今日の良き日に・・・







「・・・・・・行くなよ。」

・・・・・その一言が、言えなくて・・・

ずっと、後悔している。

なんで言えなかったのか・・・?

言ったところで、あいつが留まる事は無い事は百も承知だ。

けど・・・・・・

できる事なら、あの瞬間に戻って・・・・

俺の想いだけでも・・・・・・

あいつに伝えとくべきだった。

 

・・・・・・・・・時間は、戻らない・・・。

 

 

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15年前と同じ、今日・・・。

俺は、まだ一人で生きている。

あいつは、いないのに・・・・・

独り・・・・・・生きていく。


瞳の前を行く子供の金色の頭・・・。

あいつに良く似た、金色の・・・髪。

本当に・・・・・良く似ている。

「あっ、危ない!」

急に、そんな声が俺の耳に飛び込んできて、俺は振り返った。

視界に入ったトラックの姿。

どういうわけか、歩道を歩いてるはずの俺の方へと真っ直ぐに突っ込んでくる。

俺の後ろには、あいつに良く似た髪の子供・・・。

「ばっか野郎! ふざけんな!!」

俺は、慌ててその子を抱えると脇の茂みに飛び込んだ。

トラックは、俺の腕を掠めて電柱に激突して停まった。

頭に何かが当たったような音がする。

なんだか、ぼうっとしてきた。

瞳が・・・・・霞む。

「おじさん!! おじさん!!大丈夫?! ねぇ!!返事して!!おじさん!!」

小さな金色の髪の男の子がそう言って俺を揺する。




ああ、よかった。

どこも怪我してないみたいだな。




俺は、その子の無事を瞳の端に映すと、そのまま意識を失った。





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「・・・・ゾロ、おい、ゾロ。 いい加減、目を覚ませよ。 ったく、毎朝毎朝、しょうがねえ奴。」

俺は、その声に慌てて飛び起きる。

そこには、あいつが・・・・・・サンジが・・・・・・・・・・・・・いた。

「・・・・・・サ・・・・ンジ・・・・?」

俺は驚いて、あいつの顔をマジマジと見る。




嘘じゃねえよな・・・?

本当に・・・・・・サンジだよな・・・?




俺は、頬を抓れなかった。

夢なら夢で、覚めてほしくなかったから・・・。

何度思い描いた事か・・・。

夢でさえ逢えず、何度唇を噛み締めた事か・・・。

それが、今、瞳の前にある。

幻でも良い。

俺にとって、この瞳の前にあるサンジが、現実なら・・・

それ以上、望まない。

「なに、いつまでもぼーっとしてんだよ? ほら、起きたなら、さっさと顔を洗って来いよ。 

朝飯が冷めちゃうだろ・・・。」

そう言って、15年前のままのあいつがにっこりと笑う。

「あ・・・ああ。」

そう言って俺はベッドから洗面所に向かう。

鏡に映っているのは、15年前の俺・・・。

いつの間にか、15年前の景色が俺の前には広がっていて・・・

ふと、壁に掛かったカレンダーを見た。

・・・・・・・・・・19××年8月。




確か、今年は、20××年の8月の筈・・・。

日にち迄は定かじゃないが、いくら俺でも、年月ぐらいは知っている。




これは一体どういう・・・?

まぁ、良いか・・・。

例えこれが、神の悪戯や悪魔の気まぐれだとしても・・・

これ以上の望みは他に無いのだから・・・。




俺は顔を洗い、食卓についてサンジと食事をする。

15年ぶりの・・・・・サンジと共にする食事。

「なぁ、サンジ。 今日、何日だ?」

「んあ? 馬鹿だろ、てめえ。 もう日にちも忘れやがったのか? 今日は、31日だよ!

31日! あ、俺、今日、午前中、講義が入ってるから。 俺、そろそろ行くな? ちゃんとシン

クに片付けとけよ。」

15年前と同じ・・・俺の言葉にサンジはそう言って、食べ終わった皿をシンクに持っていった。

違うのは、俺がそう言ったのが、二度目だってこと・・・。




後・・・・2時間・・・。




二時間後に、サンジの母国ではクーデターが起こり、大学に母国からの使者が来る。







『国王が重態の今、唯一の王位後継者であるサンジ王子にすぐお戻りいただいて、忠実な

る国王軍の指揮を・・・!! 国民は、クーデターなど認めてはおりません。 皆、サンジ殿下

をお待ち申し上げているのです。 さあ、私と共にご帰国の準備を!!』

その使者達は、俺とサンジにそう言った・・・・15年前の今日・・・。

俺とサンジは、あまりの出来事に言葉を失って、冷静に判断できなかった。

サンジは、その使者の言葉を鵜呑みにして、絶対に戻ってくるからと俺に言い残して、使者

とともに、国に戻って行った。

俺は、なんだか胸騒ぎが押さえ切れなくて、何度も行くなと言い掛けたけど、サンジの立場

と気持ちを考えると言えなかった。

『必ず、戻って来いよ。』

そう俺の言った言葉に、

『当然だ。 まだ、在学中だしな・・・。』

サンジは、そう言ってにっこりと笑った。

けど、実際は・・・・・・・クーデターの首謀者によるサンジの身柄を捕獲するのが目的で・・・・。

クーデターの首謀者に捕らわれたサンジは、王宮の開場と国王の命との取引に使われ、

それを王国側に拒否させる為、自らの命を絶った。

その一件がきっかけで、民衆がクーデター軍に一斉に蜂起して、あっという間にクーデター軍

は全滅。

王国は、元の治安の良い国に戻った。

重態だった国王も持ち直し、王国は、クーデターが起こる前と同じ・・・・。

違うのは、自分の身を犠牲にし、国を救った愛すべき王子を埋葬するために、王宮から神殿

まで延々と続く正装した人々の列が連なったのと、あいつが俺の傍にいないこと。




・・・・・・・・俺の知らない土地で・・・・・・

勝手に・・・・・・・俺の前から姿を消した・・・・永遠に・・・。

ふざけんなよ・・・・笑ってる場合かよ・・・。




埋葬されるあいつは、ラナンキュラトスの花で周りを囲まれて、微笑んでいた。

『死の瞬間まで国を愛し、その国のため、殉死したサンジ王子の・・・』

と神官が沈痛な面持ちで読み上げる。

俺は、何故だか泣けなかった。

泣いたら、何かが終わっちまいそうで・・・・・・・泣けなかった。




せめて・・・・・・・自分の想いだけでも、あいつに伝えておくべきだった。

こんな事になるのならば・・・・・・。













「あ、サンジ。 今日は、俺に付き合ってくれないか・・・? 話があるんだ・・・。」

俺は、ドアノブに手をかけたサンジにそう言って、腕をとる。

「あ? なんだよ、いきなり・・・。 話なら帰ってきてからでも良いだろ? 今日は、ナミさんと

同じ講義なんだぜ? 外すわけには・・・」

「・・・・・サンジ、頼む。 今日だけで良い。 今日だけ、俺に付き合ってくれ。」

さも不満そうな口ぶりのサンジに俺はなおも食い下がる。

ここで引くわけにはいかなかった。




もう二度と、あんな想いはごめんだ・・・。




「・・・・・・・頼む。」

「・・・・・ったくもう、なんだってんだよ・・・。 わかったよ、良いか?しょうもねえ話だったら即

オロすからな・・・?」

頭を下げた俺に、サンジは呆れたようにそう言って、大学に行くのを止めた。

「・・・・・じゃあ・・・・・どっか行く・・・・・・・」

「サンジ殿下!!」

俺の言葉を遮るように、男が部屋に入ってくる。

そして、15年前と同じ言葉を俺達に言った。




嘘だろ・・・・・?

・・・・・・・・・・なんで、だ?




場所も時間も違うのに、状況は15年前となんら変わらない。

そんな馬鹿な・・・・俺がどう足掻こうが、運命は変わらないって言うのか?




・・・・・・じゃあ、俺は、何の為にここに戻ってきた・・?

もう一度、あの絶望を俺に味わえと言うのか・・・・?




「行くな!! サンジ、行くな!! これは罠だ!! こいつにお前は騙されてるんだ!!」

「殿下!! 事は一刻を争うのです! 国民は、貴方様のお戻りをお待ちしているのです! 

さっ、私と一緒にお戻りを・・!!」

俺と使者の話を交互に聞いて、サンジはふぅーっと深い溜息を吐く。

「・・・・ゾロ、俺には、こいつが嘘を吐いてる様には思えねえ。 それに、国が憂いでいるのな

ら、俺は、王子としての責任を全うするにも戻らなくてはならねえんだ。 俺は、俺である前

に、王子なのだから・・・。」

「行ったらダメだ!! 行ったらお前は・・・!!」

俺の言いよどんだ言葉に、サンジはヒクッと眉を上げた。

「ゾロ!! これは、俺の運命。 例え、この先どうなろうが、これは俺の問題なんだ。 

てめえには、関係ねえ!! さぁ、そこを退くんだ。 俺は、国へ帰る。」

サンジは今まで見たことも無いほどの真剣な瞳で俺を見た。

「クク・・・わりい、わりい。 心配するなって! 俺は戻ってくるからさ・・・。」

そう言ってごまかすように苦笑しながらポンと俺の肩を叩き、使者とともに部屋を出ようとする

サンジ。




・・・・・・俺は、結局、こいつを止められないんだな・・・。

ならば、せめて・・・・・




「・・・・・・・行くなよ・・・・・好きなんだ。 もう・・・・二度と失いたくないんだ。 ・・・・・・サンジ、

好きだ・・・・・。」

俺は、サンジとすれ違いざまにそう呟く。

ピタリとあいつの足が止まった。

「ばぁか・・・・・遅えんだよ。 そんなの・・・・・・とっくに知ってる。 俺も・・・・・同じ気持ち

さ・・・。 長生きしろよ・・・・。」

サンジはそう言って俺を見て笑うと、そっと唇に触れる。

「じゃあな、ゾロ・・・・・またな・・・。」

その言葉を最後に、サンジは部屋を出て行った。




まだだ・・・・・・・・まだ・・・・・・終わっちゃいない。

少しだけど・・・・少しだけど、変わってるじゃないか・・・。

まだ・・・・・・終わったわけじゃない。




俺はサンジの後を追って、空港へと向かう。

そして、なんとか専用機に乗り込むと、気付かれないようにサンジ達の様子を窺った。

王国に着くと、案の定、サンジはクーデターの首謀者に引き渡される。

首謀者は、サンジを拘束すると、早速、国王側に交換条件を持ち出した。

国王は、即答を避け、交渉は翌日に持ち越される。

サンジは翌日まで、部屋に監禁される事になった。




その夜・・・。

「ハハハ・・・・やっぱ、こうなっちまう運命なんだな・・・。 俺の死が、国を救う・・・か。 まぁ、

救いは、あいつを巻き添えにしなかった事・・・。 あんな想いは二度とごめんだからな・・・。

それだけでも・・・・・変えられて良かった・・・。 さてと・・・・・」

サンジはそう呟くと、隠し持っていたナイフを取り出した。

「んじゃあな、ゾロ・・・・・俺を恨むなよ。」

そう言ってナイフを首に向けた瞬間、ドカッと部屋のドアが開く。

「ハァハァ・・・・・なんとか、間に合ったみたいだな・・・。」

途中、クーデター軍に見つかりながらも、俺は、なんとかサンジの部屋にたどり着いた。

「な・・・・・・んで・・・・・・・ゾロ・・・・?」

呆然として、俺を見つめるサンジ。

その手に握られたナイフを、俺は直ぐに取り上げて、その痩躯を抱きしめる。

「死ぬな!! 定められた運命なんか、そんなものありはしない! あったとしても、俺は最

後まで諦めない!」

「ばっか野郎!! 何しに来たんだよ!! てめえが来たら・・・・俺は、また・・・・・・・ま

た・・・・・冗談じゃねえ!! 俺は、二度とあんな想いはごめんだ! すぐにここを出ろ! 早

く・・・・頼むから・・・・早く出て行ってくれ・・・・。」

サンジはそう叫んで、やみくもに暴れて俺から離れたがる。




・・・・・・また・・・・・?

あんな想い・・・?

何言ってんだ、こいつ・・・。




「嫌だ! 俺は、離れない。 例えここで死んだとしても、俺はお前と離れない。」

俺は、暴れるサンジの身体を抱きしめる腕に力を込めた。

「ふざけんな! 俺がこの後の15年・・・どんな気持ちで・・・・・・気持ちで・・・・・」

サンジは、そう呟くとポロポロと涙を流す。

「「もう、二度とごめんなんだよ!! お前(てめえ)を失うのは・・・!!」」

叫んだ言葉は、同じだった。

「・・・・・・もしかして・・・俺達、同じ・・・・」

「ああ、そうみたいだな。 誰の悪戯かは知らないが、少しずつ運命の輪は解けてる。 いつ

までも同じ事にはならないって事だ。 なら、俺達がやることは一つ。 絶対に、生き抜いて

やる!」

俺の言葉に、サンジは無言で頷く。

俺もサンジも実戦で闘うって事は知らないし、したことはない。

けど、今、それしか運命を断ち切るものが無いなら、例え死神が立ちはだかろうとも、俺は

絶対に負けない。

一人でダメなら・・・・二人・・・。

こいつと二人なら・・・・・・・・絶対に・・・・断ち切ってみせる。

メビウスに魅入られた自分達の未来を・・・。

その部屋に飾ってあった本物の刀剣を手に携えて、俺はサンジとともに部屋を出た。

ドォーンという物凄い砲撃音がしたかと思ったら、邸内は一気に騒然となる。

俺とサンジは何度も危ない目に遭ったが、なんとか屋敷の外に出られた。

「殿下!!ご無事で!!」

そう言って、俺達に近づいてくる人影が一つ。

それは、サンジが最も慕うジイだった。

「あっ、ジイ!! ジイじゃねえか! 無事だったんだな?」

「殿下も、よくご無事で・・・・我等、殿下が捕まったと聞き、いても立ってもいられずに、少数

精鋭で奇襲をかけることに・・・。 良かった・・・本当に、よございました!!」

サンジの手を捕り、ジイはそう言って涙を流し、再会を喜んだ。

その再会に気をとられていて、俺達はもう一つの陰に気が付かなかった。

「くそう!! 死ね!! サンジ王子!!」

そう叫んで暗闇からクーデターの首謀者が、剣を振りかざして現れる。

「クッ!! 危ない!!サンジ・・・・!!」

剣を振るう暇も無かった。

ただ、あいつを守らなくちゃって・・・・

それだけしか考えられなくて・・・・・

気がついたら、あいつの前に立っていた。

胸から背中にかけて、火がついたような痛みが襲う。




周りがやけに、静かだ。

ん・・・?

サンジがなんか叫んでる・・?

なんだよ・・・・・良く聞こえない・・・。

泣くなよ・・・・・泣くな・・・・・・・・・サンジ・・・・。










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気が付くと、俺は病院のベッドに寝かされていた。

どうやら、植木鉢に頭をぶつけて気を失っていたらしい。

しかし、子供助けて、自分が病院行きだなんて・・・・・

「・・・・・・格好悪・・・。」

俺はそう呟いて、身体を起こした。

「本当、まったくだ。 超格好悪いな、てめえは、よ・・・。」

俺は、その声にハッとして顔を上げる。

「・・・・・・サンジ・・・。」

「な、なんだよ、そんなに驚いた顔をして・・・・また寝惚けてんのか? さっき、CTスキャンし

て貰ったんだが、もう一度して貰うか?」

驚いた俺を見て、サンジがそう言ってにやりと笑った。

「本当、これで三度目なんだからな!! 二度と味わいたくねえって言っただろが!! 

本当、あの時と同じ無茶ばかりしやがって・・・・・・・・・もう・・・・・・またかと・・・・・・・思っちま

っただろうが!!」

サンジはそう言って俺の首に腕を回す。

サンジの腕が微かに震えていた。

「・・・・・・・わりい、また心配掛けた。」

俺はそう言ってサンジを抱き締める。

ふわっとラナンキュラトスの香りがした。

その香りに誘われる様に、俺の中に記憶が書き換えられていく。

サンジを失くした15年間が・・・・・・・サンジと共に歩んだ15年間に・・・。

そう・・・・・・・俺達は、取り返した。

気まぐれな天使のささやかな悪戯か・・・はたまた気の良い悪魔の戯れか・・・・。

どちらにしても、人生まんざら捨てたもんじゃない。

こいつと過ごす、今日の良き日に・・・・感謝・・・。








<END>


 

 


<コメント>

気が付けば一年経ってますね・・・どうしちゃったんでしょ?(ってオイ!)
一年前は本当にヘボヘボNo.1サイトで皆様にご迷惑を掛け通し・・・
一年でたくさんの方々にお目にかかれ、お付き合い頂きました!
本当に感謝の気持ちで一杯です!
どうも、ありがとうございますvv
っで、こんな訳のわからないパラレルでお目汚しすいません。(;一_一)
一年経っても、こんなものしか書けないんですが、
祝一周年vv 皆様に感謝の気持ちを込めてvv
こんなものでよろしければ、どうぞ勝手にお持ち下さい。
                                         2003.08.31.



<きかく>