渇望





渇望



 




・・・・・・・・手に入れる。

手に入れたい・・・・・・。




何度と無く溢れそうになる渇望に、一体どれだけ、この身を焦がしたことか。

何度手を伸ばし、その光り輝く君に触れることを望んだか。

しかし、伸ばし掛けた手の間から零れ落ちるのは、罪深い血・・・血・・・血・・・

おびたただしく禍々しいほどの罪の色。

決して消えることのない染みついた罪の色。

当たり前だと思っていた。

生きていくには仕方ないことだと・・・・・

野望を掴む為だけに、生きてきた・・・・・・・俺の罪・・・。

刀を振るい、人を殺めてきた・・・・・・・俺の罪。

それに気が付いたのは・・・・・君が俺の前に現れてからだった。

君の存在が、俺の影を深くする。

光りが強いほど・・・・影もまた濃くなる。

相反する存在・・・・

決して交わることのない・・・対象。

手に入れたい・・・・

手に入れたい・・・

けど・・・・・・・・・・・・許されない。

君に伸ばそうとする手に赤き罪の色が消えない。

・・・・・・・・・・・・・・・消えては・・・・くれない。

振り向いた君に、手を差し出すことさえ許されない。

その赤き罪の色が消えぬ限り・・・・・・

決して触れることさえ叶わない。




手に入れたい・・・

手に入れたい・・・

手に入れたい・・・




渇望だけが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺をを支配する。














凛とした眼差し・・・

前だけを見据える曇りのない真っ直ぐな瞳。

その瞳を捕らえるのは、誰なんだろうか。

夢だけを追い続ける君の瞳を向けさせる人は、現れるのだろうか。




振り向け・・・

見ろよ・・・・

俺を・・・見てくれ・・・

一瞬でも良い。

その瞳に俺の姿が映るなら。

君の瞳に残るのなら。

その為だけに、俺は・・・・

ここにいる。

気が付いてくれ・・・

気付けよ・・・・

俺を・・・・・・・・見ろ。




渇望が頭を擡げる。

何度その背中に叫びそうになったことか。

しかし、喉まで出かかった叫びは、紫煙と共に呑み込まれ、決して声にはならない。

そこは孤高な戦士の魂のあるところ。

決して常人には飛び越えられない崇高な魂の存在する場所。

手を伸ばせば触れられる・・・しかし・・・

常人である俺には・・・・

決して触れることを許されない・・・聖域。

それでも・・・・・・




振り向け・・・

気付け・・・・

俺を・・・・・・・・見ろ・・・。




渇望だけが俺を呵む。

決して交わることのない、その瞳に・・・・・・

誰かが映ることがあるのだろうか。











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「ん・・? 雪?! そっか、えらく寒くなったと思っていたら、冬島が近いんだな・・・。」

深夜のキッチンで、サンジは一人、窓の外を見上げ、紫煙を揺らす。




・・・・そう言えば、あいつ・・・・・

今夜、見張りじゃなかったか・・・・?




「・・・・・・なんか温かい物でも作って、持って行ってやるか・・・。」

サンジはそう呟くと、ブラックのコーヒーと毛布を持って、キッチンを出た。

緊張してトレーを持つ手が震える。

コツコツと自分の靴音がシンとした甲板に響き、それ以上に、自分の心臓の音がサンジには

うるさく感じられた。

自分の心臓の音をごまかすように、わざとギシギシと音をさせてネットをよじ登る。

その音に気が付いて、見張り台にいる剣士が、顔を出すのではないかと・・・・

自分をその瞳に映してくれるのを、ほんの一瞬だけ期待した。

しかし、剣士はその顔を見せない。

「よっと・・・・」

トレーの中の物を零さないように細心の注意を払い、見張り台に降り立った。

瞳の前の剣士は瞳を閉じたまま、動かない。




・・・・・・・・将がねえ奴。

これじゃあ、見張りの意味が無えだろ。




無防備なその寝顔に、思わず苦笑した。

「おい・・・・・」

そこまで声をかけて、躊躇する。




今、この時を・・・・・もう少しだけ・・・・・




その瞳が開けば、また壁が出来る。

自分には決して踏み込ませない・・・・・・・瞳に見えない壁が・・・。

ゆっくりと一歩一歩、剣士に近づく。

起こさないように息を殺し、そっとその身体に毛布を掛けた。

すぐ傍で聞こえる安らかな寝息。

同じ船で生活しているのに、こんな表情さえ見たことは無かった。

サンジは、フッと柔らかな微笑を浮かべ、剣士の隣りに腰を下ろす。

その瞳に自分を映す事が叶わなくても、こうやって息を感じるほどに傍にいられるこの瞬間

が、サンジには幸せだった。

ふわっと、剣士の緑髪がサンジの頬に触れる。

ドクンとサンジの心臓が撥ねた。

シンと静まり返った闇夜に、雪だけがちらほらと舞い降りる。

ゆったりとした時間が過ぎていった。




・・・・・・・コーヒー、冷めちまったな。

入れ直してくるか。




サンジはゆっくりと腰を上げ、立ち上がる。

ふと、人の気配を感じた。

しかし、振り向いても、剣士が起きた様子は微塵も無い。

「・・・・・気のせいか。」

サンジは、そう呟くと、冷たくなったコーヒーを持ってキッチンに戻って行った。











「・・・・・・・・・ヤバかった。」

ゾロはグッと己の手を握り締め、そう呟く。

見張りに飽きて転寝していたら、暫くして身体を包み込む温かさに気が付いて目が覚めた。

と、同時に、鼻に届く煙草の香り。

まさかと思った。

まさか、あの料理人が自分の傍にいるとは思っても見なかったことで・・・

これは夢だと・・・・・

想いが強すぎて、自分に都合のいい夢を見ているのだと・・・・そう思った。

だから・・・・・・

瞳を開けれなかった。

開ければ、夢は終わってしまうから・・・・




せめて、今だけは・・・・・・




この夢に縋っていたかった。

スッと隣りから立つ気配がした。

思わず、手が出そうになった。

手を伸ばし、自分から去ろうとしている料理人を引き止めようと・・・・・・

身体がほんの少しだけ反応してしまった。

慌てて気配を消して、寝たふりを決め込む。

料理人は感づくことなく去って行った。

ホッとした。




もし、あそこで気が付かれたら・・・・・・

俺には、自分を抑える術が無え。




自分の手を濡らす人には見えない血の色を見つめながら、ゾロはグッと唇を噛む。

ギシギシとネットが揺れる音がした。

料理人が上がってくる。

ゾロはまた深く瞳を閉じた。

己の気配を消して、ただひたすらに料理人の気配だけを追う。

決して悟られないように・・・・・細心の注意を払いながら・・・・。









「オイ! 起きろ!」

サンジはそうゾロに向かって言うと、脚を振り上げる。

「・・・・・・なんだ?」

サンジの踵がゾロの後頭部に落ちる前に、ゾロがそう言って瞳を開けた。

急に開かれた瞳に、サンジは思わず固まってしまう。

「あ、いや、起きているなら良いんだ・・・。 ほら、コーヒーだ。 温まるぜ。」

そう言って、サンジがゾロの前にカップを差し出した。

「わりい・・・・・サンキューな・・・。」

ゾロは、そのカップを受け取ろうと手を伸ばす。

スッとゾロの指先が、サンジの手に触れた。

思わず互いの手を引っ込める。

カップの中のコーヒーが、サンジの手に掛かった。

「うわっ!! アチッ!!」

カシャンと音を立ててカップが床に散らばった。

「大丈夫か?!クソコック!!」

慌ててゾロがその手を捕る。

「あ・・・・・いや・・・・・」

自分の手から伝わるゾロの手の温かさに、サンジは言葉が出てこない。

バクバクと心臓が早鐘のようにうるさくて・・・・・・頭がショートしそうだった。

そっとゾロの表情を盗み見る。

その瞳に映る自分に・・・・・・・・・痛みを忘れた。

「・・・・・悪い。」

サッとゾロがサンジの手を離す。

「・・・・・・・・・・なんで・・・?」

気が付けば、サンジはそう呟いていた。

慌てて口を手で塞いだが、言葉は発した後で・・・・・

離された手が、まるで自分を正面きって排除されたようで・・・・・・心が・・・溢れた。

「っ・・・・・・何が、悪い、んだよ・・・。 そんなに、俺のこと・・・・・嫌いか? 触るのも・・・・」

グッと泣きそうになるのを必死で堪えて、そう言葉をゾロに投げかける。

「違っ・・・!!」

「っ・・・・悪い。 こんな事言うつもりじゃ・・・・・ごめ・・・・っ・・・」

ゾロを見るのも耐え切れなくなったサンジは、ゾロの言葉を最後まで聞かずに背を向けた。

ハラハラとサンジの頬を涙が雫していく。

一旦発露した感情を、サンジは抑える事が出来ないでいた。

「違うんだよ・・・・クソコック・・・。」

ゾロは、サンジの震える背中にそう呟く。

「俺の手は・・・・・・・血を吸い過ぎている。 別に俺は、今までの生き様を後悔しているわけじ

ゃねえ。 けど・・・・・・・・触れられねえ。 この手じゃてめえに・・・・・・触れられねえ。」

ゾロは自嘲気味に笑いを湛え、自分の両手をじっと見つめる。

ボトボトと止め処なくゾロの手から雫していく罪の色。

ゾロの瞳にしか映らない、罪の赤・・・。

発した言葉が震えていた。

「みっともねえ・・・・」

ゾロは奥歯をギリッと噛み締めて、小さな声でそう呟く。

その言葉に、サンジがゆっくりと振り向いた。

聖域が消えてると、サンジは思った。

瞳の前にいるゾロは、いつもの自信満々な飄々とした孤高の剣士ではなくて・・・・・

自分と同じ・・・・・・・・悩み苦しむただの男だと。




今なら・・・・・・・・

ゾロ・・・・・・。




「ばぁ〜か・・・。」

そう言ってサンジが涙を拭い、ゾロに微笑む。

そして・・・・・・・・・・・静かに、ゾロの手に自分の手を重ねた。

「俺は・・・・・・・・好きだぜ?てめえの手。 ・・・・・・・・・・ごつごつして、可愛げなくて・・・・・・

レディと比べ物にならねえ位、汚えのに・・・・・・なんでかなぁ・・・・だから・・・・・・・」

照れくさそうに言ったサンジの言葉に、ゾロは瞳を見張る。

あれほど自分の瞳に映っていた手を雫していた罪の色が薄れていく。

「だから・・・・・・・・てめえは、触れて良いんだ。」

そっと、サンジがゾロの首に腕を廻した。

「その瞳に、俺は映っているか・・?」

真っ直ぐにゾロを見つめて、サンジはゾロにそう問う。

「ああ・・・・・・てめえしか映ってねえ。 初めから・・・・・そう初めからずっと・・・・・てめえだけ

だ。」

ゾロもまた、サンジの瞳を真っ直ぐに見返してそう囁くと、サンジを力強く抱き締めた。

「・・・・上等。」

ゾロの言葉にそう言って、サンジはその唇に口付けを落とす。




触れたかったのは、この身体・・・・・

映したかったのは、この瞳・・・・・




「へへへ・・・・どうだ?キス・・・・なかなか上手いだろ?俺・・・」

そう言って、笑うサンジに・・・・

「さぁな? このくらいじゃわかんねえよ。」

ゾロは、そう言い返して、その唇を自分ので塞いだ。









<END>







 


<コメント>

90000HITありがとうございます♪
そこれもこれも、毎日のように通ってくださる貴方様のおかげです!!<(_ _)>
正直言って、ロロ誕だし・・・すっ飛ばそうと企んでいました。
けど・・・・90000打だけ無いのもなんだかなぁと思い直して・・・(笑)

日記のSSS+追加の書き下ろし。でお茶を濁してごめんなさい。
しかも微妙にサンゾロ臭いし、半端だ・・・(;一_一)
ロロ誕駄文がかなり乙女なサンジなので、ちょっぴり方向修正を兼ねてv(止めろ)

こんなもので宜しければ、どうぞ勝手にお持ちください。
90000打分の感謝を込めてvv
では☆
                                             2003.11.20.

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