Trick or ・・・





「ふざけんな、てめえ・・・ 俺は、てめえにそんな事言われる筋合いはねえ! 

何で、万年寝腐れ能なしクソ剣士に、そんな事言われなきゃならねえんだ。 いい加

減にしろよ・・・このクソマリモ!」

「・・・別に。 俺は、思ったことを口にしたまでだ。 てめえが、甲斐甲斐しくルフィ達

のおやつ作ったり、洗濯したり、まるで、母親のようだと、そう思ったから、そう口にし

たまでの事。 てめえこそ、俺のこと、能なしやら、クソマリモやら、言いたい放題言

いやがって、その減らず口、今日こそ、海に沈めてやる! 表に出ろ!!」

「はん! てめえのクソ鈍い剣なんかで、この俺様の、セクシーな唇なんざ、掠るわけ

もねえだろ! その前に、甲板にお昼寝させてやるぜ、寝腐れマリモ!」

「なにを〜、このグルグル渦巻きが!」

そういがみ合いながら、ゾロとサンジは、キッチンを出ていった。

バキッ、ガシャンッ、ドコッ、ドカッ、ガタガタドタ〜ン!!






やれやれ・・・また始まったわ・・・

ゴーイングメリー号名物『キレるラブコックと魔獣マリモ』の闘い。 

本当、毎日やってんのに、良く、飽きないわね。

・・・でも、いい加減にして欲しいわ。

さっきから、テーブルが揺れて、海図が全然書けないんだけど・・・

・・・それに、そのうち、きっとどっちかが、大怪我するわよ。

二人とも、いざとなったら、重要な戦闘員なんだからね。

その二人が、お互いに大怪我させたりしたら、どうしようもないでしょうが・・・

ああっ、もう、全く・・・・

ナミは、大きくため息を一つ吐いて、二人が、いがみ合う甲板に向かう。





ここは、グランドライン・・・に入る一歩手前の海域・・・

嵐に助けられるように、ローグタウンを後にしたルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ、ナミの5人

は、いよいよ、目的のグランドラインへと、順調に航海していたのである。

サンジが、この船のクルーになってから、いや、正式には、ナミが、この船のクルーの一員と

して、またこの船で、航海を続けることになった日から、ゾロとサンジは、毎日、このせまい甲

板上で、いがみ合い、乱闘を繰り広げる。

喧嘩の原因は、決まって、ほんの些細なこと。

さしずめ、今日の原因は、おやつ時に、全員がテーブルに揃ったときに発した、ゾロの一言。

「・・・てめえ、ルフィの母親みてえだな。」

その『母親』の一言が、サンジの逆鱗に触れたらしい。





「あんたたち、いい加減・・・」

そう、キッチン前のテラスから、ナミが二人に怒鳴りつけようとしたとき、急に、船が傾いた。

「おわっ!!」

タイミング悪く、傾いた甲板で体制が崩れたサンジの左腕に、ゾロの三代鬼徹の刃が、触れ

た。

ザシュッ

サンジの腕から、血沫が飛んだ。

「「あっ!!」」

「サンジ君! 大丈夫?! ウソップ!! 急いで、キッチンにある、救急箱持ってき

て!!」

ナミは、大声で、キッチンにいるウソップに救急箱を持たせ、サンジの元に走る。

サンジの左腕は、予想以上に斬れているらしく、なかなか出血が止まらない。

ナミは、その顔に怒りを滲ませて、その怪我の原因を作った剣士を睨み付けた。

ナミは、その馬鹿な剣士に、サンジを怪我させたことを詰ろうと思っていた。

・・・しかし、その剣士は、どちらが怪我をしているのか解らないほどに、青ざめ、真っ直ぐに、

サンジの傷口を見つめている。



だらりと力無く下げられた腕・・・

顔には、己の愚考を責める後悔の色・・・

そして、なにより、その瞳が・・・・ゾロの心情を全て露呈していた。

・・・傷つける気は、毛頭なかったのだと・・・

・・・こんなことになるなんて・・・・考えてもいなかったんだと・・・・



ナミは、ゾロのそんな表情を見て、何も言えなくなったしまった。

不器用な剣士が選んだ、精一杯の触れ合い・・・

いつ頃からなんだろうか・・・

そう、アーロンパークで二人で闘ってくれたあのときから・・・

気が付けば、喧嘩していた・・・

ゾロは、確かに、サンジ君のことを瞳で追っていた。

それは、初めてゾロが見せた、人への執着・・・

迂闊だった・・・

もっと早くに、ゾロの気持ちに気付いてやっていたら・・・

・・・もっと違う触れ合い方を教えてやることが、出来たかも知れない・・・

この武骨で、不器用な剣士に・・・

今思えば、この剣士の言い方には、いつも棘があった。

それは、サンジが、主に、ルフィに、絡まれて仕方なく言うことを聞いてやっているとき・・・

あれは・・・嫉妬の表れ・・・

自分の方を見て欲しくて・・・いたずらしてしまう子供のような・・・

・・・自分にもかまって欲しい・・・そう素直に言えない・・・棘・・・



ナミは、ゾロには何も言わず、サンジの腕に包帯を巻いて、手当をした。

「すみません、ナミさん。 とんだ心配をおかけして・・・ もう、大丈夫ですから。」

そう言ってサンジは、にっこりとナミに笑いかけた。



・・・サンジ君の方は、どうなんだろう・・・

確かに喧嘩っ早いのは、気性のせいだとは思うのだけれど・・・・

あたしは、この前・・・見てしまった・・・

ゾロが食べた食器を最後に、愛おしそうに洗う姿を・・・

それから注意深く観察していたら、その日だけじゃなかった。

サンジ君は、必ず、ゾロの食器を一番最後に洗う・・・

・・・とても、ゆっくりと、時間をかけて・・・・

・・・・それって・・・やっぱり・・・そういうことよ・・・ね。

「おい! いつまで、ボーっとしてんだよ。 たまたまタイミングが悪くて、俺がよけき

れなかっただけのこと。 てめえが、責任感じることは、全然ねえんだよ。 偶然だ、

偶然。 いつもだったら、これくらいちゃんとよけきってるだろが。 さあ、その刀しまっ

て、手入れしろよ。 錆ちまうぞ。」

サンジは、何でもないふうに、ゾロにそう言った。

「・・・すまない。」

ゾロはそれだけ言うと、男部屋に向かっていった。

それをずっと、見つめるサンジの視線・・・



・・・ふう・・・全く、ここまで不器用な二人にも、困ったモノだわね・・・

・・・何とかしなくては・・・こんな空気は、もうたくさん。

ナミは、策謀を練り始めた。

・・・まあ、こんなモノで、良いでしょう、あの二人には・・・

根が、単純だしねっv



次の日。

ゴーイングメリー号は、昨日の嫌な空気をまだ引きずっていた。

ナミは、ウソップとルフィを呼んで、協力を仰ぐ。

「いい? この雰囲気を一掃するために、二人に協力して欲しいの。 報酬は、ルフ

ィ、この嫌な雰囲気が無くなったら、サンジ君に頼んで、お腹一杯、肉料理を食べさ

せて上げるわ。 ウソップには、そうねえ・・・開発費を、今度の島で、補助してあげる

わ。 どう? 悪い話じゃないはずよ。」

「その話、のった!」

「っで、何をすれば良いんだ?」

「そうこなくっちゃ! ルフィはね・・・今日一日中・・・ ウソップは、ゾロに・・・・」

ナミは、そう言って、二人に指示を出した。

ナミが指示を出したのは・・・

ルフィには、今日一日中、何かにかこつけて、サンジ君にまとわりつくこと。

まあ、これは、しょっちゅうやってることだから、簡単よね・・・

ウソップ・・・彼の勇気にかかっているわ、この作戦は・・・

ウソップには、ゾロに、『ルフィが、サンジのこと好きだからって、告白するらしいゾ。 ルフィの

ことだから、絶対に、実行するな。』と、それとはなしにゾロの耳に伝えること。

その後、ウソップが、無事で済むかどうかは、あたしの関知しないとこだけど・・・

彼に、絶対にやってもらわなくっちゃ。

あたしだって、自分の身は、可愛いもの・・・

・・・そして、あたしは・・・

ナミは、昼食が済んだキッチンで、サンジが、皿を洗う姿をじっと観察する。

やっぱり・・・ビンゴ・・・ね。

「サンジ君、最近、気が付いたんだけど、サンジ君って、ゾロの食器、一番最後に洗

うのね。 どうして?」

ナミは、サンジの背中に、わざと大きな声でそう言った。

ガシャ〜ンッ!!

大きな音とともに、サンジの手から皿が落ちた。

「はは・・・ナ、ナミさん、急に、な、何言い出すかと思えば・・・」

サンジは、平静を装うかのように、タバコに火を付ける。

「・・・サンジ君・・・何そんなに慌ててるの? タバコ、逆よ。 別に、あたし、男同士

だろうがどうだろうが、本当に好きだったら、関係ないって、そう思ってるわ。 サンジ

君、あたしには、本当のこと、話してくれるわよね?」

・・・本当に・・・隠すの下手・・・ね。

ナミは、あわてふためくサンジにそう言った。

「・・・ふ・・・ナミさんには、敵わないな・・・ いつからわかってました? 俺が、ゾロ

のこと好きだって。」

サンジは、観念して、そう認めた。

「・・・最近になってからよ。 サンジ君、いつも、ゾロの食器、別によけて、一番最後

に洗ってたでしょう? 最初は、偶然かと思ったけど・・・偶然が、続くと、必然よ・・・

ね?」

ナミは、そう言ってにっこりと笑う。

「・・・でも、俺、ゾロに、嫌われてるみたいだし・・・ まっ、男が男に惚れる事自体

が、おかしいんですよ。 ・・・ナミさん、すみませんが、そのこと、知らない振りして貰

えませんか? 俺、この関係、壊したくないんです。 お願いします。」

サンジは、そう言ってナミに頭を下げた。

全く、ここにも、激ニブちんがいたわ。

なんで、自分がゾロを見ている瞳とゾロが自分を見ている瞳が、同じだと言うことに気が付か

ないのかしら・・・

見てて、こっちが、イライラしてくるわ・・・

そろそろ、ウソップが、ゾロに言ってるころよね・・・

じゃあ、あたしも、仕上げといきますか・・・

「・・・サンジ君、一つ、良い情報、教えましょうか? ゾロね、あなたのこと、いつも、

見てるわよ。 それも、思い詰めた表情でね・・・ まるで、誰かサンに、敵わぬ恋し

てるみたいにね。 ・・・良かったわね、サンジ君っv」

「それって・・・どういう・・・ナミさん・・・」

「サンジ〜!! おやつ、くれ〜!!」

サンジが、ナミの言葉に、動揺してそう言ったとき、ルフィが、そう叫びながら、キッチンにや

ってきた。

いいタイミングよ、ルフィ。

あとは・・・ゾロが、入ってくるだけ・・・

「どういうって、そう言うことなんじゃない? つまりは、彼も、あなたと同じって事、わ

かった??」

ナミは、そう言うとサンジに軽くウィンクして、キッチンを出ていった。

心なしか、サンジの頬が赤い。

ふふふ。 サンジ君って、本当に、ウブなんだから・・・

ちょっと、惜しいコトしたかしら・・・

まっ、仕方ないわよね・・・

ナミは、その足で、ミカン畑に向かう。

ナミが、ミカン畑についたとき、その後ろを猛然とキッチンに向け、走り出す影が一つ・・・

「がんばんなさいよ・・・未来の大剣豪さん。」

そう呟いて、ナミは、この作戦の最大の功労者であるウソップのところに、蜜柑を一つ、持っ

ていく。

「お疲れさま。 それでこそ、勇敢なる海の戦士よ。 はい。」

ナミは、そう言って、蜜柑をウソップに差し出した。

「・・・・・ナミ。 俺、もう絶対に、お前の甘言には、のらないぞ・・・ 俺、死ぬとこだっ

たんだぞ!! わかってんのか! ナミ・・・」

ウソップは、これ以上無いと言うほどに真っ青な顔をして、泣きながらナミに抗議した。




















「・・・あの二人・・・覚えておきなさいよ。 この借りは、絶対に返して貰うんだか

ら・・・」

ルフィに約束したことを実行するため、巨大な肉をサンジに代わり、料理する羽目になったナ

ミは、自分の策略のミスを悔やんでいた。

あの後、二人は、ようやく、片恋にピリオドを打った。

そして、今日・・・

いつまで経っても、ゾロとサンジは、格納庫から出てこない。

『肉、肉』とうるさく騒ぎ立てるルフィに観念して、ナミが、料理をする羽目になったのだ。

「・・・絶対に、覚えておきなさいよ!!」

そう呟いて、肉を焼くナミの怒りに、ウソップは、恐怖に、おののいた・・・

ゴーイングメリー号に、新たな嵐が、到来しようとしていた。








<END>




<コメント>

5000HIT、ありがとうございます!
これもひとえに、皆様のおかげです。(感涙)
このようなモノを差し上げるのは、とても、勇気がいるのですが、
こんなモノしか書けないのも事実・・・(-_-;)
これからも、日々、精進していきたいと思います。
皆様、本当に、ありがとなり〜vv

この駄文は、DLFです。
お持ち帰りいただける奇特な方は、BBSか、メールにて
事後で結構です。 ご連絡、下さいませ。
後ほど、ご挨拶におじゃまします。
では★これからも、よろしくお願いします!   


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