WANTED







面白くねえ・・・。

全然、面白くねえよ。

・・・・・むかつく。

なんでだよ・・・。

なんで・・・・あいつだけ・・・・。




「・・・・・・邪魔だ。 そこ退け・・・。」

ぽかぽかと暖かい気候が続き、順調な航海を続けているゴーイングメリー号の船尾に一際

不機嫌極まりないサンジの声がする。

「んあ? なんだ、てめえか。 ・・・・別に邪魔じゃねえだろ。 昼寝の邪魔するなよな。」

船尾の縁にもたれ掛かり、いつものように昼寝していたゾロは眠そうに伸びをしながら、

サンジにそう言って睨み付けた。

ヒクッとサンジの眉が上がる。

「邪魔に決まってるだろうがっ!!このクソ剣士!! 人がせかせか働いてるときに一人で

寝腐りやがって!! 視界に入るだけでウゼえんだよっ!!」

ゾロの言葉に、サンジは噛みつくようにそう罵声を飛ばし、ゾロの後頭部に踵を落とした。

「っ・・・・痛えーーーーっ!! なにしやがんだ!このクソコック!! なにイライラしてるのか

わかんねえが、俺にあたるなよなっ!! 俺は、てめえのサンドバックじゃねえんだぞ!」

ゾロは蹴られた頭に手を添え、勢い良く立ち上がろうとした。

「うるせーっ!! まりもの癖に口答えするなっ!!」

そこへまた、サンジから容赦ない蹴りが飛んでくる。

「このクソコック!!! いい加減にしろっ!!」

ゾロは、ひょいとサンジの蹴りをかわすと、振り上げられた足を掴んで、勢い良くサンジの

身体を甲板に叩きつけた。

「っ痛えーーっ!! 離せ!!クソこの馬鹿力!! 離しやがれっ!!」

馬乗りになったゾロの下で、サンジはそう叫びながら、やみくもに暴れる。

「サンジ!!」

ゾロに名前を叫ばれて、サンジは、ビクッと身体を強張らせた。

ゾロは滅多なことがなければ人前でサンジの名前を口にしない。

それが、照れからなのかどうかは本人にしかかわらないが、ゾロがサンジの名前を呼ぶこと

は、有る意味特別な意思を持ってる時なのだ。

サンジは、自分を真っ直ぐに見下ろすゾロの瞳に思わず瞳を背ける。

不条理なサンジの振る舞いに、ゾロは、不機嫌さを隠さない。

「・・・・サンジ。 てめえが皆のためにいつも忙しく働いてくれてることはわかってる。 

けどな、今日のコレは、いくらなんでも酷すぎるだろ。 俺が一体何をした? てめえに何か

したのかよ。 ただいつものように甲板の縁で眠っていただけだろ? それでも、俺に食って

かかるなら、理由を言え、理由を。 あからさまな八つ当たりは、不愉快だ。」

ゾロは、サンジの腕を手で押さえつけながら、そう言って睨み付けた。

「っ・・・・・てめえは・・・てめえは良いよなっ! そうやって眠ってても・・・ちゃんと・・・。

6000万ベリーの賞金首で手配書も世界中に配られて・・・・。 さぞかし気分良いだろうぜ。

俺だって・・・・俺だって・・・・クッ・・・。」

サンジは、悔しさからこみ上げてくる涙をゾロに見られまいと俯いたままそう言う。

「・・・・・・サンジ・・。」

「うるせえ!! 退けっ!!」

ドカッ!!

サンジの涙に気を取られ、ゾロの力が弱まった瞬間、サンジは、力任せにゾロの腕を振りほ

どくと、瞬時に体制を整え、ゾロの脇腹に蹴りを入れてその場から逃げ出した。

「ガハッ! っ・・・・・サン・・・ジ・・・?」

瞬間のことで受け身を取り損ねたゾロは、そのまま甲板に俯した。















クソッ!!

なんで、あいつだけ・・・

あいつだけが・・・・着実に・・・

着実に野望に近づいて・・・

俺は、一人取り残されて・・・

負けたくなんかねえのに・・・

いつだって、同等でいてえのに・・・




皆が寝静まった深夜のキッチン。

後片付けや明日の仕込みも終え、サンジは、一人キッチンで強い酒を呷りながら、紫煙を揺

らす。

それから、周りに気配がないことを確認して、サンジは昨日配られた手配書をポケットから取

り出した。

ナミに頼み込んで密かに手に入れたゾロの手配書。



ロロノア・ゾロ、賞金額6000万ベリー。

DEAD OR ALIVE



確かにゾロは強くなった。

サンジ自身、それは一番良く知っている。

本気でやりあえば、サンジなど相手になる訳がない。

それは、目指す未来(さき)が違うから、当たり前と言えば当たり前で・・・。

それでも、今は、背中を預けて闘える相棒として・・・・

これから、一緒に生きていこうと誓った唯一の者として・・・・

対等でありたいと思い続けてきたサンジに、この手配書は、歴然とした違いを嫌と言うほど

思い知らせてくれる。




いっそ、俺がレディだったら・・・・。

こんな想いはせずに、素直にゾロが強くなったことを喜べるのに・・・・。




そこまで考え込んでしまう自分が情けない。

いや、ソレよりももっと情けないのは、素直に喜んでやれない自分の度量の無さ。

「・・・・・ごめんな、ゾロ。 ・・・・ごめん。」

サンジは、強い酒のせいもあって、そのままテーブルに伏して手配書の上で眠ってしまっ

た。

「ったく、なんだってんだよ、今日は・・・。 サンジの奴、なんであんなに機嫌悪かったんだ?

しっかし、遅えな・・・。 まだ終わんねえのかよ。」

格納庫でサンジを待っていたゾロは、そう呟いて部屋を出てキッチンへ向かう。

気配を消して、そっとキッチンに入り、サンジの傍に近づく。

「・・・・なんだ、眠ってやがんのか。 しょうがねえな、そっとしておくか・・。」

ゾロは、小さな声でそう呟くとサンジの身体に毛布を掛けた。

ふと、サンジの腕の下に覗く自分の手配書が瞳に入る。

「・・・・・そう言えば、昼間も手配書がどうとか言ってたな・・・。 ・・・・・馬鹿な奴。 たかが

紙切れ一枚だろが。」

ゾロは、眠っているサンジの身体を抱き抱えて、側にあるソファーに横たえ、もう一度毛布を

掛ける。

なんとなく、サンジの不機嫌な理由がわかったような気がした。

「・・・・・何が変わるって訳でもねえのに・・・・・そんなに気になるんなら・・・・。」

ゾロは、テーブルに置いてある自分の手配書を手に取るとキッチンを出て、男部屋に向かう。

「おい! ウソップ! おい、起きろ!!」

ゾロは、熟睡していたウソップを揺り動かし、叩き起こした。

「あ〜・・・・・なんだ・・? どうしたんだ、こんな時間に・・・・ふぁ〜・・・・」

寝ぼけ眼を擦りながら、ウソップはゾロにそう返事する。

「・・・・写真出せ。」

「へっ?? いきなり何を?」

「・・・・サンジの写真、持ってるんだろ? 出せよ!」

「はは・・・・何を言って・・・。 そんなの持ってる訳ねえ・・・」

ゾロの突然の言葉にウソップは、背筋にゾッとするものを感じながら慌てて否定する。

「・・・・・ナミに言われてサンジを隠し撮りしたやつが有るはずだ。 別にそれをとやかくいう

つもりはねえ。 だから、さっさと出しやがれ。」

ゾロは、はぐらかそうとするウソップを睨み付けてそう告げた。



とっとと出さねえと、どうなってるかわかってるよな・・・?



その瞳は、無言でウソップにそう語っている。

「ヒッ。 わ、わかった。 今出すから・・・。 言っとくけど、俺は撮りたくなかったんだぞ。

ナ、ナミの奴が、売れば資金になるからって・・・無理矢理、俺に・・・」

ウソップはそう言って、タンスの奥からサンジの写真を取りだした。

「・・・・・・・・・・・・・こんなにあるのかよ・・・。 ったく、ナミの奴、ろくな事しやがらねえ・・・。」

次から次へと出てくる写真に、ゾロは呆れた顔でそう呟くと全部の写真を手に取る。

「これは、俺が没収する。 それから、この手配書を作り直せ。 今すぐにな!」

ゾロは、ウソップに鋭い視線を向け、そう言って色々と指示した。

「ハィ?? って、ゾロ・・・・これ・・・・・本当に作るのか・・・?」

「良いから、言うとおりにしねえか!」

「わ、わかった。 作るよ・・・作りゃあいいんだろ。 どうなっても知らねえからな、俺・・・。」

ゾロに脅されて、ウソップは、嫌々徹夜で作業を続ける。

「で、出来たぞ・・・・ゾロ・・。 これで良いんだよな・・・これで・・・・・。」

明け方近く、ウソップは瞳の下にクマを作りながら、出来上がった手配書を手に、眠っていた

ゾロを揺り起こした。

「ん・・・・・あ、ああ。 わりい、ウソップ。 ありがとな。」

ゾロはそう言って、ウソップから手配書を受け取ってキッチンに急ぐ。

サンジは、キッチンのソファーで、まだ寝息を立てていた。

「うっし! これで良し!」

ゾロは、壁に掛けてあるカレンダーの下に、ウソップに作らせた手配書を画鋲で留める。

そして、満足げにもう一度その手配書を眺め、サンジが眠るソファーの脇に腰を下ろし、眠り

についた。

「ん・・・・・ふぁ〜・・・・れ? 俺、いつの間にここで寝て・・・? ・・・・・・ゾロ・・・? なんで、

ここで寝て・・・? ああ、こいつが俺を寝かせてくれたのか。 ・・・結構気が利くじゃねえか。

おし! 今日は、こいつが好きなもん作ってやるか・・・。」

サンジは、目を覚ますと、ソファーの脇で眠っているゾロに微笑み掛けてシンクに立つ。

理不尽な悪態をついたにもかかわらず、こうやって自分を労ってくれるゾロに、サンジは上機

嫌だ。




・・・・・・昨日は、悪かったな・・・。

起きたら、ちゃんと謝って・・・・今日は、絶対に怒らない、悪態はつかねえぞ・・。




自然と笑みが零れて、鼻歌がキッチンに聞こえ始めた。

「おはよ、サンジ君・・・。あら、今日はやたらと上機嫌ね。 なにかあった?」

いつもより上機嫌のサンジに、ナミはそう言って声を掛ける。

「おはよう、コックさん。」

ロビンもそう言ってナミの後からキッチンにやってきた。

「あ、おはようございま〜すvvナミさんvvロビンちゃんvv もうすぐ出来ますから。 絞りたての

蜜柑ジュースです、どうぞvv」

サンジはそう言って、食卓にジュースを持ってくる。

「ありがとう、コックさん。 あら? ・・・・・ねぇ・・・あれ・・・」

ロビンが目の前の壁を見て、ナミに壁を指差した。

「ありがとう、サンジ君vv ん? なによ、ロビン・・・?」

ナミはそう返事して指差された壁を見つめる。

「・・・・・・・・・サンジ君の機嫌が良いのって・・・これのせいかしら・・・?」

「・・・・・・どうかしら・・?」

「これって・・・・こんな器用なこと出来るのは、この船じゃあ、ウソップだけよね。 けど、あい

つが自分からこんなの作るなんて思えないし・・・・。」

「・・・・じゃあ、コックさんが自分で頼んだのかしら・・?」

「まさか・・・? サンジ君のキャラじゃ考えられないわ。」

「だとしたら・・・・・。」

「そうね。 だとしたら、考えられるのは・・・・。」

ナミとロビンはそう囁き合って、ソファーの脇で眠っているゾロに視線を移した。

「・・・・・彼の考えてることがわからないわ。」

「・・・・あたしも・・・。」

ロビンとナミはそう呟いてため息を吐く。

「おや? どうしたんですか?二人とも。 そんなにため息なんか吐いて・・・? なにかお悩

みでも??」

サンジは、そう言って二人ににっこりと笑う。

「ううん、そんな大したことじゃ。 ・・・・・・サンジ君、あなた、本当に愛されてるのね。」

ナミは、やや同情めいた顔をしてサンジにそう告げた。

「愛され?? ナミさん、言っている意味がどうもわからないんですが・・・。」

笑顔を崩さず自分にそう尋ねるサンジに、ナミは盛大なため息を吐いてカレンダーの下に貼

られた手配書を指差す。



ロロノア・ゾロ&サンジ。

賞金額1億ベリー。



ウソップ手作りのその手配書には、隠し撮りしたにこやかに微笑むサンジとゾロの写真が

合成されていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ポトリとサンジの口元から火の点いてないタバコが落ちる。

それまで笑顔だった表情が見る見るうちに険しく変わっていく。

「・・・・ナミさん、ロビンちゃん。 申し訳ないんですけど、少しだけ朝食の時間、遅くなっても

構いませんか? 少しだけですから・・・。」

サンジは、引きつった笑顔のまま、ナミとロビンにそう告げると、眠っているゾロめがけて、

渾身の蹴りを放った。

受け身を取れないゾロは、そのまま壁を突き抜けて甲板まで吹っ飛んでいく。

「てめえは!! てめえって奴は!!」

サンジはそう叫びながら、ゾロを追い掛けてキッチンを飛び出していった。

「あ〜あ・・・。 また始まっちゃった。」

「ふふ。 飽きないわね、この船・・・。」

ナミとロビンはそう言って、蜜柑ジュースを飲み、二人を眺める。

「なんだよっ!! てめえが気にしているようだったから・・・。」

「ざけんなよっ! だからと言ってあんなことされりゃあ、ますます俺が惨めだろ!!」

「・・・・・良くできてると思うんだがなぁ・・。」

「だいたいなぁ・・・。 なんで二人で賞金額が1億なんだ? てめえが6000万で、俺が

4000万かよ!」

「・・・・妥当だろ。」

「きしょーーーーっ!!!ぬけぬけと!! 許せねえ! ぜってえ、オロす!!」

朝一番の甲板に、サンジの怒声がこだました。

「・・・・・・サンジ・・・・手配書に並んで写っているのはOKなのか?」

そんな二人のやりとりを男部屋のドアからそっと覗いていたウソップは、一人ボソリとそうツッ

コミを入れる。

「ふふふ・・・。 そのうち、本当にこんな手配書が配られたりして・・・。」

「ロビン。 その冗談、リアルすぎて笑えないわ。」

ナミはロビンの言葉にそう言うと、その手配書を壁から剥がし、持っていたペンで落書きをし

て海に流した。

手配書は風に乗り、遙か彼方へと消えていく。












「大佐ーーーっ!! スモーカー大佐!!」

「なんだ、たしぎ。 騒がしいぞ。」

「すみません、大佐。 これを見て下さい!」

「なんだ? 新しい手配書でも来たのか?」

「あ、あの・・・・・何と言っていいのか・・・」

たしぎは、そう言って手配書をスモーカーに手渡す。

「な、なんだ、これは・・・。 たしぎ!至急、本部に手配書の真偽の連絡をしろ!」

「わかりました!大佐! しかし・・・・ロロノアは、本当にホモなんでしょうか?」

「知るか!俺が!! いいからさっさと連絡してこい!!」

「は、はい!!」

スモーカーに怒鳴られて、たしぎは慌てて部屋を出ていった。

「麦藁の一味か・・・・ただの海賊じゃねえとは思っていたが・・・まさか、こんな連中だったと

は・・・。」

ナミが悪戯書きをした手配書は、その後、海軍に大いなる波紋をもたらしていた。









<END>





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<コメント>

瑠衣ちゃま、一周年おめでちょーvv
こんなお馬鹿なSSで本当にいいのかしらん?
お題が『ヤサグレサンジとお馬鹿ゾロ』だったので。(汗)
いやぁ・・・こんな話は楽しいなvv(自分だけだけどね-_-;)
こんなば〜かな話しか書けないけど、末永く仲良くしてちょvv
本当に一周年、おめでとうござりまするvv(ぺこり)