Natural


 




「・・・・弱ったなぁ。 どうしよ・・・。 全然出来てる気配がねえ。 ・・・・うわ〜ん!!

このままじゃ間に合わねえよ〜!!」

爽やかな秋晴れの昼下がり。

ゴーイングメリー号のキッチンでは、なにやらサンジが頭を抱え、カレンダーを睨みつけてい

る。

「サンジ君、いる? ・・・・・・・あら、どうしたの?サンジ君??」

キッチンに入ってきたナミは、テーブルにうつ伏したサンジにそう尋ねた。

「ナ、ナミしゃん・・・・・俺・・・・俺・・・・・」

ウルウルと瞳を潤ませて、ナミの顔をじっと見つめるサンジ。

こういう時のサンジは、とても母性本能を擽って、ナミとしては放っておけなくなる。

例え、それがどうしようもなく将も無い悩みだとしても・・・。

「ねぇ、サンジ君。 あたしで力になれることなら、何でも相談してね。」

「・・・・・・ナミしゃん・・・実は・・・・・。」

にっこりと笑顔でそう話すナミに、サンジは悩みを打ち明けた。

「ええーーーーっ?!!! サンジ君、それって・・・・マジ??!!」

驚愕の悩みを打ち明けられたナミは、そうサンジに聞き返したが、サンジは至って真面目に

頷くだけ。




・・・・・・・・ここまで、天然だったなんて・・・・




ナミは、あまりのサンジの天然さに、軽く眩暈を覚えた。

「・・・・・サンジ君、それは、無理じゃないかしら。 いくらサンジ君でも、できることと

できない事があるし・・・・・」

ナミは、極力優しくサンジに伝えようと、そこまで言って言葉に詰まる。

瞳の前のサンジは、ナミの言葉に、泣く寸前。

その蒼い瞳からは、大粒の涙が、いまや遅しと出番を待ち構えている。




う゛・・・・・・・あたしには、言えない。




「あ、ううん・・・・大丈夫よ、サンジ君。 ゾロの誕生日まではまだ時間あるし・・・・・

人間、努、努力して出来ない事はないわ。 ・・・・・うん、そうよ、ここは大いなる海、

グランドラインだもの。 頑張ってね、サンジ君・・・・。」

「そ、そうだよね! ナミさん、きっと出来るよね!! ハイ!俺、頑張ります!!」

目尻に流れた涙を拭い、サンジはにっこりとナミに笑ってそう言った。

「が、頑張ってね。・・・・・じゃあ、あたしはこれで・・・・」

ナミは、そう言ってキッチンを出ると、船尾に居る筈の剣士の元に向かう。

「ねぇ、ちょっと、ちょっと!!」

「うるせえな。 今、トレーニング中なんだから後にしてくれよ・・・。」

一心にウソップ特製ハンマーを振るうゾロは、ナミの言葉に面倒臭そうにそう答えた。

「あ、そっ! サンジ君が、泣きそうなくらい悩んでたから教えてやろうってそう思った

のに・・・ハイハイ、邪魔よね・・・・。 ごめんね〜。」

ナミは、聞こえよがしにそう呟くと、ヒラヒラと手を振ってその場を後にする。

ガコンと、ウソップ特製ハンマーが床に落ちる音がした。

「待、待て!ナミ!! なんだ?サンジがどうしたんだ?」

「知〜らない! サンジ君に直接聞いてみたら? まっ、あんたに教えてくれるかは、

わからないけどね〜。」

「サンジは?」

「キッチンよ・・・。」

ナミが答えるより早く、ゾロはキッチンに駆けて行く。

「ったく・・・・・・あのサンジ君にして、このゾロよね・・・。」

ナミは、呆れた様にその後姿を見送って、近くを通りかかったウソップに声を掛ける。

「あ、ウソップ! この穴、今日中に塞いどいてね。」

「うがぁ!! またゾロの野郎、カヤから貰った大事な船に・・・!!」

自分の作った特製ハンマーがあけた穴に、ウソップはそう叫んで慌てて大工道具を取ってく

る。

「ったく、なんかある度に、これじゃ・・・俺は、船大工じゃねえってんだよ・・・。」

穴を開けた本人にそう言える筈もなく、ウソップの呟きは穴の中へと消えていった。

一方、ゾロが急いでキッチンに入ると、サンジは丁度、おやつの支度をしているところだっ

た。

「サンジ・・・・どうした? なんかあったのか?」

そう声を掛けて、サンジの傍に寄る。

「あ、ゾロ。 ううん、何でもねえんだ。 ナミさんからも頑張れって言われたし・・・。 

エヘヘ・・・もうすぐ、ゾロ、誕生日だよな? 俺、とびっきりのプレゼント考えてるん

だ。 ゾロが気に入ってくれると嬉しいんだけどさ・・・。」

満面の笑みでゾロを見つめて、はにかみがちにそう言うサンジ。

「お前から貰える物で嬉しくねえ物がある訳ねえだろ。 んな可愛い事言ってると、

ここで食っちまうぞ。」

そっとサンジを引き寄せて、ゾロはサンジの頬に手を添える。

「・・・・・ゾロ。 ・・・・ううん、ダメ、ダメ。 今は、おやつを用意しているところなの!」

口付けようとしたゾロを慌ててサンジは押しのけて、キッとゾロを睨みつけた。

「んな睨んだって、可愛いだけだぜ・・?」

「可愛いって言うな!!」

「可愛い、可愛い・・・」

「もう・・・・馬鹿ゾロ!! 今はチューだけだからな! それ以上はダメだからな!」

「ククク・・・・ハイハイ、わかってるよ。」

真っ赤になったサンジに、ゾロはチュッと口付けて、ギュッとその痩躯を抱き締める。

そっとサンジもゾロの背中に腕を廻した。

「・・・・・今夜な・・?」

「・・・・うん・・・。」

もう一度、チュッとサンジのおでこに口付けて、ゾロはキッチンを出て行った。

「よぉし! 頑張るぞーっ!!」

そう張り切ったサンジの声が、キッチンから聞こえる。

「・・・・・・・俺、何しにキッチンに行ったんだっけか? まっ、良いか・・・。」

そう呟いて船尾に戻ると、また上機嫌にハンマーを振り始めたゾロ。

「こ、怖えよ、ゾロ。 頼むからその顔だけは止めてくれ・・・。」

それ以上にやけたゾロの顔を見たくなくて、ウソップはそう呟いてキッチンへ向かった。

「おっ、いい匂いだな、サンジ。 もうすぐ出来上がりか?」

「あ、ウソップ。 丁度良いところにきたな。 あのさ、俺、ウソップにもちょっと聞いて

みようと思ってさ。」

「あ? 俺にか? なんだ? 質問なら、このキャプテンウソップ様に遠慮なく聞いてく

れ。 俺にわからねえことはねえから!」

ウソップはドンと胸をはり、サンジにそう告げる。

「あ、あのさ・・・。 俺、今、出来ない事があってさ、どうすれば出来るのか悩んでん

だ。 ナミさんは、頑張れってそう言ってくれたけど・・・・ウソップ、なんか良い知恵は

ないかなぁ。 時間がねえんだ。 出来る様になりてえんだ、俺・・・・どうしても!」

「な、何が出来ねえんだよ、サンジ・・・?」

真剣な表情で迫るサンジにウソップは、引き攣りながらそう尋ねた。

「それは・・・・・言えねえ。 けど・・・・どうしても・・・・ゾロの誕生日までに間に合わ

せてぇんだ。」

そう言って、サンジはウソップをじっと見つめる。




ゾロの誕生日にってか??

まさか、隠し芸??

そんなんで、ここまで真剣になるなんて・・・・・

サンジって奴は、本当、純粋だよなぁ・・・。

そこまでして、ゾロをお祝いしたいんだ。

偉いぜ、サンジ・・・。

恋人の鑑だ。




「・・・・・じゃ、じゃあさ、とことん何回もやってみる事だな。 何回も限界までやれば、

そのうちにきっと出来るようになるさ。」

サンジの言葉に甚く感動して、ウソップはポンとサンジの肩を叩いた。

「・・・・・何回もかぁ。 やれるかなぁ・・? 俺、意外と体力ねえんだよな・・・。 

けど・・・・・これも、ゾロの為だ。 よぉし、俄然やる気出てきたぜ。 サンキューな、

ウソップ!」

「おう! なんだかよくわかんねえが、俺のアドバイスが役に立ったようで嬉しいぜ。 

上手くやれよ、サンジ・・・」

「おう、任せとけ!」

ウソップに励まされ、サンジは嬉しそうにそう言って笑った。











その夜・・・・・。

格納庫では、今宵も恋人達の睦言が交わされている。

「あっ・・・はぁ・・・んっ・・・・ゾロ・・・ヤァ・・・」

膝を肩に担ぎ上げられ、深く挿入を繰り返すゾロに、サンジはギュッと瞳を閉じてビクビクと身

体を震わせた。

サンジの身体が震える度に、サンジの内襞は容赦なくゾロの雄を締め付けて、堪らない官能

の渦へと押し上げていく。

「クッ・・・・サンジ、そんな締め付けんな・・・・・もたねえだろ・・・」

ゾロは何度もサンジの唇に口付けを落としながら、そう囁くと激しく腰を打ち付けた。

「あ・・・ん・・・・・・だって・・・・ゾロの・・・ヤァ・・・ズンズンきちゃ・・・う・・・・あ・・・

ダメ・・・・もう・・・・ヤァ・・・・ゾ・・・ロッ・・・!!」

ビクンと弓なりにサンジの身体が撓り、サンジの雄から白濁の精が迸る。

「クッ・・・ヤベッ・・・・サンジ・・・!!」

サンジの内襞の動きに翻弄されて、ゾロもまたサンジの中に白濁の精を叩きつけた。

これで、本日4度目の情事。

「・・・・風呂、入れてやろうか?」

そうサンジの耳元で囁いて、己の雄を引き抜こうとするゾロ。

昼間、トレーニング以外は自由な時間があるゾロとは違い、サンジは色々と忙しい。

それがわかっているが故にサンジの身体を気遣って、これ以上の行為はさすがに思い止ま

ったのだ。

「ん・・・・・まだ、大丈夫。 ねっ?もっと一杯しよ・・?」

いつもなら気を失っていてもおかしくない筈なのに、今夜のサンジはとても積極的で、艶を湛

えた瞳でゾロにお強請りまでしてくる。

「・・・・・良いのか? 明日辛えのは、お前だぞ?」

「良いんだ。 もっともっと、俺の中、ゾロので・・・・・・一杯にして・・・」

「ッ・・・・・もうどうなっても知らねえからな・・・」

その言葉を最後まで言わないうちに、ゾロはサンジを抱かかえて、腰を打ちつけた。

明け方近く、サンジは眠るように意識を手放す。

「・・・・・・どうしたんだ、急に・・? まっ、俺としては大歓迎なんだがよ・・・。」

いつものようにサンジの身体を綺麗に拭いて、ゾロは頬に張り付いた金色の髪を優しく掻き

分けた。

「・・・ん・・・・ゾロォ・・・俺・・・・頑張るからな・・・・」

「ん?寝言か。 ・・・・・・・・程ほどにしとけよ。」

サンジの発した寝言にゾロはそう呟き、サンジを抱かかえて自分も眠りにつく。

それから、暫くはずっとこの調子で、日付だけが何事もなく過ぎ去って行った。








そして、11月10日。

ロロノア・ゾロの誕生日、前日。

「・・・・・サンジ、身体大丈夫か? なんだか顔色悪いよ・・・?」

キッチンでだるそうに食事の用意をしているサンジに、心配そうな顔でチョッパーがそう声を

掛ける。

「あ、うん・・・・大丈夫だよ、チョッパー。 これは病気なんかじゃねえんだから。 

エヘヘ・・・読んだ通りになっちゃった。」

サンジは、心配そうなチョッパーにそう言ってはにかんだ。

「読んだ通りって??」

「ヘヘ・・・それは、明日までの秘密。 俺はね、今、愛の試練の真っ最中なんだぁ。 

なんとかゾロの誕生日に間に合ったようだし・・・俺って、幸せ者だよなぁ・・・。」

体調の悪さはなんのその、そう言って微笑むサンジの顔は本当に幸せに満ち溢れていて、

見ているチョッパーまで、ほんわか幸せに包まれる。

「・・・・・そう、なら良いんだけど・・・。 本当に無理しないでね、サンジ。」

「ああ、ありがとう、チョッパー。」

チョッパーの言葉に、サンジはポンと帽子を撫でながら、また食事を作り出した。

「サンジく〜ん、まだ? あら?チョッパー、どうしたの?こんなところで・・?」

そう言ってキッチンに入ってきたのはナミ。

「あ、ナミ。 あのね、サンジの顔色が悪かったから、ちょっと心配で・・・・」

「・・・・そりゃ、あんなにやってれば、身体がもつ訳無いわよ・・・。」

チョッパーの言葉に、ナミはボソリと小さな声で呟く。

「えっ?! 何?ナミ??」

「あ、ううん。 なんでもないの。」

チョッパーに聞かれて、ナミは慌ててそうごまかした。

「あ、ナミさん、ご心配には及びませんから。 それよりも、ナミさん。 俺、とうとうや

りました。 出来たみたいなんです!」

「えっ?! 出来たって何か??」

「やだなぁ、ナミさん。 アレですよ、アレ。 努力って必ず報われるものなんですね

〜。」

ニコニコと満面の笑みを浮かべてそう話すサンジに、ナミの顔から血の気が失せた。




まさか・・・・・・・アレって・・・・・

この前話してた・・・・・・アレのこと??

嘘よね・・・・・・・嘘でしょう??

絶対に有り得ないもの・・・・。

けど・・・・・・ここは大いなる海、グランドライン・・・。

あたしでさえ、天候が読めない奇怪で不思議な事が、うようよしているような海域。

万が一って事も・・・・・・・




「チョッパー、ちょっと、話があるの。」

ナミは、サンジに声も掛けず、チョッパーを引き摺る様にキッチンを出て行く。

「?? ナミさん、どうしたのかな? まっ、いいや。 早く作らなきゃな・・・。」

誰もいなくなったキッチンで、サンジはキョトンとした顔をして、またすぐさま食事の用意に取

り掛かった。

「ナミ! 痛いよ! どうしたの?ナミ!!」

「ごめん、チョッパー。 貴方に聞きたい事があって・・・」

甲板に連れ立って出たナミが、いつになく真剣にチョッパーにそう言う。

「な、なに・・・・? 聞きたい事って?」

ビクビクと緊張した面持ちでナミの言葉を待つチョッパー。

「あのね・・・・・・・ごにょごにょ・・・・」

「ええーーーーーっ?!!!! 本気で言ってるの??ナミ??!!」

「シーッ!! 声がでかいわよ、チョッパー!!」

「あわわ・・・・」

ナミがチョッパーの口を塞いだが、後の祭り。

「どうしたの?船医さんと航海士さん?」

「なに?なに?? なんだぁ? どうしたんだぁ? 飯できたのかぁ?」

「ど、どうした?チョッパー! て、敵襲か??」

「ふぁ〜・・・騒がしいな、なんかあったのか? チョッパー・・・・」

サンジを除くクルー達全員が、ナミとチョッパーの傍に集まってきた。

「・・・・・もう、声がでかいわよ、チョッパー・・・。」

「だって・・・だってナミがあんな事、真顔で聞くから・・・・」

「だ、だって仕方ないでしょ?! あたしだって現実的に無理だとそう思ってはいるわ

よ。 でもね、サンジ君が・・・・サンジ君がああ言うから・・・・もしかしたらって・・・・」

サンジ以外のクルー達に囲まれて、チョッパーとナミはそう言い合う。

「オイオイ・・・。 サンジがどうかしたのか? 俺達にもわかるように言えよ。 サンジ

に関わる問題なら放ってはおけねえからな・・・。」

ナミの口からサンジの名前が出たので、ゾロはそう言って口を挟んだ。

「・・・・わかったわ、言うわよ。 実は、サンジ君、赤ちゃんが出来た・・・」

「「「「ええーーーーーーーーっ!!!!」」」」

ナミの言葉を遮って、ロビン、ルフィ、ウソップ、ゾロは一斉に声を上げる。

「赤ん坊かぁ・・・良いじゃんか、また一人、俺らに仲間が増えて・・・。」

「いや、そう問題じゃねえだろ。」

「マジかよ?! じゃあ父親は、ゾロかよ・・?」

「いや、ツッコミ処はそこじゃねえだろ・・・」

「コックさんって両性具有?」

「いや、それはねえ。 確認済みだ。」

ゾロの思考は既に常人の域を遥かに通り越しており、クルー達に棒読み状態でツッコミを

入れる始末。

「ったく・・・・人の話は最後までちゃんと聞いてよね! いい? サンジ君に赤ちゃん

が出来るわけないでしょう? 誰かさんが確認したように、サンジ君は男なのよ? 

そう言った類の悪魔の実でも口にしない限り絶対に有り得ないわ。 けどね、問題は

そこじゃないの。 サンジ君が、自分に出来たって、出来るって信じ込んでいるってこ

となのよ。」

眉間に深く皺を刻んで、ナミがビシッとゾロを指差した。

「な、なんで俺を指差すんだよ・・・。」

皆の視線が集中して、ゾロは溜息を吐く。

「・・・あっ! もしかしてこの前、俺に聞いてきたことは、これの事だったのか・・・。」

ボソリとウソップがそう呟いた。

「えっ? 何か言ったの?ウソップ・・?」

「いや、あのな。 サンジが出来ねえ事を出来るようにする為にはどうしたら良いか?

なんて聞かれてさ・・・・何度も、チャレンジすれば良いって・・・・とことんやれば、いつ

かできるようになるって・・・・・・そう助言したんだ。 だ、だってよ、俺、ゾロの誕生日

にサンジ、隠し芸かなんかするんだとばっかり・・・・こ、こんな事、真剣に考えてる奴

なんて、普通居ねえだろ!!」

ナミに聞かれ、ウソップは必死に自分を弁護する。




・・・・・・なるほど、だから最近、あいつ・・・・




ゾロは、最近のサンジの積極さをここで理解した。

「けど、なんでそんなに赤ん坊を欲しがってんだ?サンジは??」

今ひとつ腑に落ちないゾロはそう呟いた。

「馬鹿ね、あんた。 あんたの為に決まってるじゃない。 まぁ、普通は考えないわよ

ね〜。 恋人の誕生日に赤ちゃんをプレゼントしようなんてね・・・・。」

ふぅっと溜息を深く吐いて、ナミは冷ややかにゾロを見つめる。

「・・・・・・あんた、サンジ君にそれらしい事とか言わなかった?」

「いや・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、待てよ。 こんな事はあったが・・・・」

ナミの言葉に、ゾロは必死で記憶の糸を手繰り寄せた。



それは、3ヶ月も前の出来事。

いつものように、一緒に買出しデートを楽しんでいたゾロとサンジは、帰り道で迷子の子ども

を見つけた。

そのまま放って置くのは可哀想だったので、その子の親を一緒に探して回る事になり、暫く

して、その子の親は無事見つかり、子どもは喜んで両親と帰っていく。

その後姿に、『子どもって良いよな。』そうサンジがボソリと呟いたので、『お前の子なら俺

も欲しいぜ。』とそう言った記憶・・・。




サンジの奴、あの言葉を覚えてて・・・・

クッ・・・・・何処までも可愛い奴・・・。




さりげない自分の一言の為に、ここまで努力するサンジがいじらしく思えて、ゾロは胸がジン

とする。

「それよ!それ!! うんもう、サンジ君らしい発想じゃないの! 野望以外いらねえ

なんて言ってるあんたが、サンジ君の子どもなら欲しいって言ったら、その気になるの

は当たり前! しかも、あの天然ハイな箱入り息子のサンジ君のことだから、愛し合

っていれば、必ず出来るって信じ込んでいるのも頷けるわ。 もしかしたら、ポンと簡

単に生まれてくるって思ってるかもね。 ゾロ、ちゃんと責任取りなさいよ。 あんた

が、ちゃんとサンジ君に言うのよ!」

ナミの言葉に、他のクルー達は一様に大きく頷いて、じっとゾロを見つめた。

「・・・・・・わかったよ、ちゃんと俺がサンジに言って聞かせて来るから・・・」

その視線の圧力に耐えかねて、ゾロは、のっそりとキッチンに向かう。




・・・・・・・ごめんな、サンジ。

せっかく俺の為に、いろんな努力してるお前に、俺は・・・




黙ってキッチンのドアを開ける。

ふと後ろを見ると、ゴクリと喉を鳴らして見守るクルー達の姿。

プレッシャーがゾロの肩に重く圧し掛かる。

「・・・・・・あのさ、話があるんだ・・・・サンジ・・・・。」

てきぱきとシンクで動き回るサンジにそう言って近づいた。

「あ、ゾロ。 いいところに来た。 ちょっと味見てくんねえ?」

緊張の面持ちのゾロに、サンジは、ニコニコと笑顔を振り撒いて、小皿をゾロに持たせる。

「・・・・・美味い。」

「なっ?なっ? そうだろ? エヘヘ・・・今日はさ、とってもハッピーな感じがして、な

にをやっても上手くいくんだぁ。 こんな日はそうそうねえもんな。」

普段より数倍も幸せそうに笑うサンジに、ゾロは言葉が出てこない。

「あ、ところで話って何? 俺もさ・・・・・あ、ダメダメ、これは十二時過ぎてから言うな

っ? ゾロ、話ってなんだ?」

ゾロの心情も察することなく、サンジは満面の笑顔そのままにそう尋ねた。




言わなくちゃ・・・・・・・・言わなきゃならねえのに・・・・・

クソッ・・・・・・・言葉でねえよ。

情けねえ男と蔑まれても構わねえ。

俺には・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こんなサンジの笑顔を描き消すことは出来ねえ・・・・・・・・。




「いや・・・・・・腹減ったなぁって・・・・」

何度となく葛藤を心の中で繰り返し、ゾロはそれだけを言葉にする。

「クスクス・・・・なんだ、そんな事。 もう出来たから、皆を呼んできて。 すぐに食事

にしよう。」

サンジはそんなゾロに微笑んでから、テーブルに料理を並べた。

暫くして、ゾロに呼ばれたクルー達がキッチンに現れる。

皆、変わっていないサンジの笑顔を一目見て、席に着くなり、じっとゾロの顔を見つめた。

「し、将がねえだろ・・・・・・・なんとでも言え。 俺には言えねえよ・・・。」

苦りきった表情で、ゾロはクルー達にそう呟く。

「フッ・・・・・・本当、あんた、サンジ君には形無しなのよね。 って、まぁ、あたしも言

えた義理じゃないけど・・・。 ここは任せたわよ、チョッパー!!」

「え??ええーっ?! 俺か??俺が言うのか?? 俺が??」

ナミにポンと帽子を叩かれて、チョッパーが顎を外し掛けながらそう叫んだ。

「ん・・? どうした?チョッパー?」

その叫び声を聞いて、サンジがチョッパーにそう声を掛ける。

「なに?! あんた医者でしょ?! あんたが言えばサンジ君も納得する筈なのよ。 

四の五の言ってないで言われたとおりにするの!」

チョッパーの耳を引っ張り上げ、ナミはチョッパーにそう囁いた。

これは、絶対命令よ・・・・ナミの瞳がチョッパーにそう告げている。

「今じゃなくても良いんじゃない? 取り敢えず、その件は食事が済んでからで。」

オタオタしているチョッパーにロビンがそう助言した。

その言葉に、ホッと胸を撫で下ろすチョッパー。

「あ、うん。 ・・・・・サンジ、後で話があるんだ。 食事が済んでからで良いから・・・」

チョッパーは覚悟を決めてサンジにそう言う。

「偉いぜ、チョッパー。 それでこそ、男だ。」

ウソップはそう言って、チョッパーの前にグッと親指を突き出して見せた。

「おう、後でいいんだな。 わかった。」

事情は飲み込めないが、サンジはチョッパーの言葉にそう返事して、食卓に着く。

「「「「「「「いただきま〜す!!」」」」」」」

そして、一見、いつものような和やかな夕食が始まったのであった。











「「「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」

和やかな食事も終わり、クルー達はそう言って席を立つ。

「あー、上手かったな。 まだまだ食えそうなんだけどさ・・・。」

「おめえは食い過ぎなんだよ! ほら、さっさと出ようぜ。 チョッパー・・・頑張れよ。」

丸々としたお腹を抱えそう話すルフィに、ウソップは即座にツッコミを入れ、チョッパーに向か

って親指を突き立てた。

それから、ルフィと共にキッチンを出る。

「あー、美味しかったわよ、サンジ君。 じゃあ、あたし達も部屋に戻りましょうか。 

じゃあ、しっかり頼んだわよ、チョッパー。」

「ええ、そうね。 ご馳走様、コックさん。」

そう言ってナミとロビンもキッチンを出て行った。

「ご馳走さん。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼んだぜ。」

いつもは他のクルー達が出て行った後も、ゆっくりと酒を飲んでいるゾロも、チョッパーにそう

言うと、キッチンを後にする。

残されたのは、浮かない顔のチョッパーとそれとは対照的に満面笑顔のサンジだけ。

「あ・・・・・・・・・・・うん。」

チョッパーはゾロに言いたげな視線を投げかけて、諦めがちにそう頷いた。

「・・・・っで、話ってなんだ?チョッパー。 俺さ、早く片付けて、色々と明日の用意も

しなくちゃならねえんだ。 だからさ、手短に頼むよ。」

テーブルの上の食器を手早くシンクに持って行きながら、サンジはチョッパーにそう話す。

「あ、あのね・・・・・サンジ。 サンジには、出来ないないんだよ、医学的に・・・。」

「はぁ?? なんの話だ?? 出来ねえって、何が?」

チョッパーの唐突な言葉に、サンジは意味不明と小首を傾げてそう尋ねた。

「だから・・・・・・・子ども。 サンジ・・・・・・・・サンジは男だから・・・・・・・・・・・・

その・・・・・・・・赤ちゃんは出来ないんだ。」

チョッパーは、言い難そうにサンジにそう告げる。

チョッパーの言葉に、サンジの唇から火をつけてない煙草がぽとりと床に落ちた。

「・・・・・・・・・・嘘・・・・。」

呆然とチョッパーを見つめるサンジ。

「・・・・・・嘘じゃないんだ、サンジ。 男には、そう言う機能が無いんだ。 女とは身体

の作りが違うんだ。 だから・・・・・・・・・サンジ。 サンジには、子どもは産めない。」

「はは・・・・・・何言って・・・。 だってさ・・・・・愛し合ってれば、出来る筈だろ? 

ナミさんだって、努力して出来ない事は無いって・・・・頑張ってって・・・・・そう言った

んだぜ? 店によく来てた神父だって、『神様が愛し合ってる二人に頃合いを見て下

さる。』って、そう言ってたんだぜ・・? それに、本で読んだ通り、胃がむかむかした

り・・・・・つわりだって・・・ある・・・・・よ。 俺、ゾロ、好きだもん。 ・・・・・・・ゾロだっ

て俺の事好きだって言ってくれたもん。 ・・・・・・・・・愛してるって・・・・・そう言っ

て・・・・・・」

笑顔だったサンジの顔がだんだんと俯いて、声が小さくなっていく。

「ごめん、サンジ・・・・・・・ナミは言おうとしたんだ。 でも、サンジがあんまり思い詰

めてる様だったからって・・・・・言えなかったんだ。 神父が言ったのだって、それは

あくまでも建前の話で・・・・それに・・・・・・それはつわりじゃないと思う。 サンジ、無

理して身体が参っちゃってるんだ。 俺も、本当は言いたくなかった。 けど・・・・・俺

しか、サンジにちゃんと言える奴居ないって・・・・そう皆に言われて・・・・・。 このま

ま黙っていてもどうしようもなくて・・・・サンジが、ゾロの為にと考えているなら、尚

更、言わなくちゃって・・・・。」

そう話すチョッパーの瞳にも、だんだんと涙が溜まってきて、最後は言葉が詰まった。

「・・・・・・・チョッパー、話してくれてありがとうな。 へへ・・・・俺、勘違いしててさ。 

一人舞い上がっててさ・・・・・ごめん。 ありがとう、チョッパー。 ゾロの誕生日に、滑

稽な事言わずに済んだ。 話はそれだけだろ? じゃあ、俺、今から片付けしなきゃ

ならねえから。」

目尻に涙を浮かべながらも、サンジは笑みを浮かべてチョッパーにそう告げる。

「あ、うん・・・。 サンジ・・・・・気を落とさないでね。 じゃあ、俺・・・・・」

チョッパーは、それだけ言うとキッチンを出て行った。

「うっく・・・・・・・・・俺・・・俺・・・・馬鹿な奴。 ッ・・・・・・ふぇ・・・っ・・・!!」

ドアの閉まる音と共に、サンジはその場にしゃがみこむ。

ポタポタと瞳から溢れる涙が床に染みを作っていく。

真剣に出来るとそう思っていた自分の馬鹿さ加減と、愛する恋人に今からでは何も代わりの

プレゼントを用意できない悔しさに・・・・・

そして・・・・・・・普通の男女の恋人達と自分達との決定的な違いを目の当たりにして・・・。 

「俺・・・・・・・・・ゾロ・・・・・・ごめん・・・。」

それでも、汚れた食器をそのままに出来ず、サンジは涙を拭うとシンクに立ち後片付けをしだ

した。

その間もサンジの涙は止まることなく、水と一緒にシンクに流れていく。

パタンと静かにキッチンのドアが閉まった。

「・・・・・・・・サンジ。」

穏やかな優しい声で、ゾロがサンジを呼ぶ。




泣いてるの、見せたくない・・・。




「あ、ゾロ。 ごめん、今、手が離せねえんだ。 ・・・・酒なら、自分で取ってな・・?」

後ろを振り向きもせず、サンジがゾロにそう言った。

「・・・・・いや、そうじゃねえ。」

ゾロはそう言うと、そっと背中からサンジを抱き締める。

「ッ・・・・・ゾ・・・ロ・・・。 俺・・・・・・ごめん。 俺さ・・・・馬鹿だから・・・・ふぇ・・・・」

背中から伝わってくるゾロの体温に、サンジの涙腺が一気に緩んだ。

「ゾロォ〜・・・・ヒック・・・・俺・・・・・ヒック・・・・」

洗っていた食器をシンクに置き、サンジは振り向いてゾロの首にしがみつく。

「ああ、わかってるから。 俺は、お前が傍に居るだけで十分だから。」

ゾロはそう言ってよしよしと子どもをあやす様に泣きじゃくるサンジの髪に手を添えて、何度も

優しく梳いてやった。

「けど、俺・・・俺・・・・ヒック・・・・何も用意できてねえ。 明日まであと少しなのに・・

・・・ゾロの誕生日なのに・・・ヒック・・・・全然用意出来ねえ・・・。」

肩口から顔を上げずしゃくりあげながら、サンジはゾロにそう告げる。

「いや? 用意なんか要らねえ。 俺は・・・・・俺の欲しいモノは唯一つ・・・・・・お前

の笑顔。 お前が俺の傍で笑っていてくれたら、それで良い。 だから・・・・・・くれる

って言うなら、お前の笑顔を見せてくれ。 ほら、顔上げて・・・?」

ゾロはそう言って俯いていたサンジの顎に手を掛け、顔を上げさせた。

「ゾォ・・・ロォ・・・・。」

未だ止まらないサンジの涙を何度も優しく指で拭う。

「なっ? ほら、もう少しで俺の誕生日。 くれるんだろ?プレゼント。 なら・・・・ずっ

と笑っていろよ、俺の傍で・・・・・」

にっこりと微笑んで、ゾロはサンジの瞳を見つめる。

「うん・・・・。 へへ・・・・俺、大好き。 ゾロ、大好き!!」

サンジは、目尻に涙を浮かべた状態で満面の笑顔を浮かべると、ギュッとゾロの首に再度

抱きついた。

壁に掛かっている時計が、午前0時を告げる。

「誕生日、おめでとう!!ゾロ!! 俺、ゾロの恋人になれて本当に良かった!」

そう言ったサンジの顔は、今までゾロが見た中で一番のとびきりな笑顔で・・・。

「おう! ありがとうな、サンジ。」

ゾロはそう言ってサンジの頬にキスを落とすと、サンジを抱えあげ、キッチンのドアへと歩き

出した。

「ほえっ?! あ、ちょ、ちょっと、待って!! 俺、俺まだ、後片付け途中で・・・・明

日の仕込みもまだだし・・・・」

急に抱かかえられて、サンジが慌ててゾロにそう声を掛ける。

「そんなの・・・・・後で俺が洗っとく。 誕生日だしな・・・。」

ゾロはそう返事すると、制するサンジに構い無く、キッチンのドアを開けた。

「「「「「ハッピーバースディー!! ゾロ!!!」」」」」

ドアの向こうでは待ち構えていたクルー達が一斉にそう叫んでクラッカーを鳴らす。

「な、なんだぁ?! てめえら、部屋に戻ったんじゃ・・・・」

これからサンジと二人っきりで愛を確かめ合おうと意気込んでいたゾロは、その光景に呆然

とした。

「そうよ。 一度部屋に戻って準備をして、あんたがキッチンに入ったの見届けてから

皆で飾り付けしてたの。 せっかくだから、皆でお祝いしてあげようってね・・・。」

そう言ってナミがにっこりと微笑んでゾロを見る。

「おう! 皆でパーティーだ!パーティー!!」

その隣りで、ルフィがそう言ってニシシと笑った。

「うっし!じゃあ、テーブルを甲板に持ってくるか! チョッパー、一緒に運ぼうぜ?」

「うん、わかった!ウソップ!」

ウソップとチョッパーそう言って、ゾロの横をすり抜け、キッチンに入る。

「お酒はこれくらいで良いかしら・・?」

ハナハナの能力を発揮して、ロビンがそう言いながら倉庫から樽を運んできた。

「クスクス・・・・・。 ゾロ、降ろしてな・・? 俺も準備しなくちゃ・・・。」

苦虫を潰したようなゾロの横顔を見ながら、サンジがそう言って笑う。

「・・・・・・ったく、将がねえな。 絶対にあの女の差し金だな、こりゃ・・・。」

ゾロは渋々サンジを床に降ろすと、そう呟いてナミを睨みつけた。

「ほらほら、ぐずぐず言ってないで、あんたもこっち来なさいよ。 一応、あんたが主役

なんだからね、今日は・・・。」

ナミはゾロの鋭い視線を無視してそう言うと、てきぱきとウソップ達に次の指示を出す。

「よぉ〜し!! 未来の大剣豪、ロロノア・ゾロの誕生日を祝して・・・!!」

「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」

ウソップの乾杯の音頭を取る中、パーティーが賑やかに始まった。




・・・・・くそう。

なんで、こうなんだよ・・・。




完全に二人きりの時間を邪魔されたゾロは、渋々酒を飲む。

「ほい! 肉、焼き上がったぜ・・?」

そう言ってサンジがパーティー料理をテーブルに並べた。

その顔は、ニコニコと本当に楽しそうで・・・。

「まっ、良いか・・・。」

ゾロはそう呟いてその姿を見つめ、口角を少しだけ上げた。






ロロノア・ゾロ。

サンジを恋人にして二度目の誕生日を迎えたその日は、ちょっぴり残念で幸せな日となっ

た。











<END>


 



<コメント>

【君の笑顔が、俺の幸せ。】ってな感じで・・・。
あー、書いてる途中、何度も逃避をしてしまったよ。(笑)
さて、何人砂に埋まったかな??
これは、昨年のロロ誕駄文【First Touch】の二年目バージョンです。
見てない方はそちらをご覧になると、ますます砂に埋まります。(笑)
脳みそ・・・・腐ったよね。(爆)
では☆