロはルフィに尋ねる。

「理由? 気に入らねえから・・・・。」

「オイオイ・・・・。 何が、だ。 何が気に入らねえ・・・。」

ルフィの理由の意味わからず、ゾロは溜息を吐く。

「とにかく、全部だ!!」

ルフィはそう言い切るとまた、拳を振るった。

「ったく・・・・・本意じゃねえが、仕方がねえ。 売られた喧嘩は買うぜ・・?」

さっと鞘から刀を抜くと、ルフィめがけて斬りつける。

この騒動に、クルー達が船尾に集まってきた。

「ちょっと、ちょっと!! なにやってんのよ!二人とも!! 止めてよ!!」

そう叫ぶナミの声も、二人には届いていない。

ルフィの腕から血飛沫が飛び、ゾロの口の端から血が滴り落ちた。

「止めろ!! ルフィ!!ゾロ!!」

慌ててサンジが止めに入る。

「サンジには、関係ねえ!!」

ヒュンとルフィの腕が伸びた次の瞬間、サンジの胸にルフィの拳がめり込んだ。

「グッ!!」

受身を取らずまともにルフィの拳を食らったサンジは、そう呻いて床に蹲った。

「サンジーーッ!!」

思わずゾロがそう叫ぶ。

「ヘッ・・・・大丈夫だ、このくらい・・・。」

そう言って笑うサンジの口のから、血が滴り落ちた。

その血を見て、ゾロの中で何かがキレた。

「ルフィ・・・・。 なんで・・・・・・・こいつを・・・・・・・こいつを・・・・殴ったーーーーーッ!!」

ゾロの全身から狂気に似た殺気が迸る。

先程までの動きとは全く違う殺意に満ちた闘気。

相手は、ルフィなのに・・・。

仲間なのに・・・・・。

信頼する船長なのに・・・・・。

それさえも、掻き消すほどの激情がゾロを支配する。

「あ、悪い。 邪魔だったから・・・。 けど・・・なんでゾロが、そんなに怒るんだ? いつも喧嘩

ばっかして、お前がサンジ殴ったりしてたじゃねえか。 それなのに、なんで、そこまで俺に殺

気を向ける? 理由は? その殺気に理由はあるのか?」

ルフィの言葉は、ゾロの胸に突き刺さる。




理由なんか・・・・・決まってる。

この馬鹿げた感情のせいだ。

誰にも言わず、気付かせず・・・・・そっとしまいこんだ想い。

それが、こんな形でルフィに暴かれるなんて・・・・・

いや、ルフィのせいじゃねえな。

俺が・・・・・俺が、らしくもなく、引きずっているから。




「ゾロ。 俺は、サンジが好きだ。 この気持ちは誰にも負けねえ。 だから・・・・お前が気に入

らねえ。 サンジを泣かす・・・・・お前が気に入らねえんだよ!!」

ルフィの拳が、ゾロの腹めがけて伸びた。

ゾロは避けることなく、瞳を閉じ、刀を鞘に収める。

「止めろ!!ルフィ!!」

ヒュンとサンジの脚がルフィの拳を弾いた。

「こいつは・・・・こいつは、関係ねえと言った筈だ。 俺が、俺が勝手に・・・・・だから・・・・こい

つは、関係ねえ・・・。」

サンジはそう言って、ゾロとルフィの間に割って入る。

「・・・・・・・サンジ・・・。」

ゾロは力なく呟いて、その背中を見つめた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・止〜めた。」

長い沈黙の後、ルフィはクルッと踵を返すとスタスタと船頭のメリーの頭に向かい歩き始め

た。

「ったく・・・・いい加減にしなさいよ、あんた達。」

ナミは、それだけ言って部屋に戻る。

「お、俺も・・・・・・・・じゃ、じゃあ・・・・。」

ウソップもそう言って部屋に戻っていった。

「・・・・・わりい。 ルフィの奴、どうかしてたんだ。 俺が急に船を下りると言い出したから・・。

気にすんな・・・。」

サンジはそう言って、ポンとゾロの肩を叩くとキッチンへ歩き出す。




船を・・・・・・・降りる?

こいつが・・・・・・・?




「・・・・・・・待てよ。 ・・・・・・・・・なんで? なんでてめえが船を降りる?」

そう呟くようにその背中に問いかけた。

「あ? ・・・・・・・・・・・てめえにゃ、関係ねえだろ。 てめえもせいせいするだろ? これでイラ

イラする事も・・・・・喧嘩もしねえで済むしな。 新しいコックには・・・・・・面倒掛けるなよ。」

サンジはそう言って、いつものようにおどけて笑う。



いなくなる・・・・・・

コイツがいなくなる・・・・・。

もう二度と・・・・・・・

逢えなくなる・・・・。




ゾロの心に動揺が広がる。

あれ程、船を降りようと、自分から姿を消そうと、そう思っていたはずなのに・・・。




・・・・・・・・・・心が・・・・痛い。




思い切り、サンジの腕を引き寄せた。

気が付けば、抱きしめていた。

「なっ? なんだ??」

唖然とした顔つきで、ゾロを見上げるサンジ。

「・・・・・・行くな。」

ゾロの振り絞った声に、サンジの身体がビクッと震えた。

「・・・・・・・・行くな。」

「・・・・・・なんでだよ。 なんでこんな事するんだよ・・・・・・・なんで・・・・・そんな事言うんだ

よ・・・・」

もう一度聞こえた言葉に、サンジはギュッと歯を食いしばり震える声でそう呟く。

「・・・・・サンジ・・・?」

「てめえは!! てめえは、俺の事嫌ってる癖して、なんで・・・・・なんで、こんな事を・・・・・・・

止めろよ・・・・・もう・・・・・・止めてくれよ。 俺・・・・・・もう・・・・耐え切れねえよ・・・。」

ゾロの顔を睨みつけていたサンジの瞳から涙が溢れた。

サンジは、力任せにゾロの腕を振り解く。

「せっかく・・・・・・せっかく、最後まで隠し通せると思ってたのに・・・・・・馬鹿野郎・・・・・・・

馬鹿野郎・・・。」

ポロポロと涙を雫して、サンジが言葉を続けた。

「ッ・・・・・好きなんだ。 好きなんだよ、ゾロ。 わかってる・・・・馬鹿げた想いだってわかって

る。 けど・・・・・もう・・・・・・・・・・・どうしようもねえんだ。 ・・・・・・ごめんな。 ビビっただろ。

・・・・・わりい。 忘れてくれ。 ・・・・・・ごめんな、ゾロ。」

サンジは袖口で涙を拭い、ゆっくりとと立ち上がる。

困ったように、自嘲気味に笑みさえ湛えてサンジはゾロを見つめた。

どれほどの想いを込めて、その言葉を発したのか・・・・。




同じだ・・・・・・・俺と同じ・・・・。




「・・・・・・・忘れられねえよ。 馬鹿げてるのは俺も同じ・・・。 好きだ、サンジ。 俺も・・・・・

好きだ。」

言葉ももどかしげに、ゾロはサンジをギュッと抱きしめた。

ゾロの言葉に、止まっていたサンジの涙がまた溢れ出す。

「ッ・・・・・馬鹿野郎・・・・遅えんだよ。 なんで早く言わねえんだよ・・・・・俺・・・馬鹿みてえじ

ゃねえか・・・・・馬鹿みてえに・・・・・・泣いて・・・・・・馬鹿野郎・・・」

サンジは、ゾロの背中に腕を回し、バシバシと背中を叩いた。

「・・・・・・・・そうだな。 俺もてめえも、十分、馬鹿だ。 だから・・・・・・似合いだろ、俺達は。」

そう言って、ゾロは笑う。

今度は、サンジの方が見惚れてしまうほどに・・・。




ああ・・・・・やっぱ、コイツじゃねえと・・・・・・俺・・・・

んないい顔して笑うんじゃねえよ。




「・・・・・冗談じゃねえ。 馬鹿はてめえだけにしとけ。 俺は、やだね。」

見惚れた自分が悔しくて、サンジは涙を拭うとそう言ってゾロの腕をすり抜ける。

「オイ! 何処に行くんだよ!」

そう言ったゾロの言葉に、サンジは笑顔で振り向いて・・・

「やっぱ、てめえを扱えるコックは、俺しかいねえみてえだから・・・・船長に、気が変わったと

伝えて来るんだよ!!」

そう照れくさそうに言って、船頭に向かっていった。




キラキラと陽の光に透けて金色の髪が揺れる。

沈む夕日より尚鮮やかに・・・・・

いつまでも、いつまでも・・・・

その笑顔と共に・・・・。







「サンジ・・・・・好きだ。」

そっとその背中にもう一度呟いてみる。

「あ? なんか言ったか?」

サンジはすぐに振り向くと・・・・・・・・・・・そう言ってにっこりと笑った。









<END>


 

 


<コメント>

こちらは、こずえ様のリクエストで、【片想いから両想いになるまで】でした。
日記を読んでた方はあれ?と思われたかも。
そう、始めの語りは、日記のSSSから持って来ました。
サンジの気持ちって書くことが多いので、敢えてゾロのと言う事でv
ゾロサン←ルフィって、久々だなぁvv
ルフィって、やっぱ好きだーっ!
こんなもので・・・・・ごめんなさい、こずえさん。(汗)
少しでも幸せ気分になっていただければ、それでOK!
では☆(脱兎)

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