「ああっ・・・んっ・・・あっ・・・ックッ・・・」「ッ・・・・クッ・・・」
深夜のキッチンに響く、俺の声と身体の擦れ合う淫猥な音。
いつものように、誰も来ない深夜のキッチンであいつと過ごす。
俺から言いだした性欲処理だけのための・・・・・・・関係。
互いに熱を放出した身体は、俺に、気怠さとむなしさしか残してはくれない。
それなのに・・・・・・・
・・・・一体いつになったら、そのむなしさから解放されるのだろう・・・・
身体とは裏腹に、俺は、限界を感じていた。
性欲処理だけのこの関係に。
身体だけでなく、心まで求めてしまいそうになる自分に。
抱かれる度に、より一層強くなる自分の想いに、俺は、とまどいを覚えていた。
コレで最後・・・・
もう少しだけ・・・・
・・・・・いやだ・・・・・・離れたくねえ・・・・・
何度となく口にしそうになる、あいつの名前。
感情のまま、あいつにしがみついて、あいつの名前を言えたら、どんなにか楽になるだろう。
けど・・・・・・その名前を口にすることは、ない。
それが、俺の防波堤だから。
その名を口にしたら、俺は、続きを言っちまう。
・・・・・・好き・・・・だと。
そしたら、俺達の関係は、そこでお終い。
・・・・・わかってる。
ただでさえ、面倒くさがりのあいつが、そんな俺を抱くわけがない。
この感情は、互いに・・・・・・・・・・・・迷惑なだけ。
ふと、壁に付けてあるカレンダーを見た。
今日は・・・・・・・・・・・3月2日・・・・・・俺の、誕生日・・・・・・・・か。
止めりゃあ良いのに、勝手に俺の口が、動き出す。
「なあ・・・・・・・一度で良いから・・・・・俺の名前・・・・・呼んでくれよ・・・・」
「あァ?! なに言ってんだ、てめえ?」
あいつは、俺の隣で訝しげにそう言って、酒を飲んだ。
「・・・・・・今日、俺の生まれた日。 ・・・・・だから、プレゼント代わりに、俺の名を呼
べ。 簡単だろ? 呼ぶだけで良いんだ。 それでチャラにしてやるから。」
俺は、わざとおどけるようにそう言った。
心臓は、バクバクして今にも飛び出しそうなのに。
あいつは、黙ったまま、俺をじっと見ている。
俺は、心が見透かされそうで、自分から視線を外した。
「・・・・・・言わねえ・・・・」
あいつは、それだけ言って、空いた酒瓶をシンクに持っていく。
・・・・・やはり、な・・・・・・・
こいつが、呼ぶわけねえだろ・・・・・・
こいつが、時折見せる優しい扱いに・・・・・・俺は。
いつの間にか、見ちゃいけねえ夢を見てしまった。
「チェッ。 つまんねえ奴・・・・・」
俺は、そう呟いて、あいつに背中を向ける。
こんな事ぐらいで泣きそうになる自分が情けなかった。
震える肩を押さえるのに、必死だった。
背中に、あいつの吐いたため息と舌打ちが聞こえる。
「おらっ、こっち向けよ!」
あいつは、怒ったような口調で、俺の肩に手を掛ける。
「触んな! 疲れてんだよ!!」
俺は、そう言ってあいつを睨み付けた。
「・・・・・俺は、言わねえ。 今、言うと、てめえ、単純にプレゼントだからって、そう思
うだろ。 んなの、冗談じゃねえよ。 いいか? てめえは、どう思っているか知らねえ
が、俺はなぁ、伊達や酔狂なんかで男を抱く趣味はねえ。 俺には、その自覚が、
初めから有る。 じゃなきゃ、てめえを見て、勃つわけねえだろ。 ホモじゃねえし。
そのくらい、口にしなくてもわかれよ・・・・」
あいつは、真剣な瞳で、俺にそう言った。
俺は、その言葉が理解できなくて、ただただ、ポカンとあいつの顔を見ているだけだった。
「・・・・・・それって・・・・・どういう・・・・・」
俺は、それだけ言うのがやっと。
「これだけ言って、まだわかんねえのか、このニブチンが。 てめえと一緒だって、
そう言ってんだよ! てめえだって、俺の名前、いっぺんも呼んだことねえじゃねえ
か。 明日になったら、ちゃんと呼んでやるから、てめえも、俺の名前、ちゃんと呼べ
よな。」
あいつは、そう言って、また、俺の上に覆い被さってきた。
それって・・・・・・それって、ゾロも俺と同じ気持ちだってこと??
「!!ッ・・・・ゾッ・んっ・・」
嬉しさのあまり、あいつの名前を口にしようとした瞬間、俺の言葉は、あいつのキスでかき消
された。
「シッ。 ・・・・・もうすぐ、てめえの誕生日も、終わりだな。 誕生日、おめでとう。
けど、名前も、その後の言葉も、明日まで、お預けだ。 明日になったら、言ってや
る。 明日から、ずっと、な。」
あいつは、壁の時計を見てから、そう言って笑った。
その笑顔に、俺の心臓は、またドキドキと音がして・・・・・
「・・・/////てめえって、結構、口が達者な奴だな。 体力だけの馬鹿野郎かと思っ
てたぜ。」
俺は、照れ隠しにグイッと、あいつの頭を胸に引き寄せる。
「馬鹿は余計だ、馬鹿は。」
あいつはそう言って、事も有ろうか、また、俺の胸に、舌を這わせた。
「ヤッ・・・なにすんだよ。 さっきヤッたばっかじゃねえか。 止め・・・ろって・・・
あっ・・」
「誘ったのは、てめえだろ? それに、もう誕生日じゃねえし・・・・」
ゾロは、ニヤリと笑ってそう言った。
それから、俺達は、初めて、互いの名を呼び合って・・・・・・・
俺は、一日遅れで、凄えプレゼントを貰った。
むなしさの代わりの心地よさと。
ロロノア・ゾロ・・・・・・・未来の世界一の大剣豪って奴を。
<END>
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