ライヤー☆ライヤー







うららかな春の日差しを一杯に浴び、今日もゴーイングメリー号は、順調に航海中。

今日は、4月1日。

船内は、クルーきっての常識人且つ、射撃の名手であるウソップの誕生日パーティーが、開

かれている。

「ウソップ、応援歌!第162番、歌いま〜す!!」

「いいぞー、ウソップ!! もっとやれー!!」

皆、陽気にわいわいと酒を飲みはしゃいでいた。

「ナミさ〜んvv デザートのおかわり如何ですか〜vv」

「ありがとvvサンジ君vv ついでに、飲み物も良いかしら?」

「もちろんですvvナミさんvv すぐにサンジ特製の愛情たっぷりのカクテルをお持ちしますね

vv」

瞳からハートを飛ばしながら、サンジはせっせとナミのご機嫌をとる。

「ナミさ〜んvvお待たせしましたvv このカクテルと一緒に、俺の愛も受け取って下さいvv」

「はいはい、また、今度ね。」

「あ〜vvつれないナミさんも素敵だ〜〜vv」

どんなにつれなくされようと、軽くあしらわれようと、ナミに美辞麗句を並べ立てるサンジを、

ゾロは呆れた表情をして見つめていた。

「・・・・なんだよ。 なんか文句でもあんのか・・・・」

サンジは、ゾロの視線に気が付き、そう言ってゾロを睨み付ける。

「・・・・・別に。 よく次から次に懲りもせず、好きだの、愛だの口に出来ると思ってよ。 

さすが、ラブコック・・・・・」

ゾロは、そう言って酒を飲んだ。

「ハン。 好きなモノを好きと言って何が悪い。 ん?なんだ、てめえ、もしかして俺とナミさん

がラブラブなのに、ジェラシー?! まっ、てめえのような利いた言葉一つも言えねえよな奴

には、レディは、口説けねえよな。」

サンジはゾロの近くまで来て、馬鹿にしたようにそう言ってニヤリと笑う。




・・・・・・こいつは・・・・・・・なんで、いつもいつも俺にだけ、そうムカつくことばかり言うんだ?

・・・・・・・・ムカつく。

ルフィやウソップには、笑いかけて話すのに・・・・・なんで俺ばっか・・・・・

・・・・・・とことん、嫌われてるらしいな。

・・・・・・・・ムカつく。

なんとかして、こいつにぎゃふんと言わしてえな。

ん? 待てよ・・・・・・・確か、今日は・・・・・・・

エイプリルフール・・・・・・・嘘吐いても良い日だったよな?

よし・・・・・・みてろよ・・・・・




ゾロは、ナミの元に戻ろうとしたサンジの腕を掴み、言葉を発した。

「てめえが、好きだ。」

サンジの銜えていたタバコが、ぽとりと甲板に落ちる。

サンジは、ポカンと口を閉じるのも忘れ、ゾロの顔をじっと見つめていた。




・・・・ククク・・・・こいつ・・・・・面白れえ・・・・・




初めて見るサンジの表情に、ゾロは追い打ちを掛けるように言葉を続ける。

「・・・・サンジ、てめえが好きだ。」

サンジは、困惑を隠せない表情をして、ただ黙ったままゾロを見ているだけだった。




・・・・こいつのこんな表情・・・・・初めて見た。

・・・・・まんざらじゃねえよな。

・・・・・・さぁて、このくらいにしといてやるか。




ゾロがそう思って口を開こうとしたとき、サンジから思いがけない言葉が返ってきた。

「俺も・・・・・・俺も、ゾロが、好きだ。」

サンジは、そう言って顔を真っ赤にして俯く。

「はぁ??・・・・い゛??」

サンジの言葉に、今度は、ゾロの方が唖然となった。

「あ、ちょ、ちょっと待て。 てめえも、知ってたのか?? 今日がエイプリルフールって事。

わ、悪かったな、下手な冗談言ってよ・・・・・」

ゾロは、焦ってそう言うと、サンジの腕を放す。

その言葉を聞いたサンジはガバッと顔を起こし、ゾロを睨み付けた。

「あ、当ったり前だ。 ・・・・俺様を・・・・・・その程度の嘘で、騙そうなんて・・・・・10万年早

えんだよ!! どうだ? リアルな演技だったろ? 俺の方が・・・・・一枚上手だったようだ

な。 ・・・・・・・・・・さぁて、酒のつまみでも、作ってくるか・・・・・」

サンジは、またいつものようにニヤリと笑うと足早にキッチンに戻っていく。

「はぁ・・・・・本当に、焦ったぜ。 けど・・・・・・あいつのあの表情・・・・・それに、俺、なんで

あんなに焦ったんだ? ・・・・・・なんで・・・・・・」

ゾロは、サンジの後ろ姿を見つめ、そう呟いた。

好きだと言った後の真っ赤になって俯いたサンジの表情。

耳まで真っ赤にして・・・・・・なぜか、ゾロの心臓が、ドクンとはねた。

そして・・・・・ゾロの脳裏から、先程のサンジの表情が消えない。

自分が冗談だと言った後の一瞬だけ見せたあの泣きそうな顔。

すぐにいつものような横柄な態度に変わったモノの、泣きそうなあの表情を思い出す度に、

ゾロの胸が、ズキンと痛む。




・・・・俺は、あいつを騙すだけの為に、あんな事を言ったのだろうか。

・・・・・他に、いくらでも言葉はあったはずなのに。

・・・・・・なんで、俺は・・・・・・あの言葉を選んだ?

・・・・・・・どうして、こんなに胸が痛む?

・・・・・・・・どうして、あのあと、俺は、焦った?

・・・・・・・・・どうして、こんなにあいつのことが・・・・・・気に掛かる?




「ああ、そうか。 ・・・・俺は・・・・・・・・そうなんだ。」

ゾロは夜空を見上げ、そう呟いてサンジのいるキッチンへと向かった。















「っ・・・・・クッ・・・・・・」

サンジは、シンクに両手をついて、必死で嗚咽を呑み込む。

さっきのゾロの嘘の告白に、柄にもなく嬉しくて、今まで隠し通してきた気持ちを思わず吐露

してしまった。

今日が、エイプリルフールだと言うことも思いもつかずに。

届かぬ想いと諦めていた恋が、両想いだと知り、天にも昇る思いでいたのに、一瞬にして奈

落まで叩きつけられてしまった。

自分の気持ちを吐露した後のあのゾロの表情と言葉で。




エイプリルフールだとゾロは、そう言った。

全ては・・・・・・・冗談だと。




焦ったゾロの表情で、慌てて自分も冗談だとごまかした。

あんな場面で、いつものように笑えた自分に感謝した。

あんな場面で、平静を装えた自分を、凄いと思えた。

けれど、一度、表に現した感情は、なかなか元には戻せなかった。

あのまま、甲板で皆の前で平静を装い続けるには、与えられたダメージは、大きすぎた。

「っ・・・・・・馬鹿だよな、俺・・・・・・エイプリルフールなのに・・・・・考えて見りゃすぐにわかり

そうな単純な・・・・・・・嘘だったのに・・・・・・・はは・・・・・・見事に引っかかっちまった。 

っ・・・・・クッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・酷えよ・・・・・・ゾロ・・・・・」

水道の蛇口を捻り、サンジは、その水音で嗚咽をかき消す。

不意に、キッチンのドアが開き、サンジは慌てて、水で顔を洗い、振り向いた。

そこには、ばつの悪そうな顔をしたゾロが、立っていた。

「・・・・・なんだ、てめえか。 つまみなら、そこのテーブルの上だ。 さっさと持って行けよ。」

サンジはそう言うと、テーブルを顎でしゃくる。

「お前・・・・泣いて・・・・」

「馬鹿言え。 何で、俺が、泣くんだよ。 酒、醒ましてただけだ。 いいから・・・・・さっさと出

て行けよ! ・・・・・・目障りだ。」

サンジは、視線をゾロからはずし、タバコに火を点ける。

「・・・・・・さっきは・・・・・・・済まなかった。」

ゾロはそう言って頭を下げた。

その姿が、サンジのひび割れた心に楔を打つ。

「てめえは!! ・・・・・・・てめえは・・・・・さぞかし、いい気分だろうな。 いけすかねえ俺を

からかって・・・・・・からかって・・・・・ざまーみろってか? っ・・・・・クッ・・・・出て行けよ。

・・・・・・出て行け!! てめえの面なんざ・・・・見たくもねえ・・・・・出てけよ・・・・・・・」

サンジは、震える声でそう言うと、その場に崩れるように蹲った。

「サンジ・・・・・ごめん。」

ゾロはそう言ってサンジの身体を抱き締める。

先程気付かされた自分の気持ちが、サンジに対する罪悪感と共に溢れてくる。

「っ・・・・・馬鹿野郎。 ・・・・・・これ以上、俺を惨めにするんじゃねえ。 それともなにか?

まだ、足りねえってか? てめえの思惑通り・・・・・・こんな俺が、見れて満足かよ。 

離せ・・・・・・離せよ・・・・・・もう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・充分・・・・・・だろ・・・・・・」

サンジは、涙を隠そうともせず、ゾロを睨み付けた。

「サンジ、ごめん。 さっきのは、俺が悪かった。 冗談で言う事じゃなかった。 俺、気付くの

が遅くて・・・・・・・ あの言葉は、嘘じゃねえ。 いや、初めに言ったときは、気が付いてなか

ったんだ。 ・・・・・自分の気持ちに。 けど、てめえの事、もう一度よく考えて・・・・・

ああ、上手く言葉が、出てこねえ。 だから、さっきの言葉は、嘘じゃなくなったんだ。」

ゾロは、そう言ってサンジの身体をギュッと抱き締める。

「ふざけんな! そんなこと、今更、信じられるか!! 泣いてる俺に同情したか? 

罪悪感に耐えられなくなって・・・・・・そんな嘘を・・・・・・・また、俺に吐こうってか・・・・・

良いよ。 忘れてやるから・・・・・・・忘れよう、全部。 ・・・・・・・・それで良いだろ!! 

もう、俺に構うな!!」

サンジは泣き叫びながら、ゾロの腕の中でやみくもに暴れた。

「違う!! 同情でも、嘘でもねえ!! 確かに、てめえを泣かせた罪悪感はある。 

けど、俺はもう、忘れることは出来ねえ。 もう・・・・・・自分の気持ちに、嘘は吐けねえ。 

信じてくれるまで、何度でも言う。 俺はてめえが好きだ。 てめえに惚れている。 

てめえが・・・・・・・好きだ。」

ゾロはそう言って、サンジの唇に口付ける。

サンジの動きがぴたりと止まった。

「・・・・・嘘・・・・・・・」

「嘘じゃねえって。 俺は、冗談でこんな事はしねえ。」

「だって・・・・・俺、男だぞ。 それに・・・・・」

「男も女も関係ねえよ。 俺は、てめえが良いんだ。 てめえに・・・・惚れたんだ。 

まだ・・・・・信じられねえか?」

サンジの言葉にゾロはそう言って、優しく笑う。

「っ・・・・・ゾロ・・・・・俺、悲しかったんだぞ。 悲しくて・・・・・・心が、壊れそうだった。 

俺・・・・・信じて良いのか? てめえと一緒に・・・・・・・・・・・・・・・側にいて良いのか・・・・」

サンジは、そう言ってゾロの首にしがみついた。

「ああ、ずっと、側にいてくれ。 ・・・・サンジ・・・・・もう一度、返事をくれ。 俺は、てめえが

好きだ。 てめえは?」

「俺は・・・・・俺は、ずっと・・・・・・ずっとずっと前から、てめえに惚れてんだよ!」

サンジはそう言って、ゾロに口付ける。

「・・・/////わかったか、このクソ腹巻き・・・・・」

そう言って顔を真っ赤にしたサンジに、ゾロは苦笑した。




・・・・・・・ヤバい。

・・・・・・・すっげえ、こいつが可愛く思える。

・・・・・・・あ・・・・・ダメだ。

・・・・・・・俺・・・・・・ヤバい。




「・・・・・・まだ、わかんねえな。 もっと、確認してえんだが・・・・」

ゾロは、そう言うとサンジの顎に手を掛ける。

「えっ?! ゾ・・・・・・ロ?」

そう言ってキョトンとした顔のサンジに、ゾロはニヤリと笑って、深く口付けを返した。

スッとサンジの瞳が閉じる。

それから、サンジの下唇を甘噛みし、その唇をこじ開け、歯列をなぞり、舌でノックする。

ビクンとサンジは驚いたように瞳を大きく開け、ゾロをじっと見つめた。

「・・・・・・嫌か?」

ゾロは、困ったようにサンジに、そう声を掛ける。

そう、ゾロにも充分にわかっている。

性急すぎる行為であることを。

それでも、身体が、心が、瞳の前のこの男を求めて止まない。

たった今、気持ちが通じ合ったばかりだというのに。

一度、発露した感情は、もう留まることができなかった。

心と共に、身体ごとその存在を確かめ合いたい。

「・・・・・ダメか?」

ゾロは、硬直した身体を解すように背中を撫で、サンジの髪を優しく梳いた。

「だって・・・今、言ったばっかしで・・・・」

「関係ねえ。」

「俺、朝から忙しくてお風呂入ってねえし・・・」

「関係ねえ。」

「ここ・・・・・キッチンだし・・・」

「関係ねえ。」

「だって・・・・・・・・だって、俺・・・・・・・・仕方知んねえもん・・・」

「関係ね・・・・・はぁ? ・・・・・・・今なんて言った??」

サンジが、小さく呟いた一言にゾロは、耳を疑った。

「・・・・・・・・やったこと・・・・無え。」

サンジは、そう言って顔を真っ赤にして俯く。

「マジかよ・・・・・」

ゾロは、だらしなく緩みそうになる頬にグッと力を入れ、サンジを抱き締めた。

「俺に全て任せろ。」

「・・・ん・・・・・・」

サンジは、ゾロの言葉に頷くと、そっとゾロの背中に腕を廻した。










「ウソップ応援歌、第265番、歌いま〜す!!」

相も変わらず、クルー達の騒ぎ声が甲板に響いていて・・・・・・・・

キッチンに消えた二人がいつまでも出てこないことに気付く者は、いなかった。










<END>







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<コメント>

瑠衣ちゃまのリクエストで、
【エイプリルフールに幸せな嘘を吐くラブラブなゾロとサンジ。】でした。
幸せな嘘なのか・・・・・う〜ん・・・・・・(-_-;)
それよりも、ラブラブ?? ・・・・・う〜ん・・・う〜ん・・・(-_-;)
あはは・・・・・消える!!(脱兎!)