Halloween Kid



 




「Trick or Treat? ・・・・・・お化けだぞ・・・・怖いんだぞ・・・・。」

「ロロノア君。 君、そんなんで、人が驚くとそう思ってるのかい?」

先生にそう言われ、ゾロはシュンと項垂れる。




俺なりに一生懸命やってるんだけどな・・・。




「・・・・・・もう良いです。 えっと、次は、ルフィ君、やってみてください。」

先生は、ゾロを見て溜息を吐くと、そう言ってゾロを席に着かせた。





ここは、ハロウィンスクール。

ハロウィンの街で唯一つの学校。

ハロウィンに住んでいる子供達は、ここで正しいハロウィンのモンスターやお化け、魔女等の

知識や訓練を受け、人間界に明るく楽しいハロウィンを過ごしてもらうよう努力しているのだ。

ゾロは、今年、入学したばかり。

ピカピカの一年生。

ただ、のんびりとした性格が災いしているのか、ハロウィンスクールではやや落ちこぼれ気

味。

「クスクス・・・・女の子だったら、魔女の変装して可愛く言えば、それで済むんだけど

ね・・・・。 ゾロ、男の子だしね。 鼻の長い、見た目にも人間離れしてるウソップや、

身体が伸び縮みするゴム人間のルフィ達と比べたら可哀想よね。」

隣の席に居るくいながそう言ってゾロを慰める。

「・・・・・そうなんだよなぁ。 俺、全然モンスターらしくないし・・・・。 第一、人を驚か

すのって好きじゃない。 けど・・・・・・人間界には、行ってみたいし・・・。 なぁ、

くいな、人間ってどんな奴らなのかなぁ?」

まだ見ぬ世界に瞳を輝かせて、ゾロはくいなにそう言った。

「・・・そうねえ。 去年行った時は、優しいおじいさんやおばあさんが居たわよ。 にこ

にこして、いらっしゃいって・・・・・。 あたし、また、その家に行こうと思ってんだ。

・・・・・ゾロも、一緒に行く? 優しいから、きっと大丈夫よ。」

そうこっそりと、くいながゾロに耳打ちをしていると、急に先生の声が聞こえた。

「くいな君。 そんな事言ったら、テストにならないでしょう。 いいですか? 人間界

に行くのは、遊びに行く事ではありません。 皆さんも、十分に理解しておいてくださ

いね。 これは、テストなんです。 ここの住人としてふさわしいか、ここでのお勉強が

十分にその身についているのか。 今まで、落第した者は一人しかいませんが、も

し、このテストで不合格の烙印を押されたら、それはもう口では言えないような不幸な

目に遭うのです。 良いですか? そうならないためにも、皆さんもきちんと復習しま

しょうね。」

「「「「「はぁ〜い!!!」」」」」

先生の言葉に、子供達が一斉にそう返事する。

「・・・・・・・・・不幸な目って、どんな目なんだろう・・・?」

「ロロノア君、そんな事を考えてないで。 ハイ、もう一度、前に出てやってみてくださ

い。」

ボソリと呟いたゾロの言葉に、先生は素早く反応してそう言ってゾロを前に出した。

「Trick or Treat? い、悪戯しないと、お菓子を貰うぞ・・・。」

「違ーーーうっ!! 反対でしょ?ロロノア君。 お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、でし

ょ? ハイ、もう一度・・・・」

「お菓子をくれなきゃ、悪戯する・・・」

「ハイハイ・・・。 今度は、決め台詞が抜けてますよ。 ハイもう一度・・・」

「Trick or・・・・・」

クスクスと子供たちが笑う中、ゾロは一生懸命に人を驚かす為の特訓を受け続けた。









数日後。

今日は、ハッピーハロウィンの日。

皆、それぞれ、この日の為に作っておいた自慢の服を着て、人間界への扉を開ける。

「はぁはぁ・・・。先生、ごめんなさい、寝過ごして遅刻してしまいました・・・。」

時計の針は夜の7時を既に回り、他の子供達はとっくに人間界で行動していた。

「・・・・・ロロノア君、君って・・・・・。 まぁいいでしょう。 じゃあ、私について来てくだ

さい。」

先生はそう言って箒に跨ると、人間界への扉を開ける。

ゾロもそれに続いた。

「・・・・・ロロノア君、良いですか? このテストは、パンプキング様もご覧になってい

ますから、ちゃんと頑張ってくださいね。 ご子息の貴方が不合格では、私の指導力

が疑われてしまいます。 ・・・・・聞いてますか?ロロノア・・・・・えっ?? ええーー

っ??!!」

くどくどと説教を繰り返し、振り向いた瞬間、後ろにゾロが居ないのを知って、先生が驚きの

声を上げる。

「・・・・・・・・・・箒もろくに扱えなかったんですね。 困ったものです。 あれで立派な

未来のパンプキングになれるのやら・・・・」

先生は、深く溜息を吐くと、ゾロを捜しに人間界に降り立った。











「痛えーーーっ!! この馬鹿箒!! なんでちゃんと飛ばないんだよ。 イタタ

タ・・・・」

自分の力不足を棚に上げ、ゾロはそう言って箒に文句を言う。

それから、呪文を唱えて箒を小さくして内ポケットに入れた。

ゾロの落ちたところは、鬱蒼とした森の中。

近くに人の気配は無い。

「えっと・・・・・ここは、何処だ? 俺・・・・・・何処に行けばいいんだろう。」

いつまでも、そこにいる訳にもいかず、ゾロは当ても無く歩き始めた。

梟が怪しく鳴き、シンとした森は、子ども一人歩くのはとても怖い。

ざわざわと風で動く木々が、自分を襲いそうな気がして、だんだんと歩く速度が速くなる。

「こ、怖いもんか。 俺は、ハロウィンの子どもだぞ・・・・・怖くなんか・・・怖くなん

か・・・・ないやい・・・・・。」

むやみやたらに大声を張り上げ、草むらを突っ切った。

と、そこに、見えた灯り。

ゾロは、ホッと胸を撫で下ろし、その灯りの方へ向かった。

家の軒先には、ジャックランタンが飾ってある。

ゾロは、それを見てようやく自分が人間界に来た理由を思い出した。




そうだ、俺。

人を驚かして、お菓子貰って・・・・・

そうしたら、合格だ。

合格したら、先生も、父さんも褒めてくれる。

そしたら・・・・・・堂々とハロウィンの街に帰れるんだ。




よしっと気合を入れて、ドアをノックする。

内側から、カチャリとドアノブが開く音がした。

「Trick or・・・・・・・・!!!!!」

気合を入れて発した台詞は、最後まで言えなかった。

だって、ゾロの瞳の前には、血塗れの吸血鬼がいたから。

その吸血鬼にジロッと睨まれて、ニタッと笑われた。

口からはみ出した二本の牙。

その口元は、真っ赤な血が滴り落ちていて、服にも返り血らしきものがついていた。

スーッとゾロの血の気が引く。

「ククク・・・・・子どもの血は、大好物だ・・・・。」

そう言って、その吸血鬼はゾッとする様な冷たい声と共に、ゾロの腕を掴んだ。




ヒィーッ!!




ドタッ!!

ゾロは、声も上げれず、その場で気を失う。

「オ、オイ!!大丈夫か?? あっちゃあ・・・・・・ちとやりすぎたか・・・。 けど、この

坊主、見たことねえ顔だな。 よっこらしょっと・・・・・」

ゾロの様子に慌てた吸血鬼は、そう言ってゾロを部屋の中に運んだ。

「う・・・・・ん・・・。 ・・・・・れ??」

「・・・・・気が付いたか?」

次にゾロが瞳を覚ましたのは、見たことの無い部屋のベッドの中だった。

「き、吸血鬼は??!」

ガバッとベッドから飛び起き、傍に居る男にそう聞く。

「ククク・・・・ああ、あれな、俺だ、俺。」

男は苦笑してそう言いながら、ゾロの手に温かい飲み物の入ったカップを持たせた。

「えっ?! じゃあ、あんたが、き、吸血鬼?!」

「オイオイ・・・・本当に居る訳ねえだろ、んなもん。 今日は、ホレ、ハロウィンだろ? 

だからさ、お菓子貰いに来た子どもを逆に驚かそうと思って、変装してただけだ。」

ビクビクと怯えて話すゾロに、男はそう言って、血糊と先程の変装道具を見せる。

「・・・なんだ、良かったぁ。 本物かと思っちゃったよ。 はぁ・・・・。」

男から手渡された飲み物を飲みながら、ゾロはそう言ってにっこりと笑った。




クスクス・・・・本当、純粋な子なんだなぁ。

今日来た子供達と全然違うな。

あんな子供だましに引っ掛かるなんて・・・・・・・・まっ、子どもだけどよ。




「さてと・・・・送っていってやるから・・・。 家は何処だ? 遅くなったから、家族の人

心配してるぞ、きっと・・・」

そう男に言われて、ゾロはハッとする。




そう言えば、俺・・・・・・

どうやって帰るのか、先生に聞いてなかった。




「・・・・・・・・・どうしよ・・・・。」

急にハロウィンの街が恋しくなり、ゾロは悲しくなってくる。

「ん・・? どうした?」

ゾロの呟きを聞いて、男が怪訝そうにゾロの顔を覗き込んだ。




どうしよ・・・。

どうしたら、家に帰れる・・??

俺・・・・・・わかんないよ。

もう・・・・・・俺、帰れないの?




「・・・・・・・・家に帰り方がわからない。 俺・・・・・・家に帰れないよ・・・・うっく・・・・」

とうとうゾロはそう言って泣き出してしまった。

「ゲッ! どうした?! 大丈夫だから・・・・ああ、大丈夫。 そんなに泣くなよ。 

絶対に帰れるから。 なっ?! そ、そうだ。 ケーキがあるんだ。 一緒に食べない

か? その内にきっと思い出すさ。 それにさ、俺も一緒にお前の家探してやるか

ら・・・・・なっ? だからさ、泣くなよ・・・。」

泣き出したゾロに、男は慌ててテーブルの上のケーキを指差し、慰める。

「でも、俺・・・・・・」

「いいから、いいから・・・・。」

ぐずるゾロを男はそう言ってテーブルに座らせた。

「えっと・・・・俺の名前は、サンジ。 坊主はなんて名前だ?」

カップに温かいココアを注ぎながら、サンジがゾロにそう尋ねる。

「・・・・・・・ロロノア・ゾロ。」

「う〜・・・ん。 ロロノアねえ・・。 聞いた事ねえ名前だな・・? 最近、越してきたの

か?」

サンジの問いかけに、ゾロが黙って首を横に振った。

「・・・・・じゃあ、住所は何処だ? 自分の住んでいる場所の名前ぐらいは知ってるだ

ろ?」

「・・・・・・・・・・・ハロウィン。」

「・・・・いや、それは、今日の日はハロウィンだがよ。 住所だ、住所。」

「うっく・・・・・・だから・・・・・・ハロウィン・・・」

また、ゾロの瞳に薄っすらと涙が浮かんでくる。

「あたた・・・・もう良いよ。 今日は取り敢えず遅いから、ここに泊まって・・・・明日、

捜してやるからさ・・・・・参ったな、こりゃ・・・・。」

泣かれるのは勘弁と、サンジはそれ以上聞かない事にした。

どっちみち、明日、街に行けば、小さな街の事だ。

何処の子供かすぐわかるだろうと、サンジはそう考えていた。

そのうち、疲れが出てきたのか、ゾロはテーブルでうとうとしだす。

意識はもう夢の中にいるらしく、コクンコクンと首が上下に激しく揺さぶられていた。

「クスクス・・・・・仕方ねえなぁ。」

サンジは、その様子に微笑んで、ゾロを抱き上げてベッドに寝かせる。

それから、自分もそのまま、ゾロの隣りに潜りこんで一緒に眠った。

 

翌日。

ゾロと一緒に、サンジは街へと繰り出す。

いつも仕入れに行く店の店主に聞いてみたり、酒場の物知りじいさんにも、ゾロの事を聞い

てみた。

しかし、何処で聞いても、誰に聞いても、『こんな子どもは見たことが無い。』と口を揃えてそ

う言われる。

「・・・・・・あのさ、サンジ・・・・・。」

ゾロが、言い難そうにもごもごと声を掛けた。

「あ? 待ってろよ、ちゃんと捜してやるからな。 絶対にお前の家、見つけてやるか

ら・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・う・・・ん・・・。」

にっこりと笑い、真剣な表情で人に聞きまわるサンジに、ゾロは何も言えなくなってしまう。




・・・・・・・・どうしよ・・・。

サンジってば、凄くいい人・・・。




結局、一日中、聞きまわり捜し歩いても、ゾロの家は見つからず、サンジは途方に暮れる。

「・・・・・・はぁ。 マジで参ったなぁ。」

眉間に深く皺を寄せ、特徴的なぐるぐる眉毛をへにょんと下に下げてそう呟くサンジに、

ゾロはギュッと唇を噛んだ。




・・・・・・・・・・・これ以上、サンジに迷惑は掛けられないよ。

・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね、サンジ。

・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう、サンジ。




「あ、そうだ! 俺、思い出しちゃった! ごめん、サンジ。 俺、家、思いだしたから、

もう大丈夫!!」

ゾロはサンジにそう告げる。

「えっ?! 本当か?? マジに?? どれ、何処だ? どっちだ?」

「・・・・・・・うん。 あっちの方。 だから、サンジ。 俺、一人で帰れるから・・・・・」

嬉しそうなサンジの顔に、ゾロは泣きたくなるのを堪えてそう言って、適当な方向を指差し

た。

「いや、これも何かの縁だろ? 家まで送ってやるよ。」

サンジはそう言って、ゾロの手を掴もうとする。

「あ、ううん・・・・・・・・・・・・・大丈夫、すぐそこだから・・・・・・じゃあね、サンジ。 

本当にどうもありがとう・・・。」

その手を振り解いて、ゾロは急いで駆け出した。

「あっ、ちょっ・・・待てって!!」

そう言って、後ろからサンジが追いかけてくる。

追いつかれるのは時間の問題。

そうすれば、自分の吐いた嘘がサンジにバレてしまう。

「箒でポン!」

路地を曲がり、急いで内ポケットから箒を取り出して跨る。

箒は、ゾロを乗せて、空中へと浮かんだ。

「・・・・・・ありゃ?? おかしいな? 確かにこの路地に入ったと思ったんだが・・?」

自分の頭上に浮いていると思いもしないサンジは、キョロキョロと辺りを見回して、ゾロの姿を

捜した。

「・・・・・・・おかしいな。 まっ、いいか、無事に帰れたんなら・・・・」

そう言ってサンジは路地を出て、元来た道を戻っていく。

それを見て、ゾロは路地に降りた。

「・・・・・・・・・ごめんね、サンジ。 けど、俺、これ以上サンジを困らせたくないん

だ・・・・・。」

ゾロは、サンジの後姿にそう呟いて、トボトボとサンジとは反対の方向へと歩き出す。

太陽がゆっくりと西に傾いて、街灯の明かりが点きだした。

人影もまばらになり、通り過ぎる窓の中から、楽しそうな家族の笑い声が聞こえる。

「っ・・・・・泣くもんか。 俺は、ハロウィンの子どもなんだぞ。 だから・・・・・これ位平

気だ。 ちっとも寂しくなんかない・・・・・・」

街の中心の広場にある噴水の縁に腰掛けて、行き交う人々を見つめる。

誰一人、ゾロに声を掛けるものも、気付くものも居ない。

吹く風もだんだんと冷たくなってきた。




・・・・・・・・サンジは今頃、どうしてるかなぁ・・・。

・・・・・・・・もう、俺のことなんか忘れてるよね。




思い出すのは、ハロウィンの街でも家族でもなくて、昨日一緒に過ごしたサンジの事ばか

り。

「っ・・・・・サンジぃ・・・・・・・・・・」

膝を抱えて身体を曲げ、そっと、サンジの名前を口にする。

すると、我慢していた涙が、堰を切ったように止まらなくなってしまった。

「ばぁ〜か・・・。」

ふと、声が聞こえた。

聞き覚えのある声だった。

ゆっくりと顔を上げ、その方をじっと見る。

そこには、紫煙を揺らし、にっこりと笑って自分を見ているサンジの姿。

「ったく・・・・・・本当に、世話の掛かる奴だな、てめえはよ・・・。」

そう言ってサンジはゆっくりとゾロに近づいてきた。

「・・・・・・・・どうして?!」

ゴシゴシと瞳を擦り、サンジを見つめる。

「ん・・・・・・なんとなく、な・・・。」

サンジはそれだけ言うと、自分が着けていたマフラーをゾロに掛けた。

「・・・・・・いつかは、帰れるさ。 それまでは、俺ん家に居ろよ。」

「っ・・・・・・うっく・・・・・・サンジぃ・・・・・・・・・」

ゾロは、差し出されたサンジの腕にギュッとしがみ付く。

「ハイハイ・・・・。 なんだ、身体が冷え切ってるじゃねえか。 ったく、早く帰って飯に

しようぜ。」

「うん!!」

ひょいとゾロを肩に担ぎ上げ、サンジはゾロと共に家路についた。





「さぁて、出来たぞ。 今日はシチューだ。」

「うわ〜い! いただきまぁ〜す!!」

「ほら、もっとよく噛めよ。 そんなに急いで食べなくても、まだたくさんあるんだか

ら・・・。」

もぐもぐと口一杯に頬張って美味しそうに食べるゾロの姿に、サンジは苦笑してそう言った。




こんな楽しい食事は、久しぶりだな・・・。




瞳の前でニコニコと笑顔で食事するゾロに、サンジは心が温かくなるのを感じる。

「サンジ、凄く美味しいよ。 ・・・・・・・・・・・・ありがとう、サンジ。」

ゾロは、そう言ってぺこりと頭を下げた。

「いや・・・・これも何かの縁だろ。 遠慮なんかしなくて、ずっと居ても構わねえから

な。」




・・・・・・・そう。

本当に・・・・・・・・・・

ずっといても・・・・・・・・・良いから・・・。




クシャッとゾロの髪を撫で、サンジはそう言って笑う。

「・・・・・夜分に申し訳ありません・・・。」

不意に、玄関のチャイムが鳴り、そう男の声が聞こえた。

「ったく、食事中になんだよ・・・・、」

ブツブツと文句を言いながらも、サンジは玄関のドアを開ける。

「・・・・・・どちら様ですか?」

サンジが玄関のドアを開けると、黒いマントを羽織った男が恭しく頭を下げる。

「あの、こちらに、子どもがお邪魔していると伺ったものですから・・・」

男は笑顔で、そうサンジに告げた。

「えっ?!」

その言葉にサンジはドキリとする。

その言葉は紛れも無くゾロの事を差していて・・・・

それは、イコールゾロを迎えに来たと言うことで・・・・・

「あの・・・・・・で、子どもは、何処に?」

「あ、ああ・・・・・・今、食事をしていたところで・・・・・・。」

申し訳なさそうに言う男の声に、サンジは慌ててそう返事した。

「・・・・・・どうしたの?サンジ?? あっ、先生・・・・。」

戻ってこないサンジを追って、ゾロも玄関に出てきた。

「・・・・・・捜したよ、ロロノア君。 全く、君にも困ったもんだ。 さっ、戻ろうか・・?」

深い溜息と共にそう言って、先生はゾロを手招く。

「あ、でも・・・・・・。」

ゾロはそう呟いて、じっとサンジを見つめた。

迎えが来て、ハロウィンに、家族の元に帰れると言うのに、何故だか、この場所から離れたく

なかった。

「・・・・・・・・・サンジぃ・・・。」

どうしようもなく離れ難くなって、ゾロはサンジの名前を呼ぶ。

サンジは、その様子にフッと軽く微笑んだ。

「良かったじゃねえか、迎えに来てくれて・・・・・・。 じゃあな、ゾロ。」

ポンとゾロの頭を軽く撫で、サンジは部屋に戻っていく。

「ッ・・・・・サンジぃ・・・・。」

「ほら、行くよ、ロロノア君。 じゃあ、ありがとうございました。」

先生は、ゾロの手を掴んで、外に出た。

「帰りは、私の箒で二人乗りして帰りましょう。 こんな事は、もうごめんですからね。 

しっかり掴まってて下さい。」

先生は呪文を唱えて箒に跨ると、ゾロを自分の前に乗せる。




・・・・・・・サンジ・・・。

さよならも言えなかった。

もう逢えないかもしれないのに・・・・・




箒に跨り、ゾロはじっとサンジの家の窓を見つめた。

薄っすらとサンジの影が窓から見えた。

「じゃあ、飛びますよ。」

スッと箒が宙に浮く。

「サンジーッ!! ありがとう!! 俺、忘れないから!!」

飛び立つ直前、ゾロはサンジに向かってそう叫んだ。

「ゾロ!!」

バタンと、玄関のドアが勢い良く内側から開く。

「ハハ・・・・・・・・・・・本当に、ハロウィンの子どもだったんだ。 ・・・・・バイバイ・・・・

ゾロ。」

あっという間に小さくなっていくゾロの姿を見上げながら、サンジは寂しそうにそう呟いた。
















「・・・・・・・・・・・とうとう、このスクールで二人目の落第者が出てしまいました。 

如何なさいますか?パンプキング様・・・。」

男が、パンプキングの前でそう告げる。

その男とは、ゾロの先生。

その横に、俯いたままのゾロが居た。

「・・・・・・・・仕方あるまい。 例え、私の息子だろうと、例外は認められぬ。 

しかし・・・・・・・困ったものだ、ゾロにも・・・。」

親としての子を思う気持ちとパンプキングとしての立場に、ゾロの父親は苦笑しながらそう言

った。

「・・・・・・・では、ご処分を・・・・」

「うむ。 ロロノア・ゾロ、そなたを向こう一年間、人間界へ追放するものとする。」

パンプキングは、ゾロに向かってそう命令を下す。

「えっ?!」

「ハイ、仰せのままに・・・。」

キョトンとするゾロを尻目に、先生はパンプキングに恭しく一礼をして、その場を去って行っ

た。

「・・・・・・・お父さん、俺・・・・」

ゾロはおどおどしながら、父親であるパンプキングの顔を見る。

「・・・・・・・息子よ、案ずる事は無い。 父もまた、お前の年齢の時には、そうだった

のだから・・・・・。 パンプキングとなる者は、他人よりもその成長に多くの時間を費

やすと言う。 お前はこれから人間界で一年間、過ごすのだ。 そして、人間というも

のをより深く理解するように・・・・。 それが、お前の修行だ。」

優しくゾロに微笑んで、パンプキングはそう告げる。

「ありがとう、父さん。 うん、俺、頑張るよ。」

「では・・・・・・何処か希望の地はあるか? それ位なら、父として叶えてやろう。」

「本当?! じゃあ・・・・!!」

父親の言葉に瞳を輝かせて、ゾロはそっと耳打ちした。

「ハッハッハ・・・・なるほどな。 ・・・・・わかった。 じゃあ、気をつけて行くが良い。」

息子の言った言葉に、パンプキングはそう言って笑った。


















「・・・・・・・・・・・・不味い・・・。 どうしちまったんだろ、俺・・・・・」

同じように作った料理でも、一人で食べる食事は、なんとも美味しくない。

あれから、サンジは、家の中でボーっとする事が多くなった。

大好きな調理もなんとなくやる気がしないで、店を開ける気もしない。




一度、ああいうの味わうとなかなか元には戻れねえな・・・。

たった一日だけだったのにな・・・。




「・・・・・・・・・ゾロか・・・。」

食事をそこそこに、サンジは、ごろりとベッドに寝そべる。

「Trick or Treat?」

不意に、子どもの声が耳に入った。

「・・・・・・・馬鹿な奴だな。 ハロウィンはもう終わっただろうが・・・・」

無視するのも気が引けて、サンジは、だるそうに玄関のドアを開ける。

「Trick or Treat? へへ・・・・サンジ、俺、修行だって・・・。 来年のハロウィンま

で、人間界で修行だってさ・・・!!」

そう言うが早いか、ゾロがサンジに飛びついた。

「な、なんだよ、てめえ・・・・・??!!」

いきなり飛びつかれ、サンジは床に尻餅をつく。

「あのね、サンジ、俺、俺・・・・」

「わ、わかったから、ちゃんと俺にわかるように話せよ。」

自分の首にギュッとしがみ付いて興奮気味に話すゾロに、サンジはそう言って抱かかえた。

「だからね、一緒にいられるんだよ!サンジ!!」

そう言ってゾロは、今までの経緯をサンジに話して聞かせる。

「ふ〜ん・・・。 そっか。 そういう理由じゃ仕方ねえな。 一年間、面倒見てやるよ。 

あっ、飯食うか? 俺も今、食ってたんだ。」

「うん! 食べる!!」

にっこりと笑って、ゾロとサンジは部屋に入る。

「ほら、良く噛めよ。 あー、零してるじゃねえか。 ったく・・・・世話の掛かる奴・・。」

そう言いながらも、ゾロの頬を拭うサンジの顔は、満面の笑みを浮かべていて・・・。

「へへへ・・・・・美味しいよ、サンジ。」

ゾロもまた、幸せそうににっこりと笑った。

 

 

「・・・・・・・・・・少々、甘すぎたかな・・・・?」

「・・・・・・・・・まぁ、宜しいんじゃないんですか・・・。」

「・・・・・しかし、ここと人間界とでは、時間軸が違うからなぁ・・・。 あの人間がそれ

に驚かなければ良いが・・・。」

「・・・・・・・・なんとかなるでしょう。 それも・・・・。 ええ、たぶん、きっと・・・・。」

「・・・・・・・だな。」

人間界のゾロを見鏡で覗き見ながら、パンプキングと先生は囁きあう。









「て、てめえは、一体誰だーーっ?!」

自分に寄り添うように眠っている一人の男にサンジが絶叫したのは、一週間経った早朝の

事・・・・・。

その後どうなったのかは、また次の機会に・・・・・・・




取り敢えず、めでたし、めでたし・・・・・・









<END>


 



<コメント>

・・・・・・ハロウィーンネタ。
こんなのでも、一応、ハロウィーンネタなんです!!(笑)
今年のテーマは、いかにロロノア・ゾロが可愛いか!!(腐)
それを追求してみようと・・・・(爆)
ラブラブなゾロサンを想像していた方!
申し訳ない!
その様子は、ロロ誕にてvv(えっ?!)

                                             2003.10.24.


閉じてお戻りください。