「おっしっ!! ジャケット良し! ネクタイ良し!! ズボン良し!! ハンカチティッ
シュも持ったよな・・・? あとは・・・・そうそう、携帯と財布・・・っと・・・」
俺は、部屋の姿見の前でもう一度格好をチェックして、ポケットに携帯と財布を入れた。
俺は、サンジ。
ただいま、高校3年生。
普通は受験真っ盛りの慌しい時期なんだけど、日頃の行いが良かったのか、すんなりと希
望だった大学に推薦を貰い、残された高校生活をエンジョイしているんだ。
今日は、年の瀬、大晦日。
去年までは、部活の後輩や先輩達とわいわい言いながら、除夜の鐘を学校の近くの寺に突
きに行ったもんだが、今年は、違う。
なんたってよ・・・・・デートだ、デート。
しかも、初めてなんだよなぁ。
相手は誰だって?!
ククク・・・・聞いて驚くな、見て驚け・・・・と、違った。
えっとな、今年入ったばっかの下級生なんだ。
密かにさ、チェックはしてたんだよなぁ。
なんつうったって、目立つしな、あいつは。
けどな、ここだけの話・・・実は・・・・・・・
俺は、あいつが中学校にいる時から、知ってたんだぜ?
たまたま、見に行った体育館に、あいつがいたんだ。
振り下ろされる竹刀が、本当の刀のような鋭さで・・・・・目も覚めるような一本勝ち。
空気がさ、なんか違ったんだ。
あいつが、構えるだけで・・・・。
しんと静まり返った会場に撓る竹刀・・・・
ぴりぴりと伝わる緊張した空気。
それが、ものの数分で歓喜に変わって・・・・
そいつの元に、仲間や先生が集まって・・・・
本当、絵に描いたような青春の一コマって感じで・・・・・。
その後、廊下で擦れ違ったんだが、仲間と抱き合って笑ってる笑顔に、なんだか瞳が離せな
かった。
今、思えば、なんで面を被ったままのあいつと、廊下で擦れ違ったあいつが同じだなんて、
わかったんだろうな・・?
他の奴見たって、全然未だに誰が誰やらわかんねえのにさ。
っで、入学式の時に、またそいつを見掛けたんだ。
あいつは、また、今度は桜の木の下で仲間と笑ってた。
あの時と寸分も変わらない・・・・・・あの・・・笑顔で。
けど、結局、俺は、3年生だし、あいつは1年生。
共通のところなんか全然無くて・・・・ただ黙って遠くから見てただけ。
たまにさ、グランドから教室見たら、あいつが居て・・・・瞳があった様な気がした。
気だけなんだけどさ、実際は。
けど、そう思っている自分が恥ずかしくて・・・・見てられなかった。
まぁ、認めたくねえっつうか、なんで、こいつ?みてえなとこが、俺に少しはあったから。
だってよ・・・・・・そいつ・・・・・・男なんだ。
別にさ、昔はどうであれ、今の時代、男だとか女だとかそういう事に拘ってる奴は居ねえし。
そういう点では、ああ、俺は、こいつに恋してんだなぁと結局、素直に認めちまったな、うん。
っでさ、男らしく告白しようと思ったんだけど・・・・やっぱ、イベントとかねえと言い出しにくいだ
ろ?
そんなこんなで、今年も終わるのかぁと思っていたクリスマスの日。
なんと、あいつが家の前をうろうろしてるじゃねえか・・・・プレゼントらしき袋を持ってさ。
なんかブツブツ言ったり、人の姿を気にしながらキョロキョロしてるあいつを見ているのが凄く
楽しくて、ついついずっと見てたんだ。
そしたら、肩を落として、どっかに行こうとしてるじゃん?
慌てて俺、家から飛び出したんだ。
きっかけなんかなんでも良かった。
ただ、あいつと話してえなぁって・・・・・・
そしたら、あいつは、何も喋らずにいきなし袋を俺に押し付けて、猛ダッシュしやがった。
そりゃあ、ねえよな。
せっかく来てくれたのに・・・・・
俺は、走ったね。
バラティエのチータと異名を取る俺に足で敵う奴なんてそうそういねえし。
けどさ・・・・剣道してるだけあって、あいつも運動神経凄えよくってさ、さすがの俺も、マジ疲
れたぜ。
で、やっとこさ、追いついて、あいつに声を掛けたら、あいつ、キョトンとしてた。
もう鳩が豆鉄砲食らったみてえな顔。
走ったせいだと思うけど、鼻の頭と頬が妙に赤くて・・・・
可愛く感じた。
あんなごつい奴相手に可愛く想えるなんて・・・・俺以外ぜってえに居ねえよ。
「ありがとうな。 これ・・・・俺にだろ? えっと・・・・確か、1年のロロノア・ゾロ君だっ
たよな?」
って、そう話をして笑った。
笑ったっつうか、自然と笑みが毀れたって方が正確だな。
その時のあいつの顔ったら・・・・・・・
ジッと俺から視線外さねえし・・・・・・こっちの方が、迫力負けしたっつうか、気恥ずかしくなっ
ちまってさ。
なんで俺の方が、この状況で俯かなきゃなんねえんだろ・・・?
ぜってえに、違うだろ。
そう思い直して、対抗するように睨み返したんだが・・・・・やっぱ・・・・・負けた。
試合で、タイマン勝負をしてる奴には敵いっこねえっしょ。
「じ、じゃあ、俺・・・・・これで・・・・・あ、ありがとな、プレゼント・・・・ま、またな・・・」
俺は、台詞噛みまくってあいつの視線から逃げるように立ち去った。
だって・・・・・・だって、俺・・・・・・・あいつにチューしたくなっちまったんだ。
告白もしてねえのに、チューは、な・・・・・って、違うだろ!俺!!
そんな恥ずかしい事考えてるのもあいつの視線で見透かされそうな気がして、俺は焦ったん
だ。
あの後、俺、すっげえ後悔した。
せっかく伝えるチャンスだったのに・・・
ひょっとしたら、脈ありだったかも知れねえのに・・・いや、俺の予想だと全然脈ありだと思う
ぞ。
ちょっとばっかし、自信を持った俺は、これを機会にしてあいつに接触しまくった。
別に行かなくてもいい部活に顔を出す名目であいつと共に学校に行ったり・・・
もしかしたら、あいつから告られる?!なんて淡い期待もしてたんだけどなぁ・・・
ぜんっぜん、何も言いやがらねえ。
一体あのプレゼントはなんだったんだよ。
俺への、じゃなかったのかよ?!
いつまで経ってもこれじゃ埒が明かねえし・・・・・俺の卒業は迫ってるし。
こうなったら、俺からアプローチするしかないな、うん。
っつうことで、俺はあいつに正月の予定を聞き、大晦日の21時にちょっと離れたところにある
小さな神社で待ち合わせる事にした。
そこの神社は本当に小さくて目立たねえから、初詣に来る奴も少ないし、告白するには、もっ
てこいの場所だからな。
とりあえず、俺は待ってるぞ、あいつが告白してくるの・・・・・・・うん、待ってる・・・。
クソッ!
回想してる場合じゃなかった。
時計を見たら、時刻は21時ジャスト。
ここから、その神社までは、俺の足をもってしても10分は掛かる。
俺は、フェイクのコートを引っ掴み、慌てて家を飛び出した。
「はぁはぁ・・・・・良かった。 まだ、あいつ・・・・来てねえみてえだ・・・・。」
辺りに人の気配が無いので、俺はホッと胸を撫で下ろした。
やっぱさ、何事も初めが肝心だろ?
「うぅ・・・・・寒い。 あいつに貰ったマフラー持ってくりゃ良かった。 まっ、慌ててた
から、仕方ねえよな。 あいつがマフラーしてたら横取りしてやる・・・・」
俺はブツブツ文句を言いながら時計を見る。
21時40分。
・・・・・・・いくらなんでも・・・・・・遅過ぎねえか?
俺はちょびっと不安になった。
「チクショー! 携帯の連絡先ぐらい聞いとけば良かった!!」
俺はあいつの携帯どころか、家の場所さえ知らなかった。
後10分・・・・・後5分・・・と、いつの間にか、時計の針は23時を回っていた。
なんか突発的な用事ができたんだろうか・・・?
あいつ・・・・約束すっぽかしようには見えねえんだけどな・・・?
吐く息の白さがだんだんと増して・・・手足の感覚がなくなってきた。
せめて・・・・・・今年一杯は待ってやるか。
除夜の鐘が鳴り響く。
なんて荘厳で・・・・・・なんて・・・・・・物悲しい・・・・響きなんだろ・・・
「先輩・・・!!!」
夜空を見上げていた俺にあいつの声が届く。
どれ位走ってきたのか、あいつの息は上がっていて、ろくに言葉も出てこないようだった。
「遅えーーっ!!」
近づいてくるあいつに、俺は叫ぶ。
あいつの姿見つけたら、なんだか、鼻の奥がつんとした。
「ハァハァ・・・・ごめん・・・・なさ・・・い・・・俺・・・・明日と・・・ハァ・・・ばっか・・・ハ
ァ・・・」
あいつは、苦しそうに肩で息をしながら、俺を見つめる。
「・・・・・・・・もう・・・・来ねえのかと・・・・・思った・・・。」
思わず言葉にしてしまった。
「ごめん・・・・・先輩・・・」
ギュッとあいつが俺を抱き締めた。
俺が抱き締める筈だったのに・・・・・・
あいつに告白させて・・・・・俺が・・・・・俺が格好良く抱き締める筈だったのに・・・
最後の鐘の音が・・・・耳に届く。
「HAPPY NEW YEARですよ・・・・サンジ先輩・・・。」
「てめえ、その前に俺に言う言葉があるだろ・・・。」
「あ? ああ・・・・・・・・先輩、俺達、両想いですよね?」
「違うだろ!!てめえ!!」
「・・・・・・違うんですか?」
「違っ!・・・ってねえ・・・・あーもう!!てめえって奴は!!」
「クク・・・・・好きです、先輩・・・。」
「なっ、ばっ・・・・・・・おう。 俺も・・・・・だ。」
なんだかなぁ・・・・・・俺、すっかりペース狂わされてしまってた。
けど・・・・・・・まっ、いっか。
うん、いい事にしとこう。
とりあえず・・・・・・・
「新年、おめでとう。 ゾロ・・・」
<END>
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