キスより・・・



 




「あー・・・・もうそんな季節か・・・」

キッチンのカレンダーにふと瞳を向けると、そこには赤い花丸。

11月11日。

今日は、あのクソ野郎の誕生日。

ナミさんが、この前、印を付けてた。

一応は、祝ってやるフリをしてやる。

みんなの手前、な。

アイツも、俺なんかに本気で祝って貰いたくねえだろうし。

そもそも最初から気に入らなかったんだ。

一人悟りきってすかした顔しててよ。

いつもぐうたら寝てばかりで、馬鹿の一つ覚えみてえに身体鍛える事しかしてねえし。

その癖、戦闘になったら真っ先に突っ込んでいって生き生きとしてやがる。


・・・・・・気にいらねえ。


自分の命すら、野望の前には、とうに捨ててると言い切りやがって・・・・

きっといつかは。なんて言いながら、安穏と構えていた俺に見せ付けやがった。

漢って奴を・・・・人間って奴を・・・・

同じ年なのに・・・・・

いつも、アイツは未来をいってる。

俺なんか、アイツの瞳の端にも映ってねえだろうな。

俺には・・・・・俺の瞳には・・・・・

あの時のアイツが刻まれているのに。

どうみても不公平だろ。

フェアーじゃねえ。


・・・・・・ムカつく。


俺だけ・・・・・俺だけ・・・・・・

俺だけ、アイツを気にしてる。

野望だけしか見据えていねえアイツを・・・・・追っている。

だから・・・・

俺は、アイツを祝うフリをする。

祝う・・・・・フリをする。

「そうだろ・・?俺・・・・」

ふぅと深く息をして、シンクに立つ。

そろそろみんなが起きてくる頃だ。

ほら・・・・ナミさんの靴音がそこまで・・・・

 

 

「サンジ君、おはよう。 今日も良いお天気よ。」

そう言ってナミさんがキッチンに入って来た。

「おっはようございま〜っす!ナミすわんvv 今日もクソお美しい〜〜vv」

俺は、用意していたアールグレイに、ナミさんから分けて頂いた蜜柑で作ったマーマレードを

添えて、サッとタイミングよく食卓に差し出す。

「ありがとう、サンジ君。 ん〜いい香りv 頂くわ。」

満面の笑顔で俺を見るナミさんに俺の鼓動はヒートアップ。

この一時が俺の至福の時間。

この船に乗って本当に良かった。なんてしみじみ感動してたのに、ナミさんってば・・・

「そう言えば、今日、ゾロの誕生日だったわよね? 準備の方、お願いできるかしら?」

「もちろんです、ナミすわんv ナミさんの頼みとあらば、このサンジ、なんだってしちゃいまぁ

すvv」

俺の・・・馬鹿。

「ありがとう、助かるわ。 君だけが頼りよ。 よろしく頼むわね。 じゃ、あたし、テラスで新聞

読んでるから、朝食の時間になったら呼びにきてちょうだい。 じゃねv」

「はぁい、直ちに朝食の準備に取り掛かります!」

キッチンを出ていくナミさんの後姿に一礼し、俺はまたシンクに向かった。

と言っても、朝食の準備は出来ている。

後はみんなが起きて、このキッチンに来る頃を見計らって温め直すだけ。

「・・・・・・一応、祝いだからな。 アイツの好きなもんでも考えてみっか。」

今まで作ったレシピの中で、アイツが好んで食ってたもんをリストに上げる。

「おっ、サンジ。今日はご機嫌だな? なんか良い事あったのか?」

その声に気がついて食卓へ振り向くと、ウソップとルフィがいつの間にか座ってる。

「んぁ? お前ら、いつの間に入ってきたんだ?」

「ん? 今さっきだけどな。 お前、珍しく鼻歌混じりに熱中してたみてえだから、わかんなか

ったんだろ。」

「サンジィ〜・・・・どうでもいいけど、腹減ったぁ・・・・」

俺の問い掛けに、ウソップとルフィはそう言った。

俺・・・・・・鼻歌歌ってたんだ・・・・・しかも、熱中って・・・・・

ウソップの言葉に、やや凹んだ。

無意識に俺は・・・・・

頭に浮かぶ続く言葉を否定して、俺は朝食を温め直した。

 

あっという間に時間が過ぎ、アイツの誕生パーティーは大いに盛り上がった。

上機嫌で酒を飲むアイツ。

普通なら、飲み過ぎだとか文句の一つも言いてえところだが、今日は我慢、我慢。

一応は、誕生日だからな。

そのくらいは・・・・・

俺も周りの雰囲気につられて、酒を飲んでちょっぴりイイ気分。

「サンジ君、ゾロ。 後は頼むわね。 あたし達もう寝るから・・・」

「かしこまりましたぁ〜vv おやすみなさい、ナミすわん、ロビンちゅわん。」

甲板で酔い潰れて眠っているルフィ達を指して、ナミさんとロビンちゃんも自分達の部屋に戻

っていった。

残されたのは、俺とアイツ。

「さてと、俺はパーティーの後片付けするから、テメエは、ルフィ達を部屋に連れて行ってく

れ。」

アイツにそう指図して、俺はてきぱきと片付け始める。

アイツは無言でルフィ達を担ぎ上げて部屋に戻っていった。

珍しい事もあるもんだ。

アイツが黙って俺の指図に従うなんてな・・・・・嵐にでもならなきゃ良いが・・・

ちょっと笑えた。

シンクで気分良く皿を洗う。

「あー・・・今日は、ありがとな。」

急にすぐ後ろで声がして、ビビッた。

思わず皿を落とすとこだったぜ。

「わっ! なんだよっ! びっくりするじゃねえかっ! 居るなら居ると言えっ!」

まだ心臓がバクバクしている。

本当、心臓に悪いぜ。

俺は、そう文句言って睨み付けた。

「あ? いや、礼を言っただけだろ。 テメエが鼻歌なんぞ歌ってるから気付かなかっただけ

で・・・・俺の所為じゃねえ。 気配消して近づいた訳じゃねえし。」

本当にしれっとした表情で俺に言い返してきやがった。

って・・・・・・俺、また、鼻歌歌ってたのかよ。

ちょっとまたショック。

「・・・・・別に礼を言われる事は何もしちゃあいねえぜ? プレゼントだって買ってねえし?」

そう皮肉っぽく言ってニヤリと笑ってやる。

「ガキじゃあるまいし、プレゼントなんざ、この年になって貰っても嬉しかねえよ。 まっ、気持

ちは嬉しかったけどよ?」

ニッとアイツも笑い返した。

・・・・・・・驚いた。

アイツが俺に笑い掛けるなんて、思いもしなかった。

「今日の飯・・・・ありがとな。」

ボソッとアイツが呟く。

心臓がドクンと大きく俺の中で跳ねた。

「べ別に、俺は料理人として当然の事をしただけで・・・・」

「ああ、わかってる。 ただ礼を言いたくなっただけだから。 酒、貰ってって良いか?」

俺の動揺も知る由もなく、アイツは酒棚から酒を勝手に持って出ていく。

「ちょっと待て・・・・」

「あ? 良いだろ?今日ぐらい。 もう少し飲みてえ気分なんだ。」

呼び止めた俺に怪訝そうな表情を見せるアイツ。

悔しくなった。

俺の胸中など全く理解していねえであろうこの男に、どうしようもねえ衝動に駆られた。

ツカツカと近づき、無言で唇を掠める。

「クク・・・・誕生日、おめでとう。ロロノア・ゾロ。」

初めて見た驚吃したアイツの表情に笑いがこみ上げる。

「テメエ・・・・」

ゆらりとアイツから殺気が漂う。

ヤバ・・・・・ってか、何をしてるんだ、俺・・・・

酔ってんだな・・・・・これからは深酒は止めとこう。

殺気を帯びて近づいてくるアイツに、臨戦態勢を整える。

けど、ここで喧嘩はしたら、キッチンが壊れるな。

そう判断した俺は、できるだけ穏やかな笑みを浮かべ、アイツを宥める事にした。

「オイオイ・・・んなファーストキスじゃあるまいし。 ただの戯れ。 ちょっとした・・・っ?!」

唇に生温かい感触。

息ができねえ。

ジタバタと藻掻いてたら、きつく抱きしめられた。

抵抗出来ねえほど・・・・強く・・・・      抵抗・・・・・

抵抗・・・・できる・・・はずなのに・・・・力が入らねえ・・・クソ・・・・

頭の芯がボーっとしてくる。

気がつけば無我夢中でアイツに応えていた。

スッとアイツの唇が離れる。

「クク・・・・冗談、なんだろ?」

ニヤリとアイツの口角が上がった。

「なっ! クッ・・・・」

すぐには反論出来なかった。

たかがキスに・・・・しかも、アイツとのキスに・・・・

・・・・・悔しい。

「ああ、そうだよ。 テメエへのちょっとしたプレゼントだ。 嬉しいだろ?」

必死で余裕の笑顔を作り、そう言い返す。

「プレゼント?」

ピクリとアイツの眉が上がった。

「な、なんだよ・・・・」

「プレゼントって言ったよな?」

「ああ、言ったぜ? だったら、どうした・・・」

なんかとんでもねえ事を言った気がするが、後には引けそうにもねえ。

「じゃあ・・・・・この唇は、これから俺のもんだな。」

スッと唇を親指でなぞられた。

声が出なかった。

パクパクと陸に揚げられた魚のように口が開くだけ。

急激に血が昇るのがわかる。

心臓がバクバクと煩い。

「遠慮なく貰う。 じゃあ、またな。」

アイツはそう言うと、また俺の唇を掠めて、キッチンを出て行った。

へなへなとその場にしゃがみこむ。

顔の火照りが治まらねえ。

予想外の展開に頭がついていかねえ。

「まっ、いっか・・・・」

それ以上考えるのは止めとこう。

どうせ冗談なんだから・・・

しかし、翌日から俺は事の重大さを知る羽目になる。

 

 

「だから、ちょ、ちょっと止め・・・っ!!」

「聞かね・・・」

 

キスなんか・・・・やるんじゃなかった。

ちょっぴり後悔。

けど・・・・・・

ちょっとだけ嬉しいのは、なんでだろ・・・・?






<END>




 

 


<コメント>

祝ってるようで祝ってないようで・・・んー・・・ぽりぽり・・・(オイ)
とりあえず1本目と言う事で!!(脱兎)

閉じてお戻りください。